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ジェラシー・フライト

 結局、午前中はそんなごたごたがあって、思ったよりも時間がかかっちゃった。

 お昼を慌てて食べ終えたキーラは工場へ。

 私は、ノーラさんのいるドワーフの集落へと向かった。

 正確には、飛ばされた。ゲルダさんによって。


「ひゃぁぁぁぁ!?」


 いつもの悲鳴を上げて、私は空を飛ばされる。

 表現としておかしい気がするけど、その通りなんだから仕方ない。

 いつもの二人用ハーネスでゲルダさんに括りつけられ、私は猛烈な風を浴びながら、ドワーフの集落へと向かっていた。

 ……っていうか……。


「な、何かいつもより速度出てないですか、ゲルダさん!」


 心なしか、いつもより顔に当たる風が強い気がするんだ。

 私の声が聞こえたのか、ゲルダさんがぎゅっと普段より強く私を抱きしめてくる。

 ず、図星か!


「気のせいだ」

「絶対気のせいじゃないですよね!?」


 私の反論に、ふぅ、とゲルダさんがため息を吐いた。

 耳元で。

 くすぐったいような、むずがゆいような感覚が私の背筋を走る。

 これ、今の絶対狙ってたよね!? なんでこの風を切って飛んでる状態でも私の耳元をくすぐれるのさ!?


 そんな私の内心を知ってか知らずか、ゲルダさんが口を開く。


「……さっき、工場に行く途中のキーラと会ったんだが……どうしてキーラがアーシャの服を着てたんだ?」

「は、はい!?」


 し、しまった、そういえばゲルダさんとも毎日のように会ってるんだ、私の手持ちの服くらいばれてる!

 キーラの服も大体把握してるだろうし、ということは……。


「昨夜エルマさんから伝言を聞いてアーシャの家にいったキーラが、翌朝何故かアーシャの服を着ていた。

 私だってそこまで初心じゃない、色々邪推はしてしまうぞ?」

「あう、エルマさんから伝言聞いたこと知ってたんですね……」


 もしかしたら、その場にいたのかも知れない。

 となると……察しのいいゲルダさん相手に、誤魔化すのは……まあ、無理だろう。

 だったらいっそ、正直に言ってしまった方がなんぼかましだ。


「た、確かにキーラは昨夜うちに泊まりました!

 でも、やましいことっていうか、一線越えるようなことはしてませんから!」

「ふむ……一線越えるようなことは、か。

 嘘はついていないようだし、信じよう」


 納得したようなゲルダさんの声に、ほっと一安心。

 ……するのはまだ早かった。


「ということは、それよりも大人しいことはした、ということかな?」

「え、ええと、それは……」


 さすがゲルダさん、そこすら誤魔化されてはくれないか!

 どうしよう、昨晩あったあれこれを、このちょっと拗ねてるゲルダさんにそのまま話すのは、リスキーじゃないか?

 でも、どうぼかしたものか……。


 とか迷ってる暇も、情けもくれるつもりはなかったらしい。


「仕方ない、もうちょっと速度を上げてみようか」

「うわ~!? ま、待ってください、話します、話しますから!」


 ……結局私は、キーラと何をしたか、洗いざらいしゃべってしまった……。

 で、でも、何を話したか、は死守したから!

 何の自慢にもならないけど、こう……そこは大事な気がするの!

 ともあれ。


「……キーラだけ、ずるいな」


 というゲルダさんのつぶやきを残して、私はドワーフの集落へと運ばれたのだった。





「やあやあ、お二人さん、お疲れ様!

 ……相変わらずアーシャ先生は、慣れてないみたいだねぇ」


 朗らかな笑顔で出迎えてくれたノーラさんが、すぐに苦笑へと変わる。

 まあ……へろへろと、ゲルダさんに縋りつくようにして歩いている私を見れば、それも仕方ない。

 でも、今日は決してそれだけじゃないと主張したい!


「いやですね、これは……」


 しかし、言いかけて気づいた。

 ノーラさんも、決して察しは悪くない。

 ここでゲルダさんが拗ねたから、なんて言ったら、理由を問い詰められて、また白状することになる可能性は極めて高い。

 な、ならば……。


「ちょ~っと、昨日飲み過ぎたんですよ。

 こっちに一緒に送られた、クリスって子と」


 これなら、嘘はついていないし、理由としても妥当なはずだ!

 ……ゲルダさんが暴露したらどの道おじゃんだけど……今のところ、暴露する気はないみたいだ。


「ああ、なるほど、それなら仕方ないねぇ。楽しかったかい?」

「……そうですね、残念ながら、ムカつくくらい楽しかったです」

「なんだいそりゃ」


 私の返答に、ノーラさんが呆れたような顔になる。

 でもでも、そうとしか言えないから仕方ないじゃないか!


「クリスと言えば、あの明るい子か。確か、この島に来た時、アーシャの次に挨拶してくれた」

「よ、よく覚えてますね……そうです、そのクリスです。相変わらず元気にしてましたよ。

 恋人の紹介もしてくれましたしね。びっくりしましたよ、アラクネーの方とお付き合いしてるんですって」


 あれはインパクトでかかったなぁ……とか思いながら振り返っていると、変な沈黙が落ちた。

 なんか、ゲルダさんとノーラさんがこっちをまじまじと見ている。


「なるほど、それは良いことを聞いた。

 つまりアーシャは、魔物と人間が交際することに抵抗感はないわけだな?」

「えっ、それは、そうですけど……」

 

 クラウディアさん、いい人っぽかったしね。

 って、もしかしてゲルダさん、そこ気にしてたのかな?

 そういえばこないだ、翼が人に当たることを気にしてたし……もしかしたら、隠れたコンプレックスなのかも知れない。

 何かの形でフォローして上げた方がいいのだろうか……。


 とか考えていると、ノーラさんからも声がかかった。


「なあ、そのクリスって子は、確かに人間なのかい?」

「ええ、少なくとも見た目は。私だと魔力を探ってとかできませんし」

「それもそっか。……あたしらドワーフ以外で、アラクネーと付き合えるのがいるんだねぇ」


 ノーラさんはそっち!?

 でも確かに、綺麗で複雑な編み物ができるとモテるなら、ドワーフの人はかなりモテるんじゃないだろうか。


「あ~……なるほど。えっとですね、見せてもらったんですけど、何かの冗談としか思えない速さで、すんごい複雑なレース編みしてました」

「ほほう。それはそれで、是非今度見せてもらいたいねぇ」


 あ、あかん、ノーラさんの技術者魂をくすぐっちゃった!?

 そして多分、クリスも煽るかのように見せつけるに決まってる!

 ……でも、会わせてみたい気もするんだよねぇ……。


「ま、まあ、それはまた今度……ノーラさんが街に顔出す時にでも。

 それよりもほら、今日の用事、済ませましょ?」


 我ながら強引な纏め方だとは思うけども。

 何とかノーラさんを、工房に押しやることができた。

 ……でも同時に、クリスといつか会わせないといけなくなった、ってことでもあるんだけどさ……。

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