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女神伝説の一端

 そして、ゲルダさんのお家にお邪魔して、ミスリル銀絡みのあれこれがあった翌朝。


「「「今日からよろしくお願いいたします、アーシャ様!」」」


 工房に、元気な声が響く。

 三人とも、見た目は黒髪に茶髪に金髪とばらばらだったり背の高さもばらばらなのに、なんとなく統一感があった。

 その原因は、目の輝きなんだろう。

 もうね、きらっきらした目で私のことを見つめてくるの。

 それこそ、崇拝対象か何かのように。


 いや、多分崇拝対象なんだろう、きっと。


「はい、こちらこそよろしくお願いします、皆さん」


 そう言って私が微笑みかけると、それだけで卒倒しそうな程にテンションを上げている。

 こんな調子で、今日一日大丈夫なのかな……と思わなくもない。


 彼女たちは、先日やってきた船に乗せられていた子達で、三人とも薬師。

 やっぱり例の薬師狩りは収まっていないらしく、捕まって送られてきたそう。

 で、異端の存在だ、ということで扱いが特に酷く、衰弱が激しかったので、お城で治癒術師さん達に治療してもらってた、というわけ。

 

 無事元気になった三人は、まずはこの島に慣れるまでこの工房で働いてもらう。

 街の各所に彼女たちの工房を今作ってもらっているので、出来次第そちらで治療活動にあたってもらう予定。

 元々ある建物をリフォームするだけだから、そんなに時間はかからない、とノーラさんは言ってた。

 ……三日でやっちゃいそうで怖いな、ノーラさんがそう言うと。


 まあとにかく、預かるとなったからには、ちゃんとやらないとね。

 でも、まずは……。


「それとですね、私のことはアーシャと呼び捨てで結構ですよ。

 皆さんの方が私より年上みたいですし」


 と、断りを入れる。

 多分三人とも二十を超えたかどうかくらいの年齢だ。

 私よりも何歳かは上っぽいので、そういう人から敬称はちょっと面映ゆい。

 っていうかむしろ、様はつけないで欲しい。なんなら土下座も辞さないぞ。


 だけど、私のお願いも空しく、三人ともそろって首を横に振った。


「とんでもない! アーシャ様とこうして一緒に働けるだけでも光栄のあまりで眩暈がしそうですのに!

 この上呼び捨てなど……畏れ多くてとてもとても!」


 ……これである。

 この子達も、先日の船で来たわけだから……ドロテアさんのせいで「女神アーシャ教」に入信してしまっていたらしい。

 もう、きらっきらの瞳で見つめてくるから、こう……いたたまれないったらありゃしない。


 だけどさ。


「私、薬師をしていて良かったです! こうしてアーシャ様とご一緒できるのですから!」


 とかさ、言われちゃったわけですよ。

 多分、薬師をしてたせいで捕まって、この島に送られてきた女の子に。

 そんな子達をさ、無碍になんてできるわけないじゃない!?


 とか思ってるところに、ドアがノックされてキーラが入ってきた。


「おはよう、アーシャ。

 あ、この人達が、例の……?」

「うん、そう。今日からしばらくここで働く人達」


 今日からこの子達が来ることは、キーラにも伝えていた。

 なので納得したように頷き、三人へと向き直った。


「はじめまして、私はキーラ。ここでは、アーシャの助手みたいなことをしてるの。

 どうぞよろしく」


 そう言って、ぺこりと頭を下げる。

 すると……「おお~……」と感動したような声が上がった。なんでだ。


「こちらがキーラ様……アーシャ様に寄り添う四人の乙女の一人……」

「まってまって!? 待ってください、なんですかその四人の乙女って!?」


 私は、体裁を取り繕う余裕もなくそんな声を上げてしまう。

 いきなり言われたキーラは、顔を真っ赤にして固まっていた。

 そりゃー固まる。多分私だって固まる。


 だけど、問われた彼女たちはすごく不思議そうにきょとんとしていて。


「何って……アーシャ様の奇跡を支える四人の乙女がいらっしゃると。

 どんな場所にもあっというまにお連れする翼ある乙女のゲルダ様。

 その素晴らしい能力を組み合わせて、数々の奇跡のような品々を作られたキーラ様、ノーラ様、ドミナス様……。

 皆様がお力を合わせて様々なものを生み出された様子は、涙なしには聞けませんでしたっ!」


 むしろそんな話を聞かされるこっちが泣きたくなるよ!?

