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石も磨けば銀になる?

「うちのご先祖様が、かつて大功あった折りに陛下から所領を賜ったんだが、そこにちょうどミスリル鉱脈があったんだ。

 以来、うちはその鉱脈を守護する役割も担っている、と言えば担っている。

 とはいえ、今はどこかが侵攻してくるでもなし、誰かが謀反を起こすでなし。

 知っての通り精錬が難しい鉱石だから、盗掘する者もいないしな」


 ゲルダさんの説明に、なるほど、と頷く。

 ウィンドドラゴンという力の強い魔物である、というだけでなく、過去にそういうことがあったからこそ今の地位なのだろう。

 そして、微妙な表情だったのにも納得がいく。

 ミスリル銀は、とても有用である反面、製錬がとても難しい、らしい。


「ノーラさん、ミスリル銀の製錬ってしたことあります?」

「残念ながらないねぇ、そんだけ希少だし。

 大体、あれって魔術的な処理しないとだめっていうじゃないか」

「そっかぁ、ノーラさんでもやったことないんですねぇ」


 うーむ、となると……どうしたものか。


 例えば鉄は酸化鉄として地中に埋まっている。

 そのため、掘り出された鉱石から酸素を取り除く、還元という処理をしてやらねばならない。


 方法としては、石炭を蒸し焼きにしてできたコークスと一緒に混ぜて酸素に触れないよう加熱する。

 これで炭素が酸素を奪い、二酸化炭素となって抜けていくわけだ。

 ただでさえ火力の強い石炭を、さらに蒸し焼きして不純物を取り除き、純粋な炭素の塊に近い状態にしたコークスの火力はとんでもないもの。

 まあ、そのコークスの高火力を、すっぽん鍋を煮るために使う日本人って種族もいるんだけどさ。


 話を戻そう。

 そんなコークスでも、ミスリル銀の鉱石からミスリル銀を取り出すことはできない、らしい。

 ちょっと、どんな状態なのかはわからないのだけど……単純な酸化物ではないのだろう、きっと。

 ミスリル銀が錆びにくい、酸化しにくい金属であるならば、そもそも酸化物として鉱石にはなっていないだろうしね。

 例えば酸化しにくい金属の代表格である金は、そのままの状態で自然界に存在することが結構ある。

 昔々、砂金を川で掬って取っていた、なんて時代もあったくらいだからねぇ。

 となると、鉱石を実際にあれこれ確認した方がいいのかなぁ。


「魔術的処理、かぁ……ドミナス様ならできるんでしょうか」

「ああ、それはできる。

 ただ、あいつや、処理できる程の腕がある魔術師を鉱脈のある山まで派遣すると防衛上問題があるから、鉱石を王都まで運んでいくしかないんだが……。

 1t当たり数gとか精々数十g取れるかどうかだから、大量に運ばないといけない。

 しかし、山が険しくてそんなに運べない、というわけで、あまり活用できていないんだ。

 私や親父殿が飛んで運ぶ、という手段も検討されたが、さすがにそんな大量には運べないしな」

「な、なるほど……」

「とはいえ、何かあって悪用されても困る場所ではある。

 なので、我々が山を預かり守護する大任を与えられている、というのが親父殿を始めとする年長者達の考えだ」

「ふむ。……ゲルダさん的には、仮に活用できるようになったら、どう思います?」


 私の問いかけに、ゲルダさんが意表を突かれたような顔になった。

 それから、しばし考えて。


「私としては、か……考えたこともなかった。

 そう、だな……。

 きっと、前までは親父殿と同じ考えだったと思う。

 だが、今は……」


 そこで言葉を切ったゲルダさんは、ちらりと私の方を見た。

 え。なんでこのタイミングで私を見るの??


「今は、適切に使ってくれる人がいるなら、活用した方がいいんじゃないか、と思うようになった、かもしれない。

 もっとも、課題は山積みだが」

「だってさ、アーシャ先生」


 ゲルダさんの言葉を聞いてニンマリと笑ったノーラさんが、つんつんと肘で私を突いてくる。

 ……いや、流石に私もそこまで鈍いわけじゃないから、ゲルダさんが言いたいことは伝わってきた。

 きたのだけど……流石にこう、ことが大きくなりすぎてませんかね!?

 『お前になら託せる……』的なノリでミスリル銀鉱山預けられたら、さすがの私も泣くよ? 泣いちゃうよ!?

 そこはちゃんと、権利者がちゃんと管理している範囲で扱わせていただきたい!


