第十二話 今夜はゆっくり皆で語り合いましょう
「それは災難でしたね」
宿に戻った俺たちはその日の顛末を宿屋の女将に話した。女将は暑い夏にも関わらず、きちんと着物を着て俺たちを迎えてくれていたのである。
「まあ災難とは言っても亡霊が成仏出来たのならそれはそれでよかったと思います」
俺はアザイ家の人たちの冥福を祈りながら、そんな言葉を返した。
「死者を成仏させると大きな功徳があると聞いたことがありますよ」
「そうなんですか? じゃあこれも功徳なのかな」
「まあ! それは!」
そう言って女将にカイホウさんから貰った青色水晶を見せると、大きな声で驚かれた。
「この地に伝わるアザイ家の秘宝ではありませんか? 一体それをどこで……?」
女将曰く、かつてオダに滅ぼされたアザイ家に仕えていた人が、この地のどこかに財宝を隠したとの言い伝えがあるそうだ。そのお宝の一つに青色水晶が含まれていたとかいなかったとか。
「あはは、気付いたら手許にあったんですよ」
「ではあの朽ちた建物の周辺を探せば……早速アザイ家の財宝探しとして催しを企画しましょうか」
「それはやめた方がいいと思いますよ」
「では心霊体験として……」
肝試しキャンペーンでもやろうということか。そんなことをしたらせっかく成仏したアザイ家の人たちも、おちおち永眠っていられないのではないだろうか。
「女将、商売っ気が旺盛なのはいいと思いますけど、出来ればあそこはこのままそっとしておいて頂けませんか? それに俺たちはアザイ家の土地に立ち入りを許されて入りましたが、許可なく立ち入ったら祟られるかも知れませんよ」
滅亡したとは言え他人、というか他国の領地に無断で立ち入るのは避けた方がいいだろう。
「そ、それもそうですね」
女将は苦笑いしながら奥へと下がっていった。
「それじゃ俺たちも部屋に戻ろうか」
「ヒコザ先輩、ヒコザ先輩」
部屋に戻りかけた俺のシャツの裾をユキさんがクイクイと引っ張る。それ、なんか可愛いったらしいよ。
「ん? どうしたの?」
「あの……こ、今夜は先輩のお部屋に……」
「へ?」
何と大胆な発言を。てか、そういうのは皆に聞こえるようにじゃなく、こっそり耳元で言われた方が嬉しいんだけど。
「だめ……ですか?」
「いや、だめって言うか……」
「も、もちろん私だけじゃなくて、皆一緒にですよ」
「はひ?」
鼻水出るところだった。
「アザイ家の方々も敵の忍者も、もう成仏したというのは分かってるんですがやっぱり怖いんですぅ」
裾を掴んだまま涙目で訴えてくるユキさんがとんでもなく可愛い。まあそれは置いておくとして、事情は分かったけどそもそも俺の部屋は二人部屋だ。人数的に女の子四人と男は俺一人なのでそこを単独で使っているだけで、広さは布団を三組並べるのがやっとである。そうなるとおそらく俺は真ん中に寝ることになるはずだ。その状況下なら両サイドのユキさんやアカネさんは元より、サトさんもカシワバラさんも詰めてくるに違いない。普通なら天国と喜ぶべきところだが、さすがにそれじゃ俺が寝られないよ。
「ん? あれ? 四人だよね……」
疲れているのだろうか、ふと女の子が五人に見えたんだけど気のせいだよね。
「一、二、三、四……五人……」
「こんばんは、先ほどは救けて頂いてありがとうございました」
「ひ、ひひ、姫君?」
驚いたことにこの世の女の子四人の後ろから挨拶してきたのは、成仏したはずのアザイ家の姫君だった。
「改めまして、私の名はアザイ・ウイと申します。祟ったり呪ったりするつもりはありませんので、どうか仲良くして下さいね」
そう言ってにっこり笑う姫君。彼女の声に真っ青になりながら振り向いた俺の未来の妻たちは、揃ってその場にへたり込んでしまった。姫君が強く望んだのってこのことだったのか。
ところでアザイの姫君は俺から見たらかなりの美少女だ。透き通るような肌、いや、実際少し透けて見えるのは気のせいだと思いたいが、この人も生きていたら嫁にしたいくらいである。でも亡くなってからかなり経っているということは、少女と呼ぶのは無理があるかな。
「そんなことありませんわ。私は十六で死んだので永遠に十六歳なんです」
それ、どこかで聞いたことがあるフレーズだ。
「もしかして心が読めるんですか?」
「よ、読めませんわよ。勘、そう、勘が鋭いだけですわ」
「怪しい……」
「幽霊ですもの」
「いや、そう言うことではなく」
「うふふ。実を言うと私に向けられた念は読み取ることが出来ますの。ですからお嬢さん方が私を怖がっていらっしゃるのは痛いほど伝わってまいります。でもどうか怖がらないで下さい。私は皆さんに危害を加えるつもりはありませんし、お友達になりたいと思ってますのよ」
「おとも……だち……?」
「はい。生前は立場上お友達を作ることが出来ませんでしたので」
そうか、この人はアザイ家、つまり王族の姫君だったのだ。きっとほとんど自由がなかったのだろう。少し悲しげな瞳を見て、俺は彼女に憐れみを覚えた。
「それに皆さん、こちらのヒコザ様とご婚約なさっていらっしゃるのでしょう? 私も先ほど嫁にしたいと思って頂けたので仲間ですわよ」
「へ?」
いや、いやいやいや、ちょっと待って下さいお姫様。確かにそう思いましたけど、それはあくまで生きていたらという前提ですから。
ところがこの姫君の発言で女の子四人の顔色が変わった。今の君たち、姫君の霊よりよっぽど怖いよ。
「ヒコザ先輩、それにウイ姫様、今夜はゆっくり皆で語り合いましょう」
あ、これ正座させられるパターンだ。その時俺は、この日一番の恐怖を感じずにはいられなかった。