 これ以上突っ込み入れたら、彼女たちの幻想にヒビが入りそうだから言わないけど!


 っていうか……あれ?


「あの、四人の乙女、なんですか? 五人ではなく?」

「ええ、ドロテア様は四人とおっしゃっていましたが」


 やっぱり、話を聞かせてたのはドロテアさんだった。

 で、その中に自分は入れてない。う~ん……こういう話に自分を入れるのは、と謙遜したのかも知れない。

 あるいは、直接的に色んな開発に携わっていないから、というのもあるかも知れない。

 立場としても、魔王様の側近、なわけだしね。


 でも、今迄の事業における事務的な部分や予算処理的な部分はドロテアさんが一手に引き受けてやってくれてたはずだ。

 だからこないだのお風呂では、ちょっとお疲れだったわけだし。

 キーラやノーラさん、ドミナス様とは違った方向で助けてくれてるんだけどなぁ。

 私に「そういうとこですよ」とか言うくせに、自分こそ、じゃないか。


 ドロテアさんは、そういう性格、なんだろうけども、さ。

 なーんか、こう、もやっとする。


 もやっとする、んだけど。


「あ~、アーシャ先生、もうやっとりますかのぉ」


 患者さんが来たからには、もやっとも、ぼやっともしてられない。


「すみません、話は一旦ここまでで。

 今日は初日ですから、皆さんは基本的に見学を。

 人手が必要になったらお願いしますね」

「「「はい、わかりました!」」」


 ま~、見事なお返事だこと。

 正直、こんな中でお仕事するのはプレッシャーなんだけどさ。

 でもこれで、私の仕事ぶりを見てくれたら、普通の人間だってわかってくれるだろう。

 そう思いながら、私は治療を開始した。


「問診票こちらですね、どれどれ……なるほど、倦怠感がある、と。

 ちょっとお口失礼しますね~……喉の腫れとかはない。肌の張りが弱い……。

 少し身体の水分が足りないのかも知れないですね。

 キーラ、補水液お願い。……これ飲んで、ちょっとあちらで座っててみてください。

 では次の方~」


 まだ夏本番ではないけれど、大分暑くなってきた。

 そのせいか、脱水症状まではいかないけど、その手前の人がちょこちょこいらっしゃる。

 そういう方にはこうやって塩分と糖分を調整した水で水分補給した上で休憩してもらってる。

 もちろんそうでない可能性もあるから、経過観察も兼ねて、だ。


 そして休んでもらってる間にも患者さんは来る。


「あ、これは……キーラ、このキノコ、いつものお願い」

「うん、わかったっ!……お待たせっ」

「や、ちっとも待ってない気がするな~。ありがとっ」


 キーラが『脱水』してくれたキノコを薬研でごりごり。

 粉末状にして、お薬を出す。

 かと思えば、薬湯が必要になったりすれば。


「キーラ、お湯これに半分っ」

「はいどうぞっ」

「はやっ! ありがとっ」


 こんな感じで、どんどん薬を出していく。

 う~ん……我ながら、キーラとのコンビネーションもこなれてきたなぁ……なんて思う余裕すらあった。


 そんなこんなで、午前中の診察は終了、午後休診のいつもの看板を出して。


「とまあ、こんな感じで……って、皆さんどうしました?」


 振り返ったら、三人はどこかポ~っとした、恍惚の表情になっていた。

 え、何、何事……?


「これが、癒しの女神アーシャ様の本領……素晴らしい手際でございました……」

「私など、この半分どころか、四分の一も捌けたかどうか……」

「的確な診断、迅速な製薬……どれをとっても、私など足元にも及ばない、女神と呼ぶにふさわしいものでございました……」

「え。……あ!?」


 し、しまった……そっか、彼女達も本職の薬師!

 こっちでの薬師の知識に現代医学知識、さらにキーラの『脱水』を組み合わせた私の治療行為がどれだけ凄いものか、彼女たちはわかってしまうんだ!

 

 そう気づいた時にはもう、後の祭りで……。


「アーシャ様の癒しのお力、少しでも身に着けられますよう精進いたします!」

「私も!」

「私もです!」


 三人は、すっかり『癒しの女神アーシャの使徒』と言わんばかりの表情になっていた……。

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