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第六話 それでご相談の向きは?

「あのお客様、よろしいでしょうか」


 翌日俺の部屋に皆が集まって朝食を摂っていると、宿の仲居さんが扉を開けて入ってきた。


「どうしたんですか?」


 出し忘れたメニューでもあったのかな、くらいに考えていた一同は誰一人箸を止める者がいない。朝食の後は早速皆で海水浴を楽しむ予定で、気持ちはすでに海の方に向いていたからである。さっさと食事を済ませて遊びに行きたいのだ。


「それが、隣のお屋敷からお客様がお見えで」


 俺が振り向きもせず発した言葉に、仲居さんが困惑気味に応える。


「お客? 俺たちにですか?」

「はい……」


 隣の屋敷と言えば、昨日海岸を散歩しているときに見たあの建物のことだろう。何か迷惑でもかけたのかな。でも昨日は近くまでは行ったが、特に敷地内に立ち入ったとかそういうことはしていないはずだ。それに騒がしくしていた覚えもない。


「何の用です、こんな朝早くから。こちらが迷惑でもかけたのなら別ですが、今は食事中だと伝えて帰ってもらって下さい」

「それがそうお伝えしたのですが、食事が終わるまで待つからと……どうしてもタノクラのお嬢様にご相談があると言われて……」


 仲居さんの話だと、訪ねてきたのは初老の執事っぽい紳士だということだった。執事っぽいと見えたのは、その人がきっちりとした燕尾服(えんびふく)を着ていたからだそうだ。


 その執事さんが昨日の夕方、海岸を散歩していた俺たちを見かけてこの宿の宿泊客だと考えたらしい。それは間違っていないのだが、泊まっているのは誰かと聞かれたのでタノクラ男爵令嬢以下四人と応えたそうだ。宿泊客の身分を明かすなんてコンプライアンス的にどうよと思ったが、気がついたら話していたとかでそこは土下座して謝られた。


「私に、ですか?」


 ユキさんが狐につままれたような表情を見せる。


「はい」

「ヒコザ先輩、どうしましょう」


 ユキさんに話を聞かなければいけない義務はない。だが非常識とも言えるこんな朝っぱらから、身なりの整った紳士が訪ねてくるというからにはよほどのことがあるのかも知れない。せっかくの遊ぶ時間が削られるのは不本意だったが、手短に話を聞くくらいはしてもバチは当たらないだろう。


「とりあえず食事が終わったら話だけでも聞いてみようか」

「そうですね。わざわざ訪ねてきてくれたんですし」

「では仲居さん、食事が済んだら行くと伝えて待っててもらって下さい」

「かしこまりました」


 そう言うと仲居さんは深く一礼して部屋を出て行った。




 約束通り食事を終えてからロビーに降りると、仲居さんの言っていた執事っぽい男性が直立不動の姿勢で待っていた。あれから三十分くらい経ってるけど、ずっとああして立っていたのかな。だとすると少し申し訳ない気もするよ。


「お待たせしました。タノクラの娘のユキと申します」

「お呼び立てして申し訳ありません。私は隣にあるアザイ家の屋敷で家令(かれい)を務めております、カイホウ・ツナチカと申します」

「それで、ご相談があるとお聞きしましたが?」


 この辺りはさすが男爵家令嬢である。ユキさんは堂々と執事、カイホウさんの正面に立って背筋をピンと張っていた。彼女が帯刀しているのは、何かあるといけないということで俺が勧めたからだ。


 ちなみに今、ユキさんは濃紺の涼しげなワンピースを着ている。その後ろに俺を含めた四人が控えているといった感じだった。それにしてもアザイという家名、どこかで聞いたような覚えがあるが思い出せない。


「はい、実はご令嬢が名高い女流剣士と聞き及びましたもので」


 ユキさんの剣術が優れていることは百も承知だが、名高いというのは聞いたことがないぞ。


「それほど有名になった覚えはありませんが、どなたかと勘違いされておいでではありませんか?」

「いえ、チカコ様からお教え頂いたので間違いはないと存じます」


 チカコ様というのはユキさんのお母さんの名前だ。どうでもいいが自分の娘を名高い剣士と言うなんて、あのお母さんらしいと言えばそれまでだが。


「母上からですか。それでご相談の向きは?」

「はい、実は……」


 自分の素性の問答に時間をかけても仕方がないと考えたのだろう。ユキさんは早々に用件を聞くことにしたようだ。それを察してなのか、カイホウさんは分かりやすく簡潔に相談の内容を語ってくれた。それによるとあの屋敷が建てられて間もなくの頃、突如現れた盗賊にアザイ家の姫君が(さら)われてしまったそうだ。今から一カ月ほど前のことらしい。


「姫君はご無事なのですか?」


 ユキさんは沈痛な面持(おもも)ちで攫われたという姫君の身を気遣っている。


「それは問題ございません。ただ……」


 盗賊は姫君の身と引き換えに、家宝の一つである青色水晶を要求してきたそうだ。何と卑劣な。


 カイホウさんは盗賊が要求してきたという問題の水晶についても語ってくれた。大きさは大人の拳ほどでさほど大きいとは言えないが、透明度が非常に高い天然水晶だそうだ。そしてそれを月明かりに照らすとアザイ家の紋章が浮かび上がる細工が施されているらしい。相談とは可能な限り家宝を渡さずに、攫われた姫君を奪還してほしいということだった。ただし姫君の安全が最優先であることは言うまでもない。


「その紋章とはどんなものなんですか?」

「三つ盛亀甲(もりきっこう)花角(はなすみ)、こちらです」


 そう言ってカイホウさんは燕尾服の内ポケットの辺りを見せてくれた。そこには三つの六角形の中に、それぞれ菱形の花が描かれた凝った感じの紋章が刺繍(ししゅう)されていた。


「お話しは分かりましたが、なぜ警察に任せないのです?」


 ユキさんの疑問は至極当然である。盗賊なら警察や軍に対処してもらうのが筋というものだ。だが、カイホウさんは困惑気味にそれが出来ない理由を話すのだった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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ストックはすでに五話ほどあります。

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