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そして、朝がきて、二人

 そして、翌朝。

 窓の外が明るくなってきたのに気付いて、私は目を覚ました。


「ふぁ……んっ、あたた……」


 一晩中ずっとキーラを抱え込んでたせいか、若干体のあちこちが痛い。

 まあ、これくらいならそんなに生活への支障はないだろう。

 まだもうちょっと時間は早いみたいだし……と腕の中のキーラを抱きなおそうとすると、もぞり、キーラが動いた。


「……あれ、キーラ、起きてた?」

「っ!」


 声を掛けると、びくっとキーラは身体を硬くする。

 そういえば、寝てた時の力抜けてた感じと違って、今はちょっと緊張したような硬さがあるな。

 ちらりと窺えば、耳まで真っ赤。

 なんだか動転しちゃってるようにも見える。


「どしたの、そんな硬くなっちゃって」

「わ、私っ、き、昨日っ」

「ん? 昨日がどうかした?」


 昨日は……まあ、確かに普段のキーラからすれば、大胆だったけど。

 でも、キーラらしいと言えばらしかったような。

 ……あれ、もしかして。


「もしかして……昨日のこと覚えてて、急に恥ずかしさがきた?」

「う、うんっ、わ、私こんなこと、しちゃうなんてっ」


 こんなこと……つまり、こうやって私の腕の中に収まってることかな?

 考えてみれば、おいでおいでしたら、そのまま腕の中に入ってきたもんねぇ。

 そこら辺はもしかしたら、お酒が抜けた今思うと恥ずかしいのかも知れない?


「なるほど。確かに恥ずかしくなるのもわからなくはない」

「で、でしょう……?」


 キーラをなだめるために、ぽむぽむとその背中を撫でる。

 ちょっとだけ落ち着いたかのように、キーラはほっと息を吐き出した。


 でも、ねぇ。ちょっと、意地悪な気分。


「でも、先に起きてたのに、抜け出さなかったんだ?」

「っ!?」


 あ、また真っ赤になった。

 ああもう、何か目がぐるぐるしてそうな混乱っぷり。

 可愛くってしょうがないから、またぎゅっと抱きしめてしまう。


「ふふ、離れがたいのは、わかるけどね」

「~~!!」


 言葉にならない悲鳴のような声が漏れる。

 ぽかぽかと私の胸を叩いてくるけど、動きが小さくしか取れないからあんまり痛くないんだよねぇ。

 

「もうっ、もうっ! アーシャのばかっ!」

「あはは、ごめんごめんってば」


 抗議の声を上げられ、私はやっと腕を緩めた。

 すると、ころんと腕の中から抜け出したキーラは、私に背中を向けてしまう。

 あらら、ちょ~っとからかいすぎたかな?


 ……でも、ベッドから抜け出さないってことは。

 もぞもぞと私はその後を追い、キーラに背後から抱き着いた。


「ごめんね、キーラがあんまり可愛いからさ」

「なっ、なに、言ってっ!」


 動揺しているキーラは、言葉が出てこない。……これもこれで可愛いな。

 

 しかし、こうやって背中から抱き着くと、ぴったりと体の形にそう感じで触れ合うから、これはこれで。

 ……お尻とか太ももとかの柔らかさはこっちの方がわかるかも知れない。

 って、朝っぱらからピンクな思考になってどうする!


 まあ、そもそも、ね。

 

「あはは、もうちょっとこうやってたいんだけど、ね~」

「あ……もう、そんな時間……?」


 うん、結構早めに起きてたんだけど、こうやってわちゃくちゃとやってるうちに、そろそろ起きて準備を始めないと、な時間だ。

 すっごく残念だけど、私はキーラから腕を離す。


「うん、そろそろ起きて、ご飯食べて……診察の準備しないと」


 そうなんだよね、残念ながら今日は休診日じゃなかったのだ。

 クリスとの飲みは急遽決まった、計画的なものじゃなかったからねぇ……。

 なので、今日もお仕事はあるし、もう少ししたら患者さんもやってくる。


「わかった、えっと……」

「ああ、朝ごはんの用意してくるから、キーラは……その格好だとあれだし、私の服に着替えてもらおうかな?

 えっと……これとかどう?」


 昨晩そのまま寝ちゃったので、キーラの服は割かし皺だらけだ。

 まあ、正直この世界だと、気にする人はそういないんだけど。アイロンもあるにはあるけど面倒だし。

 でもまあ、一応ね、気遣いとして。


「あ、うん、その……お借り、します」


 そう言って受け取ったキーラは、しげしげと私の服を見る。

 ちょっとだけキーラの方が背が低いけど、そんな大した差ではない。

 問題なく着られると思うんだけどね。


「じゃあ、私先に下に降りてるから」


 そう言って、私は寝室を出た。

 さて、エルマさんとこから買ってきたのは大体食べちゃったし、買い置きのパンと簡単に作れそうなスープと……。

 あ、いけないいけない。


「キーラごめん、顔洗う時は……」


 と、寝室に戻ってドアから顔を出すと。


「ひゃっ!?」


 キーラが、悲鳴を上げた。

 なんでか、私の貸した服を、抱きしめながら顔を埋めた格好で。

 あ~……これあれですか、ラブコメ漫画とかで良くあるあれですか。


「ご、ごめんね、ゆっくり着替えてきてね~……」

「あうっ、あうぅぅっ」


 口をパクパクとさせ、言葉を返せないキーラにそれ以上何も言えず、私はそっと部屋から離れた。

 うん、武士の情けじゃ、何も言わないでおいてあげよう……。





 その後、大分時間が経ってからキーラが下に降りてきた。

 うん、多分立ち直るのにそれくらい時間が必要だったんだろう。

 まだ顔真っ赤なままだったし。


 それ以上追及するのもかわいそうだったし、私も何も言わずに朝ごはんを一緒に食べた。

 食べ終わればすぐに診察の準備をして、患者さんを迎え入れて。

 ……う~む。


「……やっぱり、キーラが朝からいると、準備が早く終わるのは終わるなぁ」

「私も、その……凄く、楽。移動時間がないし」


 キーラの返事に、だよね、と頷き返す。

 これは、真面目にキーラと同居することを考えてもいいのかも知れない。

 いやでもなぁ、そうするとゲルダさん達がなんて言うか……。

 なんてことを考えながら、私が診察を始めて、患者さん達を診ていった。

 大事なことを忘れて。


 普通に、いつもの様に診察して、いつもの様にナスティさんが薬草を納めに来て……で午前中が終わる、と思っていたのだが。


「あらぁキーラはん、今日着てはる服、アーシャせんせのじゃあらしません?

 どないしはりましたん、濡れて汚れでも?」


 と、ナスティさんが言った言葉に、私もキーラも固まった。

 そうか、毎日見てる人だったら、わかっちゃうのか!

 ……あ、じゃあ、常連さんで目敏い人なら、気付いてた!?

 っていうか、今来てる人達にはばれた!


「や、や~、さっき薬草の処理してもらってる時に~」

「ふぅん、そない言わはる割にはキーラはんの髪も綺麗で、この部屋の匂いは普段通りやのにねぇ」


 ……言外に、ここ以外の部屋は知らんけど、とか言われてる気がするぞ。

 少なくとも、泊まったこと自体はもう、隠せない気がする。

 その後もなんとか誤魔化そうとはしたのだけど……もうお昼ごろには、すっかり近所では、キーラが泊まったことは噂になってしまったみたいだった……。

 そして、そのことは後にドロテアさんに聞かれて、改めて発覚することになる。

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