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58 緑色とか、オレンジ色だそうです

間が空いてしまい、すいません。

 目覚めた夏帆はスマホへと手を伸ばし、時間を確認して驚いた。

 閉められたカーテンからは明かりが差し込み……ピチュピチュと小鳥の鳴き交わす声が聞こえる。実にさわやかな朝だ。時刻は朝の7時を過ぎていた。


 結局、少し眠るだけのつもりだったのに、夏帆は起きれなかった。

 貴重な休日を夕方からとはいえ寝過ごしてしまったのだ。寝不足とはいえ、自分が情けなくなり、布団から出した頭をずるずると引っ込め、溜息をひとつついた。


(もう……テオさんたちが居るのだってあと少し、なのに)


 ただの隣人だと思っていた頃は良かったけれど、今は違うと知っている。戻ってしまえば遠い異世界の住人なのだ。

 顔を合わせて話すことは出来ても、隣に並んで同じ道を歩くことは出来ない。一緒のテーブルで食事をすることだってもちろん無理だ。

 それに……唯一の繋がりとも言えるあの穴だって、不安定なものでいつ消えてもおかしくないという。


 少し憂鬱な気分になりつつ、夏帆は手にしたスマホの電池残量をチェックする。


(わ……15%だ)


 田舎で電波が無い為、電池消費がとても早いのに充電しないで寝てしまった。

 そして、画面下に表示された不在着信に気付いて首を傾げる。


(これ、何の番号だろう……?)


 昨日の夜7時。着信は短い時間で二回連続だ。

 今日は31日、大晦日……そこまで考えてはっと思い至る。


「……あ、カニさん」


 そう。年越しにカニ鍋をしようという父の提案により、夏帆がカニを手配したのだ。

 保管に困るので、前日受け取りに日付指定をしていた。

 人形作りのせいですっかり忘れていたが、もう今年も今日で終わりなのだ。

 

 しかし、代金引換でもないのに何故不在着信が……と考え、夏帆は慌ててメールボックスを調べ……がっくりと肩を落とした。


「お届け先変更、忘れちゃってた」


◇◇◇


「すいません、テオさん。毎回毎回……」

「ううん。オレはこうやって一緒に出掛けるの楽しいし」


 ハンドルを握り、申し訳なさそうに謝る夏帆にテオは笑って手を横に振った。


「カホちゃんこそ大丈夫? すごく疲れてるんじゃない?」

「もう大丈夫です。不本意ながら、たくさん寝ちゃったので」


 普段は両親と夏帆、兄夫婦に次郎吉だけだが……今年は違う。

 よく食べる異世界人2人が居るのだ。父との会議の結果、カニは2キロ手配することとなった。余れば冷凍すると母は呑気に言っていたが、絶対に余らないと夏帆は予想している。


 当初、一人でアパートまで受け取りに戻ろうとしたのだが……母が次郎吉に「テオくん貸して」と電話をかけたのだ。

 荷物持テオくんちもいるし、帰りがけにこれもよろしくねと、買い物メモまでちゃっかりと渡してきた母に見送られたのだった。


「テオさんの所にもカニが居るんですね」

「そう。食べたことはないけどね。外殻が固くて、食べてみようという発想が無かったよ」


 緑色とか、オレンジ色をしていて、全長は2メートル近いと説明をされた夏帆はブルリと身震いをした。


「しかもね、なかなか凶暴で。海辺の町に時折出るから、退治ならしたことあるんだけどね」

「そ、それってもうカニとは違います……ね」


 さすが異世界と、夏帆は頷く。


「でも、今回食べてみて美味しかったら……食べてみようかな」

「……お腹壊しちゃいそうですね」


◇◇◇


「おじゃましまーす」

「はい、どうぞ」


 久しぶり……でもないけれど、それでもここに訪れるのはテオにとって、久しぶりのような気がした。

 狭い玄関は、テオと夏帆の靴が並ぶともういっぱいだ。


「テオさん、どうぞ。暖まるまでにちょっとかかりますけど」


 先に上がった夏帆は炬燵の電源を入れて、クッションを勧めてくれた。

 お言葉に甘え、可愛らしい柄のクッションを下に敷き、炬燵に足を入れる。


「私は、宅配屋さんに電話してきますね」

 

 夏帆は断りを入れてから、不在票を手に隣のリビングへと移動した。


(あ、クロの写真が飾ってある)


 前は気付かなかった。そう思って何気なく部屋を見渡すと、棚の上に重ねて置いてあるミニタオルが目に留まる。平田家でも同様に置かれているそれは、彼女が実家を出ても同じよう暮らしている証拠で、なんだか微笑ましい。


「テオさん、お待たせしました!」

「大丈夫だよ。どうだった?」

「丁度、近くを配達中らしくってすぐ来れるそうです」

「そうなんだ。タイミングが良かったね」


 嬉しそうな夏帆に、自然とテオの頬も緩む。

 テオと同じく、炬燵に入ろうとしかけた夏帆の動きが止まる。彼女の顔は戸惑いを浮かべていた。


「どうしたの?」

「なんか、クロゼットの方から音がしませんか?」


 その言葉に、テオは眉を顰めてすっと立ち上がる。

 この部屋に入った時にはしっかりと鍵がかかっていた。

 誰かが潜んでいるとは思い難いが……クロゼットの奥には、テオの部屋があるのだ。そちらの扉はこの前壊れたが、壊した当のロディがきっちりと修繕しておくと言っていたのだから問題はないと思うが、万が一ということもある。


 テオは夏帆に下がるように腕で合図し……一気にクロゼットを開け放った。

キリの悪い所で切ってしまってごめんなさい。


次話、赤色のカニさん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新通知に気づいた瞬間、慌てて読みに来ました…!物語の続きを読めることがとっても嬉しいです!陰ながら応援しています!
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