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気の置けない間柄?

「んは~~! 女神様の奢りで飲むお酒は美味しいねぇ~!」

「奢りじゃない! 後でお金徴収するからね!」


 ご機嫌なクリスに言い返すと、私はグラスを煽った。

 ちくせう、ちょっと今日はペースが速くなっちゃってるなぁ。

 

 あの後。

 私とクリスは連れ立ってエルマさんのお店に行って……食べ物を色々とテイクアウトさせてもらった。

 うん、ちょっとね、あのお店、私御用達だって最近来た子達にばれたんだよね。

 と言っても普通に食べ飲みする場合なら問題はないし、なんならゲルダさん達といる時は遠巻きに見られるくらいなんで問題はないのだけど。

 今日は、クリスとサシだ。どう考えても、ぶちまけたトークになって色々ぶち壊しになるのは間違いない。

 ということで、今夜は工房で部屋飲み、となったわけだ。


「やだなぁ、そんなケチくさいこと言いっこなし!

 あれこれ発明してるんだから、結構もらってるんでしょ?」

「あ~……まあ、もらってはいるんだけど、さ。

 手持ちには大してないよ? 魔王様に預かってもらってるし」

「え、なにその堅実さ。女神なんだから、下々に施そう? 

 宵越しの金なんて持たないのが女神の矜持でしょ?」

「そんな矜持はない! 女神でもない!

 っていうか、ほんとにシャレにならないのよ、金額が」


 思い出した私は、思わず額を押さえた。

 あれは、なぁ……いくら魔王様だからって、太っ腹にもほどがあると思うんだ。


「え、そんなに? どんくらいになってんの?」


 というクリスの問いに、私は片手を開いて見せた。


「おお!? 金貨五百枚っって、すんごいね!?」


 クリスの驚きももっともだ。

 多分だけど、金貨500枚で500万円から1000万円近い価値がある、と思う。

 こっちの世界と前の世界で色々物価が違うから、正確ではないのだろうけど、細かいことは気にしない。

 それを2か月そこらで稼いだとしたら、確かに凄いと思う。

 ただ、ねぇ……。


 私は、クリスの言葉に、小さく首を横に振った。


「え。違うの? ま、まさか五千枚!?

 いや、確かにそれくらいの価値はあるかぁ……」


 それでもまだ納得はしてくれるらしい。うんうんと頷くクリスに。


 私は、もう一度首を横に振った。


「はい? ま、まさか……五万枚……?」


 ようやっと私は、こくんと頷いた。


 つまり、億単位である。


「そんなの、私一人の手元に置いてどうこうできるわけないじゃない?」

「いやまぁ、それはそう、だねぇ……。しっかし、ほんっと魔王様太っ腹だなぁ」


 ほんと、ねぇ。

 いや、確かにまあ、今後の礎になった、っていう意味では、その価値は計り知れないとも思うんだけどね。

 それを理解した上で、出すべきをぽんと出してくれる魔王様は、やっぱり上に立つべき人なんだろうと思う。

 人の使い方を知ってる、っていうか。

 こんなことされたら、こっちだってますます「何かしたい」ってなるしさ。


 などとしみじみ思いながらグラスを傾けていると、ふいにクリスが悩まし気に眉を寄せた。


「っていうかさぁ、アーシャ。

 そうやって大金の話を無防備にするのは良くないと思うなぁ。

 無意識に信頼しきったことされると、賢い子ほど気づいちゃうからね。

 ころっといっちゃうから、気を付けな?」

「え、今のもだめだったの!?」

「あったりまえでしょ! 

 どーせアーシャのことだから、『クリスなら大丈夫だと思って』とか言うに決まってる!」

「え、だってクリスなら大丈夫でしょ?」

「だからぁ、それぇ! ほんっと、このラブラブで満たされてるクリスちゃんでも、一瞬まずいと思ったんだからね!?」


 そ、そこまでか……クリスの防御を抜きかけるって、いったいどんなだ、私……。

 いや違う、今日はそもそも、そんな話をするために集まったんじゃない。


「ああ、そうだそうだ、それよクリス。

 そのラブラブな方の話を聞きたいんだけど。

 そもそも、どういう経緯で付き合いだしたのよ?」


 そうだ、そもそもはアラクネーの情報が欲しかったんだよ。

 前にも言ったけど、アラクネーは人間の上半身と蜘蛛の下半身を持つ。

 まず外見からして、ダメな人にはとことんダメな外見と言っていいだろう。

 私? 山暮らしの女なめんな? 蜘蛛も蛇もカエルも平気さっ!


