第十六話 お股を膨らませたままなのはどうかと思いますわよ
さて、大変なことになってきたぞ。アカネさんの意表を突いた命令のお陰で、俺もとうとう大人の階段を昇る時がやってきたみたいだ。だが、本当にそれでいいのか。順番さえ間違えなければ何も問題なはいというのか。いや待てよ、彼女たちは子作りと言うが、子供が出来るかどうかなんて確証があるわけがない。つまりこれで正妻のユキさんより先に、例えばアカネさんやサトさんが子を宿したとしたらどうなるんだ。
「皆、本当にいいの?」
俺のこの問いに対して四人ともこっくりと頷いてくれた。しかし、若気の至りで欲望に身を任せてしまったら、結果的に大切な彼女たちを傷つけることになってしまうのではないだろうか。
「いや、やっぱりダメだよ」
「何故なんですか?」
ユキさんとアカネさんがにじり寄るような感じで迫ってきた。これがユキさんだけだったら、俺も迷うことはなかったと思う。確かにアカネさんは二番目であることを自覚しているし、サトさんもカシワバラさんも序列については理解してくれているのだろう。だが……
「皆ごめん、俺にはまだ君たちに順番を付けるなんて出来ないんだよ」
頭では分かっているし、気持ちも間違いなくユキさんが一番だ。ただ今の俺に決められるのはそこまでなのである。ユキさん一人ならためらいなく抱ける。ところがその後でアカネさんやサトさん、カシワバラさんを続けて抱けるかと言うと自信がないのだ。
「私たちが納得しているのに、ですか?」
「ユキさん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「はい……は、はい?」
俺はおもむろにユキさんの手を引いて、そのまま彼女を抱きしめた。むろん一瞬驚いたようだったが、抵抗されることはなかった。
「ありがとう」
「先輩……」
彼女に回した腕を緩めると、名残惜しそうではあったが大人しく離れてくれた。そして次に俺が取った行動、それは……
「きゃっ!」
急に腕を引かれ不意をつかれた形になったアカネさんは、バランスを保てないまま俺の胸に飛び込んできた。彼女は慌てながらも嬉しそうな顔を見せていたが、つい数秒前までそこにいたユキさんはショックを隠しきれないという表情だ。サトさんもカシワバラさんも、目の前で起きていることが呑み込みきれないでいる。
「ユキさん、どんな気持ち?」
俺はアカネさんを放して座らせると、目を伏せたユキさんに尋ねた。
「どんなって……」
「サトさん、おいで」
「え……あ、あの……」
今度は少し離れた位置にいたサトさんの方を向いて、同様に腕を引いて抱きしめた。
「カシワバラさんもこっちに」
どうやらカシワバラさんは俺の意図に気付いてくれたようだ。抵抗することなく、俺に軽く体を預けるような感じで寄ってきてくれた。
「アカネさんは何か思うことはない?」
「……や……です……」
「うん? ユキさん、聞こえない」
「いや……です……」
「いや? 何が?」
「だって……だって……」
両腕の力を緩めてサトさんとカシワバラさんを放した俺は、涙を必死に堪えて拳を握り締めているユキさんの手を握る。
「だって……たった今まで私がそこにいたのに……」
「わ、私も何だか泣きそうです……」
アカネさんは心の葛藤だ。自分はユキさんの次だということは分かっているが、その後のことまでは気持ちがついていけないのだろう。
サトさんにしてもカシワバラさんにしても、自分たちのせいで二人が心を乱されたことに負い目を感じているようである。
「俺は四人とも大好きだし大切に想ってる。それは間違いないと断言するよ。だけど、だからこそ皆を傷つけるようなことはしたくないんだ」
「まさか先輩……?」
「ご主人さま、私たちをお嫁さんにしてくれるのをやめるなんて……」
「いやいや、それはないよ。でもそれとこれとは別でね、今の俺には上手に皆をまとめるなんてことが出来ないからさ。もう少し時間をくれないかなって言いたいんだよ」
「コムロ様……」
「コムロさん……」
本当に皆いい子たちだと思う。俺の真意をちゃんと分かってくれたみたいだ。ユキさんとアカネさんの目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、そこにはもう悲しみの色は残っていなかった。
「先輩の優しさが身にしみました。私たちが間違っていたみたいです。何を焦っていたのでしょうね」
ユキさんの言葉に、他の三人もクスクスと笑い出した。よかった、これで一件落着だ。そう思った矢先、俺は何となく注がれる冷ややかな視線に気がついて背筋に悪寒が走るのを感じた。しまった、一人忘れていたよ。
「ヒコザ様の名奉行ぶり、感服いたしましたわ。けれどそのお姿でお股を膨らませたままなのはどうかと思いますわよ」
姫君、台無しですってば。だって仕方ないじゃん。皆を抱きしめた時にいい香りはするわ柔らかいわで、軽く昇天しそうになったくらいなんだから。我ながらよく耐えたと思うよ。ズボンを脱がされたままなのだって本意じゃないし。
そんな気も知らず、再び皆の視線が俺の股間に注がれたのは言うまでもないことだろう。




