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本音のかくれんぼ

「うあ~……まただよ……ど~しよっかな~……」


 昼下がりの王城の廊下を、私はとぼとぼと歩く。

 結局、三人の高まった信仰心を更に煽ることしかできなかった。

 その上、一緒にお昼を食べてたら、一緒にこの島に来たと思しき女の子達が彼女達に話しかけてきたから「ご一緒にいかがですか?」とか微笑みながらやっちゃってさぁ……。

 

 それはもう、喜んでもらえた。

 それ自体はいいのだ、私なんぞで喜んでもらえたのなら。

 ただ、なぁ……そうすると、今後のお昼はどうしたものか。

 一度同席した以上、断ることはできない。あちらから声をかけてくるハードルも下がった。

 となると……ゆっくりとお昼を取ることは難しい可能性が高い。


「やはり、自炊しかない、かな……?」

「あら、それでしたら、私が作ってあげましょうか?」

「うわぁ!?」


 独り言を言っていたところにいきなり声を掛けられて、私は思わず変な声を上げてしまった。

 慌てて振り返ると、くすくすと口元に手を当てて笑っているドロテアさん。

 ……こういうおしとやかな仕草も凄く似合うなぁ……さすが、有能秘書。

 って、そうじゃなくて!


「ド、ドロテアさん!? い、いきなりびっくりしましたよ!」


 私が抗議の声を上げるも、相変わらずくすくすと笑っていて。


「びっくり、はこちらのセリフですよ。

 アーシャったら、なにやらぶつぶつ独り言を言いながら廊下を歩いているんですもの。

 傍から見たら、何かあったのかと思うじゃないですか」

「うわっ、私、ずっと独り言言ってました……?

 まあ、何か、あったんですけど……って、割かしドロテアさんのせいですからね!?」


 一瞬、申し訳ないって思ったけど、そもそもが、ドロテアさんのせいだった。

 でも、さらに大本をたどれば、結局私のせいなんだけどさ……追い打ちかけたのも私なんだけどさ……。


「私のせい、ですか?

 私が、一体何を? ……最近、アーシャが王城に寄りつかないから、あまり会えてない私が」

「あっ、えっと、その……それは、ごめんなさい……?

 いやっ、ご、誤魔化されませんよ!? 丸め込まれませんよ!?」


 ドロテアさんが顔を曇らせたのを見て、思わず狼狽えた、けど……ここで負けたらいけない、と踏みとどまる。

 いや、この後結局蹂躙されそうな予感しかないんだけどさ……。


「でも、あまり会えてなかったのは事実ですよね?

 ……私だって、寂しいって思うことはあるんですよ?」

「ぐはっ!」


 ドロテアさんの言葉に、胸を押さえる。

 咎めるような口調ではなく、むしろ軽く受け取ってと言わんばかりの冗談めかした口調。

 でも、それをドロテアさんが言うと、こちらを気遣っての言葉と思えてならない。

 つまりは、冗談めかした言葉こそが本音だ、と。


「あ、アーシャ、そんな真に受けなくても」


 ほら、私に直撃したと見るや、このフォローだもの。やっぱりそうなんじゃないか!


「真に受けるに決まってるじゃないですか、ドロテアさんがそんなこと言ったら」


 思わず、真面目な顔で答える。

 そして数秒後に、やらかした、と気づく。

 私の返答を聞いたドロテアさんは、びっくりしたような顔になって。

 ほどなくして、かぁっと頬を染めてしまった。

 まって、普段きりっとした有能秘書な人が、なんでそんな恥じらう乙女みたいな顔になってるの!?

 わかってる、私のせいだってわかってるんだけど! お願い、ちょっとだけ逃避させて!


「アーシャ……だから、そういうところ、ですよ……?」


 だが、頬を染めたドロテアさんが容赦なく追撃をかけてくる。現実は非情である。

 やめて、もじもじしないで! 可愛くて色っぽいっていうアンビバレンツな存在になってるから!

 私の大事な何かがゴリゴリ削られてる音が聞こえそうなくらいだから!


 だけど、だけど、さ……。


「知ったこっちゃないですよ。

 ドロテアさんがそう思っていたこと、冗談で流したくないです」


 こんなこと言ったらやばいってわかってるんだよ。でもさ、でもさ。

 ここで、ドロテアさんの態度に縋って逃げたら、きっと私は、自分を許せない。

 

 ……そして、さ。

 多分ドロテアさんは、私がそうすることを心のどこかで願ってたと思うんだ。

 自意識過剰かも知れないけど、多分ドロテアさんは私のことをそれくらい信じてくれてる、と思う。


 だって、私の言葉を聞いたドロテアさんは、瞳を潤ませて。

 そして。ぽふ、と私の身体に走る衝撃。

 ……背後から。


 背後から?? ドロテアさんは真正面にいるのに!?

 っていうか、そのドロテアさんは抱き着こうとして中途半端に上がった手を、所在なげに漂わせている。

 え、じゃあ、この衝撃は……? いや、知ってる。よく知ってる。この、私より背が低くて、この感触は。


「遅い。それに、二人で勝手になにしてるの」


 拗ねたような幼い声が聞こえる。

 うん、そうだよね、この声はドミナス様だよね……うん、知ってた!

 

「あ、す、すみません、時間過ぎてました!?」


 遅刻はしない、でも早くも来ない、色んな意味で時間通りのドミナス様からしたら、ちょっとの遅れも許せないのかも知れない。

 まして、探しに来て、目にしたのが私とドロテアさんの、その……良い雰囲気な光景だったりしたら。

 なので、私は誤魔化すかのように上ずった声を上げたのだけど。


「すみませんね、ドミナス。

 久しぶりにアーシャに会えたので、ちょっと立ち話をしてしまいました」


 ドロテアさんは落ち着いたものだった。


 ただし、その声は私の耳のすぐ傍で聞こえたのだけど。

 そして胸元鎖骨辺りに感じる、柔らかな質量の塊。

 ドロテアさんのどたぷーんが、押し付けられていた。


 つまり。

 ドミナス様が背後からしがみついて来ている。

 そして、ドロテアさんが正面から抱き着いてきていた。

 私は二人から挟み込まれた格好。


 だ、だからぁっ!!


「ふ、二人とも! こんな廊下で、これは、まずいですって!!」


 と、悲鳴のような抗議の声を上げるのだけれど。


「大丈夫、問題ない。王族の戯れという特権の利用」

「何を今更恥ずかしがっているんですか。とっくに知れ渡っていますよ?」

「それ多分、大体ドロテアさんのせいですよねぇぇぇぇ!?」

「ふふ、どうでしょう?」


 まったく揺るぎやしない! むしろドロテアさんなんていつもの余裕を取り戻してるよ!?

 私は、二人から挟まれてわたわたとしながら。


 ドロテアさんがいつもの調子を取り戻したことに、安堵したりしていた。


 いや、だから、そういうところだって、わかっちゃいるんだけど、さ……。

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