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ここは蜘蛛の巣

「ああ、すっかり立ち話が長くなってしまいましたね。

 申し訳ございません、竜王様、ノーラ、アーシャ先生。

 早速母の元へ案内させていただきますね」


 そう言うと、クラウディアさんは先頭に立って歩き出した。

 私達も、それに従ってついていく。

 

 ちなみに、さっき私の名前が最後に来たのは、多分彼女の中での序列がそうなんだろう。

 そりゃそうだよね、竜王様に、あれだけ超絶的な技術を持つノーラさんと比べたら私なんて。

 自分を卑下するつもりもないけど、彼女達アラクネーの価値観からすればそうなるのも当然だ。

 それに今日は、「お、人間もやるじゃないか」と思ってもらって、協力を取り付けるために来たんだしさ。


 やってやろうじゃないか。

 そう思いながら私は、そっと持ってきた荷物に手を触れた。


「それにしても……やっぱりここはクラウディアさん達の庭っていうか、棲む森なんですね……」

「なんだアーシャ急に」


 私の前に立つゲルダさんが少し振り返って問いかけてくる。

 ノーラさんは私の後ろに立って、さりげなく左右や後方へと注意を払う体勢。

 ……つまり私は今、二人に前後を守られている。

 ごめん、正直かなりこう、優越感じゃないけど、嬉しい気持ちを感じてしまってるのは勘弁して欲しい。


 いや、それはともかく。


「クラウディアさん、ほっとんど足音立てずに進んでますよね。

 これだけ落ち葉もあれば下草もある森の中を」

「ああ、なるほど。

 ……なあ、アーシャ。あなたは本当に元軍関係者などではないんだよな?」

「へ? もちろんですよ、私の洗練されてない動きはよくご存じでしょ?」

「うん、そうなんだが……それだけに、こう、違和感が、な」


 山での野良仕事に慣れているから体力はあれど、私の運動神経はそんなにいい方ではない。

 その上、これといった訓練を受けたこともないのだから、当然動きは素人丸出しのものだ。

 でも確かに、そんな娘がやたらと体術やらに理解があるのもおかしな話だろう。

 ……単にバトルものだとか格闘ものが好きだっただけ、とか口が裂けても言えないなあ……。


「確かに、アーシャ先生の知識ってどっから来てんだろうって思うことはあるねぇ。

 知らないことはないんじゃないかってくらいに何でも知ってるし」

「あ、あはは、それはまあほら、薬師って仕事柄、色んな職業の人に会ってましたからね~」


 ノーラさんのもっともな疑問に、そう誤魔化す。

 実際、それなりに筋は通ってる話だし、ノーラさんも納得してくれた。

 誤魔化すというか騙す結果になった私の心は痛いが。


 そうだよなぁ、ノーラさんとキーラには私の事情をまだ言ってないもんなぁ。

 今後の事を考えると、どこかで言った方がいいんだろうな、多分。

 それが、いつになるかはわからないけど。


 ちょっとだけ罪悪感のようなものを抱えながら、私はゲルダさんの背中についていく。

 先を行くクラウディアさんは、こちらを振り返ることもなく、しかし離れすぎない距離で歩いてくれている。

 きっと、一人だったらもっと早いんだろうなぁ、なんて思ってたら。


「……あれ?」


 途中、私が足を取られて躓きそうになったり、ゲルダさんの翼が木にひっかかりかけたりで歩くペースが崩れることがあった。

 なのに、クラウディアさんは常に一定の距離を保っている。

 まるでそれが見えているかのように。


「もしかして……?」


 私は歩きながらこっそりと観察して……多分そうなのだろう、という推論に辿り着いた。

 まあ、それを今確認する必要もないし、いっか。

 そう思いながら、森の奥へと向かっていく。




 小一時間程も歩いた頃に、開けた広場のような場所に出た。

 案内されるがままに、その中央付近へと向かえば……う~ん、感じる感じる、こちらを見ている視線。

 ノーラさんはともかく、ゲルダさんはいるわ、私みたいな人間が来てるわで、色々興味は引くのだろう。


 そうしていると、広場の奥にある建物から一人の女性が出てきた。

 もちろん、その下半身は巨大な蜘蛛。顔立ちや髪の色からして、この方がクラウディアさんのお母様、つまりアラクネーさん達の族長さんなんだろう。


「ようこそいらっしゃいました竜王様、ノーラ、アーシャ殿」


 うん、やっぱりその順番だよね。

 それでも、私を軽んじてるとかそういう感じじゃない。少なくとも表向きは。

 まあね、竜王の友人に失礼などあったらまずい、と考えるのがそれなりの立場の人ってものだろう。

 

 そういう感覚があるってだけでも、族長さん相手の交渉は成立しうると言っていい。

 話にならない人は、そんな体裁を取り繕うことすらしないか、取り繕っても綻びが目立つものだから。

 

「出迎え痛み入る。……こちらから自己紹介する必要を感じない程の耳の速さだな」


 族長さんは、私達が広場に入ってくるなり、出てきた。誰かが呼びに行くでもなく。

 つまり、族長さんは私達の接近に、とっくに気づいてたのだ。


「そうですねぇ、よほど耳が達者でらっしゃるのか……あるいは、話が情報『網』で回ってきたのか」


 わざと『網』の部分を強調して発言してみると、ぴく、と族長さんとクラウディアさんが反応した。

 いや、遠巻きに見ているアラクネーさん達もざわざわしてる気がする。


「どういうことだ、アーシャ?」

「多分、なんですけど。この森全体に、蜘蛛の巣みたいに糸が張り巡らされてるんじゃないかなって。

 で、その糸が色んな情報を行き渡らせてるんじゃないかな、と。

 声を拾えるのか、振動だけなのかはわかりませんけど」


 そう、さっきクラウディアさんを観察していて、足元で時折、細い糸みたいなものが揺れるのが見えたんだ。

 多分あれで、私達の位置なんかも把握してたんじゃないかな?


 考えて見れば蜘蛛って、蜘蛛の巣に引っ掛かった獲物を、その獲物が起こす振動で検知するって言うし。

 であれば、人間並みの知能を持つアラクネーさんたちが、さらにそれを発展させて、色んな情報を伝達させる技術を持っていてもおかしくはない。

 さっきクラウディアさん自身も、一、二を争う情報網を持っている、って言ったしね。

 どこまでのやり取りができるのかはわからないけど……語源となった蜘蛛の巣でウェブのようなことをやれてるのだとしたら、面白い。

 

 私の説明に、クラウディアさんは驚いた顔をし、族長さんは楽し気に笑っている。

 あ、良かった。ばれたら知ったものの口を塞がないといけない、なんて類のことじゃなかったらしい。


「なるほど、噂通り、面白いお方のようですね。

 陛下が気に入られるのも納得というものです」

「ふふ、恐縮です」


 笑顔の族長さんに、にっこり笑って返す。

 最初の掴みは、多分悪くない。これで私の話もちょっとだけ聞いてもらいやすくなったんじゃないかな。


「しかし、そんな名高い薬師の先生が、一体どんなご用事で?」

「名高いか、はわかりませんけども」


 まあ……色々尾ひれ付きまくってるんだろうなぁ、とは思う。

 なんせ女神だしね! ……自分で言っててへこむな、これ……。

 だからって、ここで「いやそんな大層な人間じゃないんですよ」とか謙遜してみても、一利もないだろう。

 多分そんな日本人的態度は通じないだろうから。


「ご相談したいことがありまして」


 だから私はすぱっと直球で、言いたいことを押し出した。

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