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お前こそが!

 もうもうと土煙が立ち込めるところに、ゲルダさんが降り立った。

 地面に叩き込まれた親父殿を睨みつけながら、ぷらぷらと右手を振っている。

 あ、さすがに剣は使わなかったんだ……うん、多分ガチの殺しあいになっただろうしね……。

 

「さあ、親父殿。あなたが竜族の気性を貫くと言うのならば、それを貫いていただきましょう。

 すなわち、勝者こそが正義だと」


 ゲルダさんの言葉に、ぴくり、と親父殿の身体が動いた。

 そして、ぐっと地面を掴み、ゆっくりと起き上がっていく。

 あ、あの衝撃で気絶してないんだ……むしろまだ平気っぽいし……さすがドラゴン、タフネスが尋常じゃない。


 起き上がった親父殿は、何故かちらり、お母様とアイコンタクト。

 おや? と思ったけど、その意図は読み取れるわけもなく。

 ただ、なんだか表情が穏やかになったというか、険が取れた気はした。


『うむ、我の負けだ。

 ノーラ殿、非礼を謝罪する。申し訳なかった』


 そういうと、親父殿は頭を下げてきた。

 やけにあっさりと謝罪するその姿勢に、私もノーラさんもびっくりして、何度も瞬きをしてしまった。


「あ、いや、あたしは……うん、謝罪してもらえたんです、過ぎたことと水に流しましょう」

『我の謝罪を受け入れてくれて、感謝する』


 ノーラさんが謝罪を受け入れるのは、そういう性格だからと納得はもちろんできる。

 だけど、親父殿のこの豹変っぷりは、一体なんだ……?

 もちろんそれはゲルダさんも不思議に思ったらしく。


「まて親父殿。なんだその、やけに物分かりのいい姿勢は」

『なんだとはなんだ、お前の言う通り、竜族の流儀を貫いたまで。

 お前の要求に従い、ノーラ殿に謝罪しただけのこと』


 問いかけに、親父殿は淡々と答える。

 ……なんだろう、若干棒読みっていうか、演技臭いものを感じるんだけど……。

 訝しむ私をよそに、親父殿はさらに言葉を続けた。


『そして、竜族の流儀に倣い、今この時よりお前が風竜王だ』

「……は?」


 唐突な宣言に、ゲルダさんが間の抜けた声を出す。

 多分、私もノーラさんもぽかんとしていただろう。


 風竜王。よくわかんないけど、多分凄い地位だっていうことはわかる。

 なんでそんなものが、この親子喧嘩で決まっちゃうの!?


 そこに、さっきまで静観していたお母様が進み出てきた。


「仕方ないわねぇ。私はもとより、アーシャさんやノーラさんっていう証人までいるんですもの。

 お父さんが負けちゃったことは、認識されちゃったわ」


 追い打ちをかけるような言葉に、私とノーラさんは思わず固まる。

 なんで私達、いきなり巻き込まれた形で、そんな重大なことの目撃者にされちゃったの!?


 動揺のあまり私達は硬直するし、ゲルダさんも大慌てだ。


「待ってください、どうしてそんな話になっているのです!

 確か、風竜王は親父殿が三百歳かの時に祖父殿から譲り受けた位ではないですか。

 それを、なぜ今、私に譲るというのですか!」


 その疑問は至極もっともだと思う。

 たまたま親父殿の非番の日に、別件で訪れたら、いきなり風竜王になった。

 そんなことになったら、いくらゲルダさんでも動揺するだろう。

 むしろ、その重さを知っているだけに、なおのことじゃないかな。


『なぜ、とはまた異なことを。

 お前が我を殴り倒したからであろうが』

「い、いや、確かに殴り倒しはしましたが……そんなことで、ですか!?」

『そんなも何も、それが竜族の流儀ゆえ。我も親父を殴り倒して風竜王を襲名したしな』


 まじかい。そんなんで継承されるのか、風竜王。


『いやしかし、我が娘ながら大したものよ。

 最終形態を見せておらんとはいえ、我を真正面から殴り倒せるようになっておるとは』

「ほんと、ゲルダちゃんってばすごいわ」

「え、いや、な、何を……それから母上、ちゃん付けされるような年齢ではないと何度言えば」


 さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、なんだかほのぼのアットホームな空気。

 これがきっと、ゲルダさん一家の素なんだろうな、とすら思える。

 でも、じゃあさっきまでのあの空気はなんだったんだ??


「これで風竜王になったら、位の格はドミナス様と同等になるわね~」


 その言葉に、ゲルダさんも私も、ノーラさんも固まった。

 ま、まさかこれ……。

 

『うむ、対等となれば、今迄以上に物申すこともできよう。色々複雑な状況に対してもな』


 やっぱりそうだ!

 これ、ゲルダさんを風竜王にして、ドミナス様との競争に対して援護射撃しようって腹だったんだ!

 え、何の競争かって? 言わせんな恥ずかしいっていうか穴掘って埋まっておきたい。


「待ってください、それこそ竜王の位に対する冒涜ではありませんか!

 そんな形で譲られた竜王など、私は!!」


 だよね、ゲルダさんだったらそう言うよね。

 だけど、それは親父殿も想定済みだったらしく。


『まあ聞け。当初は確かに、わざと、ということも考えた。

 だが、実際に殴り合ってみれば、我と互角にやりあうわ、いきなり急に強くなるわ……完全に予想以上でな』


 その言葉に、私はピンとくるものがあった。

 まさかあの時のアイコンタクトは、シナリオ変更しようって合図だったのか!?


「うふふ、あれはやっぱり、ノーラさんへの気持ちとアーシャさんの言葉があったからかしら。

 友情と愛の力ね!」


 お母様は、それはもう楽しそうに言ってくださる。

 もしかして、少女小説的なものがお好きだったりするのかしらん……ラブロマンス的なのとか。

 そんなことを言われて、私すら顔が赤くなってしまうのだから……当然、ゲルダさんなんかは真っ赤っかだ。


「あ、愛の力など、そんなこと、は……」


 もじもじゲルダさんが帰ってきてしまった。

 そして「そんなことはない」と言えないところが……こう、こうっ!

 わかるよね、わかって!

 ただし、私の中の大事な何かがごっそり削られてしまった感が半端ないんだけどさ!


「あっはは~、困ったことになったねぇ。

 アーシャ先生の愛があったら、ゲルダさんは竜王を殴り倒せるらしいよ?」


 ノーラさんが、お気楽に言ってくれる。

 いまだ私の腕の中、むしろノーラさんからしがみついてる状態で。

 そして、そのまま私を見上げて、至近距離で意味ありげな微笑みを見せて。


「んで、あたしはアーシャ先生の愛があれば、何でも作ってみせるよ?」


 直球を、放り込んできてくれた。

 連続して、私の中の大事な何かがごっそりと削られたのが、よくわかる。


「ソウデスカー光栄デスー」


 精神的にふらふらになった私は、棒読みでそう答えるのがやっとだった。

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