 いや、それはともかく。

 外見の違いもだし、多分文化も相当違うはず。

 なのにお付き合いして、しかもラブラブらしいって、一体?

 むしろ、そのラブラブのどこかに、交渉を上手くいかせるヒントがある気もするんだよね。


「あ、そういう話だったねぇ。

 うん、実は、こないだノーラさんとこで、網を作る作業手伝ってさ」


 ノーラさんとこで、網? ああ、紙を作る時のあれか。


「あれクリスも手伝ってくれてたんだ? ありがとう、おかげでかなり助かったよ!」

「いやいや、お役に立てて何よりさ!

 んでね、そん時に糸出してくれてたアラクネーと仲良くなってさ。クラウディアっていうんだけど。

 話してるうちに、あたしがレース編みが得意って話になって、見せたんだよ」


 ほほう。そういや、クリスは裁縫が得意ってことでステラさんのとこに配属されたんだった。

 だったらレース編みが得意でも納得ではある。


「へぇ、そうなんだ。

 そういや、裁縫得意って聞いてたけど、レース編みもするんだ。そんでそんで?」

「うん、そしたらね。『結婚して』って言われた」

「なんで!?」


 あまりの急展開に、私は思わずツッコミを入れてしまった。

 いや、って言うかどう考えても、おかしくない!?


 だけどクリスは、その疑問ももっともだ、とばかりに頷いて見せる。


「だよねぇ、そう思うよねぇ。

 でもほら、考えてもみてよ。アラクネーって、蜘蛛でしょ? 蜘蛛が餌を獲るには?」

「あっ、蜘蛛の巣? え、そういうことなの!?」

「みたいだねぇ……綺麗だとか複雑だとか、そういう巣を編める人に頼もしさを感じるみたい。

 んで、私の編んだレース模様に一目ぼれしたんだって。

 しょーじき、びっくりしたけどさ、そこまで惚れこんでくれたんだ! って思うと悪い気もしなくってさぁ。

 そんでお付き合い始めたら、これがまた一途ないい子でね?」


 などと、ニヘニヘ、浮かれた笑みをクリスは見せた。

 う~ん……クリスも恋する乙女な顔するんだ。

 ちょっと意外だけど、そういう顔をしちゃう相手が見つかったことが、ちょっとうらやましくもある。

 ……いや、そう思うなら決めちゃえよって言われそうだから黙ってるけどさ。


「な、なるほど、なぁ……ちなみに、どんなの編んだの?」

「ん? んっと、現物はクラウディアにあげたんだけど……似てるのは……こんなのかな」


 と言いながら、カバンから、無雑作に突っ込んでたらしいレース編みを取り出した。


 それを見た私は、思わず声を上げてしまう。


「こんなものをそんな扱いするなぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁ、何々!? 何急に!」


 何、どころではない。むしろこれをそんな扱いするクリスが、なんなのだ。


 取り出されたそれは、精緻な編みこみがなされている、のはもちろんのこと。

 幾何学模様が規則的に変化していき、アシンメントリーでありながら統一性も保たれていて、わくわくするような意外性と、安心するような心地良さを同居させていた。

 しかもそれが立体的に展開されていて、様々な角度で見れば見るほどに新しい発見がある。

 正直、こんなレース編みだったら、それこそ王侯貴族ですら欲しがるんじゃないかと思われる程見事なものだ。


「何、じゃないわよ! なんでこんな凄いの、そんな無雑作に扱ってんのよ!」

「え、だってこれ、練習に十五分くらいで編んだものだよ?」

「嘘でしょ!? これを、十五分で!?」


 私はもう一度、そのレース編みに目を向けた。

 ……どう考えても、練習だとかそんなレベルじゃないのだけど……。

 それなりに器用な私だけど、これを完成させるには……どれだけの時間がかかるやら。

 むしろ、完成させられる気がしない。


「いやいや、クリスちゃん嘘つかない。ほれ、見ててよ?」


 そう言いながら、クリスはレース編み用の針と糸を取り出した。

 そして……針も糸も指も、消えた。

 

 いや、消えたかのように見えるスピードで、レースが編まれていく。

 その早業に目を奪われていること、しばし。


「……ね、簡単でしょ?」

「簡単なわけあるかぁぁぁぁぁ!!!」


 私は、思わず叫び声を上げながら。

 目の前で作られた、先ほどのと同じく、芸術品としか言えない出来のレース編みから目を離すことができなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「……ね、簡単でしょ?」 クリスちゃんって、アフロヘアーなんですか
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