まさかの方法
こうして、私は大量の、粉々になった鉱石を持ち帰ってきた。
多分この中には、ミスリル銀がちょこっとと、大量のそれ以外の石が混じっている。
これを、どうにかして手早くふるい分ける手段を考えないといけない。
いけないのだけど……。
「なんとかなりそうな予感はするんだよね」
多分、あの方法でなんとかなるんじゃないかな。
それから、あの方法も試してみたい。
頭の中で色々と試行錯誤しながら私は、家に帰る前に寄り道をした。
キーラの働く、化学工業プラントに。
そこであれこれと必要そうなものを確認して。
翌日、ノーラさんのとこにも相談にいって。
「なんとかなりそうです」
と、ドミナス様の部屋を訪れたのは、二日後だった。
「は? ……え、いくらアーシャでも、え、たった二日で……?」
私の発言を聞いたドミナス様は、すっごく驚いた顔で、ぽかんとしている。
まあ、それはそうだろう。
今まで長いこといい方法が見つかっていなかったのに、たった二日でなんとかなりそう、と来たのだから。
「いやぁ、私もびっくりなんですけどね。
あ、でも一つの方法はそうでもないかな」
「まって。一つの方法は、ということは、二つも考えついたの……?」
「あはは、いやぁ……恐縮です」
ドミナス様は、私を信じられないものを見るような目でしばらく見つめて。
「アーシャの頭の中はどうなっているか、一度見せて」
「それはさすがにご勘弁を!」
物理的に見られたら死んじゃうし、テレパシー的に見られたら社会的に死んでしまう。
ていうか、ドミナス様には見せたくない。私にだって穢れた部分は山ほどあるんだから!
などと掛け合いをしていたら、横合いからドロテアさんの声がかかった。
「それで、ノーラやキーラが来ているのはその実証のため、ということですか?」
「はい。それに、実はまたちょっとドロテアさんに鉱石を砕いていただきたくて」
「ええ、それは構いませんが……」
ドロテアさんの反応は、半信半疑、という感じじゃなくて、むしろ私が本当に必要としていることに驚いているという感じだ。
つまり、あれだけあった鉱石でもまだ足りないの? という。
そして、足りないのだ。もう、いくらあっても足りないくらい。なんて言うと大げさだけど。
なので、忙しいドロテアさんにも敢えて来てもらった。
そのことも含めて、ドロテアさんにお礼を言う。
「ありがとうございます。
じゃあ、さくっと始めましょうか!」
と、明るく軽く、何でもないことのように私は声を出した。
実際、最初の方は、本当に……できてしまえば「なぁんだ」というやつなんだけどね。
早速、ということで、私は半分くらいに水を張った木桶を机の上に置いた。
「じゃあキーラ、魔力付与お願い」
「うん、わかった」
キーラはそう言って頷くと、桶に向かって手をかざす。
それを見ていたドミナス様は、少しだけ考えて。
「魔力付与……あ」
さすが、それだけで気付いたみたいだ。
一方ドロテアさんは、何をしようとしているのかと興味深げに観察している。
程なくしてキーラの詠唱が終わり、水がほんのり魔力を帯びた、はず。
私にはわかんないのが残念なとこだけど。
そしてその桶の中に、そっと静かに、粉々になった鉱石を入れていく。
「あ。まさか、そんな方法が……」
ドロテアさんも気づいたのか、驚嘆の声を零す。
ドミナス様は……ぐぬぬと背後につきそうな顔で桶を睨んでいた。
そう、『反転』させた石は、魔力に反発する。
であれば、魔力を帯びた水にも反発して、水面に浮かんだ状態になるわけだ。
しかし、むしろ親和性の高いミスリル銀は、そのまま水面をすり抜けて桶の底へと落ちていく。
覗き込めば、キラキラとした粒がいっぱい落ちていた。
後は、水面に浮いた石を取り除いてから、目の細かい布なんかで漉してあげれば、見事ミスリル銀だけ集められる、というわけ。
「くっ……工場で、交換膜を見ていたのに……。
魔力付与は武器に、という常識が抜けてなかった……」
むしろ、それを見ていたからこそ、すぐに理解したとも言えるのだけど。
工場にほとんど来たことがないドロテアさんは、ちょっと時間かかったしね。
「まあまあ、ミスリル銀のことばっかり考えてたわけじゃないんですし、仕方ないですよ」
「むう……でも、悔しい」
悔しそうなドミナス様の横で、ドロテアさんは感心したように桶を見ている。
「でも確かに、水に魔力付与をかけだした時には、どうしてそんなことを? と思ってしまいました。
思い込み、先入観……気づかないものですね……」
「もう一つ。この方法だと、魔力付与がかかりさえすればいい。
『脱水』特化で他の適性が低いキーラでも十分。
複雑で強力な魔術が必要というのも先入観だった」
「なるほど、それもそうですね……つくづく、アーシャだからこそ、という発想だったわけですか」
そこまで言ってもらうと、流石に恐縮というか面映ゆいのだけど。
でも、先入観のない、あるいは……トンチの利いたバトル漫画が好きだった私だから、というのは言えるかも知れない。
で、もう一つの方法は、間違いなく日本の教育を受けてたからできた発想だ。
「驚いてもらってるところに申し訳ないのですけど……もう一つの方法にいっちゃってもいいですか?」
「そういえば、まだあるんだったね……」
「これ以上、何を見せてくれるんでしょうか」
二人の声から、かなりの期待を感じる。
これは、なんとしても応えてあげたいな!