「て、適切に使えるかを監督していただきながら、でしたら、使わせてもらってもいいかな~とかは思います」


 ……我ながらなんていうか……ヘタレというか玉虫色というか……。

 でもなぁ、さすがになんでもかんでも使っていいよ~やっていいよ~って言われるのはさすがに怖いと思うの。

 という私の言葉に頷いていたゲルダさんだったが、不意に何かに気づいた顔になった。


「なるほど。ということは、ミスリル銀を使って何かを作る場合、適切に使われているか……例えば私が監督する必要が出てくるわけだな?」


 そう解釈した!? いや、確かに、それは、そう……ゲルダさんの一族が所有しているものだから、ゲルダさんが監督するのに何ら不自然なところはない。

 まして、扱う私やノーラさんと顔見知りなわけだから、むしろゲルダさんが一番適任だとすら言える。

 言える、のだが……不純なものがあるような気がするのは……きっと気のせいじゃないのだろう。


「それは……確かに、そう、ですね……?」

「確かにあたしとしても、ゲルダさんのお墨付きもらいながらだったら加工しやすいってのはあるねぇ」


 多分ゲルダさんの思惑はわかっているだろうに、ノーラさんもあっさりと頷く。

 うーむ……私が言うのもなんだけど、この辺り、不思議な感覚だ。

 言ってしまえば、ノーラさんはライバルの援護射撃をしているような状態だ。

 似たようなことはドロテアさんもしてたけど……こういうところは、好ましいなって思う。

 

 ……まさか、そこまで計算してないよね? ドロテアさんはその可能性高いけど。

 多分ノーラさんは、そういう性格なのだろう。きっと。もし違ったら、色々人間不信に陥りそうだよ。


 ともあれ、私達の返事に、ゲルダさんはちょっとほっとした顔になった。


「それならば、親父殿に鉱石の提供を交渉できるかも知れない。

 親父殿はミスリル銀の力を良く知っているから、むやみやたらと使うことには強い抵抗感があるだろうし」


 ゲルダさんの言葉に、なるほど、と私達は頷く。

 魔族・竜族殺しの武器にもミスリル銀は使われていたとも聞くし、そりゃぁ警戒もするだろう。

 むしろ、力の怖さを知っている方が信頼できるとすら言えるし。


「じゃあ、その方向で一度お話をしてみたいですね」


 との私の言葉に、ゲルダさんがちょっと沈黙した。

 少し視線を泳がせた後、顔を上げて私達を見て。


「それなのだが……今日今からはどうだろうか」

「はい?? 今日、今、から……?」


 言われて、思わず窓から外を見る。

 確かに、まだ14時過ぎとか15時前とかの感じだから、今から行っていいなら、その方が話は早い、けど。


「でも、今からいきなり行ったら、ご迷惑じゃないですか?」

「いや、それが今日たまたま親父殿は非番なんだ。

 しかし明日からそれなりにまた忙しいはずだから……多分、話を通すなら今日が一番いい」


 そこまで言った後、少しだけ沈黙して……。


「それに、多分アーシャなら、いきなりでも歓迎されると思う」

「え、それは……あ~……そう言えば、前そんなこと言ってましたね……」


 こないだ港でお出迎えした時に、お父様もお母様も私に会いたがっていると聞いたばかりだ。

 それを思い出すと、今度はそれがプレッシャーにも感じるのだけど……。


「ちなみに、あたしも一緒だったらどうだろう?」


 と、ノーラさんが聞いてきた。

 確かに、この場合ノーラさんにも来て欲しいのは事実だ。

 そして、ゲルダさんもそれは良くわかっているのだろう。何とも、悩ましい表情をしている。


「ノーラさんも恐らく問題ないと思う。

 だが、先程も言ったが、鉱脈と、その側の親父殿の邸宅は険しい山の上にある。

 私とアーシャなら、例のハーネスがあるから飛んでいけるが……」


 そうなんだよねぇ……多分、三人で飛ぶだけなら、ゲルダさんの力なら問題ないと思う。

 だけど、安全に、となると……まさか私がノーラさんを抱えるわけにもいかないし。絶対途中で力尽きる。

 いくらなんでも、ドワーフ特製の空飛ぶ機械、なんてものはないだろうし。


 と思っていたら、ノーラさんがニンマリとした笑みを見せた。


「んふふふふ、実は、こんなこともあろうかとね?

 あたし用のハーネスもこないだ作ったんだよ。

 アーシャ先生の前にぶら下がることができるようにね!」


 と、ノーラさんが机の引き出しから、革製のハーネスらしきものを取り出してきた。

 それは確かに、ノーラさんのサイズに合わせた小さいもの。

 私とゲルダさんは、それをまじまじとしばらく見つめててしまった。

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