ということで、早速準備開始。
まずはドロテアさんに鉱石を砕いてもらう。
この時、初見のキーラは凄くびっくりして何度も目を瞬かせていた。可愛い。
同じく初見のノーラさんは逆に、目をきらきらさせていた。可愛い。
それから、砕いた鉱石を中庭に運ぶ。
中庭には……ちょっと変わった桶のようなものを運び込んでいる。
「いやぁ、こいつに活躍してもらうのも久々だねぇ。懐かしくすらあるよ!」
と、ノーラさんはご機嫌な様子でセッティングをしていく。
その間に、私は別の木桶にまた水を張り、そこにガラスの容器に入れて持ってきたある液体をちょっとずつ入れて、木の棒で撹拌するという作業をして、と。
「大体これくらいかな……じゃあ、始めますね」
そういうと、私はさっき漉し取ったミスリル銀の粒を、ぽい、と桶の液体の中に入れた。
途端。
「え、うそ……」
「ミスリル銀が、溶けた……?」
そう。液体の中に入れたミスリル銀は、跡形もなく溶けてしまった。
次にミスリル銀と分離された石を入れると……こちらは、溶けない。
多分、こっちの石は非金属、ケイ素系の石なのかな、と思われる。
つまり。
「実は、この液体、ちょっと珍しい酸なんです」
そう言いながら、少しだけガラス瓶に残った液体を振って見せた。
ちょっと珍しい、といえば珍しい。でも、いちおう自然にも存在してはいる。
この液体の正体は、硝酸だ。
実は、化学工業プラントで出来てたアンモニアを、魔術で上手く加熱して酸化させ、一酸化窒素を作ることに成功。
それに酸素を反応させ二酸化窒素を生成し、水と反応させて硝酸を作れるようになったのだ。
ちなみにこの時、副生産物として一酸化窒素ができるので、これはまた二酸化窒素を作る工程に回す。
俗に言うオストワルト法、の魔術アレンジ版、みたいなものだ。
で、この硝酸なんだけど……実は、銀を溶かすことができる。
ちなみに塩酸や硫酸では溶かせない。
この硝酸で、ミスリル銀も溶かせないかな~と思ってやってみたら、さ……ほんとに溶けちゃったんだよね。
いや、いくら銀って付くからって、そこまで似なくてもいいじゃない!? とは、正直思った。
「ちょっと珍しい酸、だからって……魔物の酸でも溶けるの見たことないのに」
「最初に見せられた時には腰抜かしそうになりましたよ。
あたしらドワーフからしてみたら、絶対不可侵としか思えない金属ですからねぇ」
まだ衝撃の抜けないドミナス様の声に、ノーラさんもうんうんと頷いている。
まあ、金属のスペシャリストたるノーラさんからすれば、それはもう、常識がひっくり返ったようなものなんだろう。
逆にキーラは、珍しそうにはしてたけど、そこまで驚きはしてなかったし。
「ドミナス様もそこまで驚くって……本当に凄いこと、なんだね……」
「それはもう、きっとこのことを陛下が聞いたら、仕事を全部投げうって飛んでくるくらいに凄いことですよ」
キーラのつぶやきに、ドロテアさんが答えてくれる。
その例えは……わかるような、わからないような……?
「あ、でも、ということは、さっき私が砕いた鉱石をここに入れたら」
「はい、ミスリル銀だけが溶けていくはずです」
私の返事を聞いて、早速ノーラさんとドロテアさんで鉱石を入れていく。
結構な量を入れたところで撹拌し、残った石を掬い取った。
そしてできた、硝酸ミスリル銀水溶液、とでもいうべき液体を、桶のような装置へと注いで。
そこに、二本の大きな炭素棒、むちゃくちゃ蒸し焼きしまくった炭の棒をセット。
片方には銅線をつけて、アースを取って。
もう片方は……。
「すみませんドミナス様。
ここを握って、ゆっくりと少しずつ雷撃を流していただけますか?」
「あ、前ゲルダが言ってたやつ?
わかった、やってみる」
ドミナス様がそう言って雷撃を流し始めると……反対の炭素棒からぽこぽこ泡が立ち始める。
そして、ドミナス様が握っている側の炭素棒には……。
「ねえ、これ……まさか」
「そのまさか、みたいですね……この魔力反応」
そう、そこには、白く輝くミスリル銀が、細い木の枝のように析出してきた。
つまり、電気分解によってミスリル銀を取り出すことに成功したのである。
私達が固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと細く枝分かれするように析出してくるミスリル銀。
その光景は、何とも言えない神秘的な美しさがあった。




