会話は踊る。されど進まず
それから、ステラさんが近くにいた女の子にクリスを呼びに行かせて、しばし。
「お~、麗しの女神アーシャ様、ご機嫌うるわしゅ~!」
「一気にご機嫌斜めになったよ!?」
クリスの第一声に、私は思わずツッコミを返した。
ちくせう、これはこれで今の私にはありがたいやりとりだなぁとか思っちゃったけど、顔には出さないぞ!
「何々、アーシャ様ってば、クリスちゃんに会えてご機嫌うきうき?」
「どんどん急降下してる気がするんだけど、気のせいかなぁ!?」
何か見透かされてる気がしなくもないけど、あくまでも認めない!
正直、そんなに頻繁には会ってないクリスだけど、時々どきっとするくらい鋭いことを言ってくることがある。
普段はこんな感じで能天気なお気楽娘なんだけどね!!
でも、直感とかそういうものには優れている気はするんだよなぁ。
「え~、このクリスちゃんにしばらくぶりに会えて、それは酷いなぁ。クリス怒っちゃうぞ、ぷんぷん♪」
「ごめんクリス、そろそろ大分うざくなってきたから、頭叩いていい?」
「あ、ごめん、それはやめて。割とアーシャの腕力シャレにならないから」
「人を馬鹿力みたいに言わないで欲しいんだけど!?」
確かに、元々山村で鍛えられてた上に、こっちにきてからも地味に肉体労働の多い治療活動に従事してたから、衰えてないけどね!
それを真顔で言われると、本気で酷い馬鹿力みたいに見えるから真面目に止めて欲しい。
ああもう、ステラさんも他の子達も、必死に笑いをこらえてるじゃないか!
「確かに馬鹿じゃないからなぁ……じゃあ、女神ぱわーで?」
「もっと酷くなったから! っていうか女神やめて!」
私の必死の訴えに、しかしクリスは首を縦に振ってくれない。
「でもほら、『女神じゃない!』とか強硬に主張すると夜一人で歩けない空気な昨今じゃない?」
「やめて、否定できない社会情勢をきょとんとした無垢な顔で言うのやめて。ただでさえほんとに否定できないのに」
うん、ほんと、こうやって無垢な表情をしていたら、クリスは可愛い。
サラサラの綺麗な金髪を、敢えて活動的なショートカットにしているのが、かえって彼女のキャラクターに合致して可愛いだけじゃない魅力を見せている。
大きめの瞳に、人懐っこい笑顔。多分、誰かと打ち解けるということに関しては右に出るものはいない子だ。
でも、近しい人に対しては、そういう美点を全部ぶち壊しにするくらいに遠慮がなくなるのは自重した方がいと思うな!
頭叩いていい? って聞いたのは、半分しか冗談じゃないんだぞ!
っていうか……なんか、どんどんそういうとこが酷くなってる気がするんだよねぇ。
もしかして、ステラさんの言ってたのって、こういうことか!?
だとしたら、それは正式に書面で抗議したい。
いくらなんでも、私はここまで押しの強いキャラじゃない。ないよね?
「んふふ、でもそのアーシャ様が、わざわざこうしてこのクリスちゃんに会いに来ますか~」
「いや、会いたかったのは会いたかったけど、今日の目的に関しては偶然だからね?」
とか返したら、何か一瞬クリスが返答に窮した。
それから、考えることしばし。
「うん、アーシャはそういうとこ直していこ?」
「なんで急にダメ出しされてるの!? 私そんなまずいこと言った!?」
思わず反論するけど、クリスは『これだから』って感じのどこか上から目線な笑顔を見せている。
っていうか、なんでステラさんとか他の人もうんうんと頷いてるの!?
「いやね? 『会いたかったんでしょ?』ってからかいの言葉に『会いたかった』って真面目に返したら、返された方はキュンとしちゃうよ?
このクリスちゃんじゃなかったら、コロッと落ちても不思議じゃないんだからね?」
「え、そんなとこで? でも、別に変な下心とかなかったし。
っていうか、クリスに下心とかありえないし」
「それはそれで酷いと思うな!?」
あ、だめだ、クリスとのやり取りが凄く楽しい。
おまけに、もう我慢できなかったらしく、ステラさん達はこらえきれず笑いだしてる。
わかります、漫才かってくらいのやり取りになってるのはわかります。
でもできれば、ご容赦いただきたかった!
「大丈夫、クリスは強い子。これくらいならへーきへーき」
「このか弱く儚いクリスちゃんになんてひどいことを!」
「絶対堪えてないじゃない、その発言。
っていうか、クリス? ちょ~っと聞きたいことがあるのだけど」
一通りクリスとの掛け合いを楽しんだところで、さっきのやり取りで気になったことを聞くことにした。
「え、何々、やっぱりクリスちゃんに興味津々?
うは~、まいったな~、女神アーシャ様さえクリスちゃんの虜か~」
「そうだね、もうクリスしか見えないよ。攻撃対象として」
「まってやめて! 本気で握りこぶしを作るのはやめてぷりーず!」
私のこの手が光って唸る……いやいや、自重自重。
ともあれ、クリスの懇願に、一旦拳は納めた。
「うん、やめておくっていうか、時間をこれ以上無駄に使うのは良くないなと判断したよ」
「それもそれで割かし酷いよね!?」
クリスの抗議の言葉に、私は明るい笑顔でスルーを決め込む。
「まあまあ、それはそうとして。
ステラさんから、クリスがアラクネーの人達に詳しいって聞いたんだけど」
私がそう言うと、途端にクリスが黙った。
え。なんでこの話の振り方で黙るの!?
「ス、ステラさんがそう言ったの?」
「え、うん、そうだけど。……どうかしたの?」
「あ、いやね、うん、あはははは~……ば、ばれてたのかぁ……」
頭を掻きながら、ちらちらとクリスはステラさんの方を伺う。
……ステラさんは、なんというか……すべて丸っとお見通しだってばかりの表情を浮かべていた。
こわっ! って思ったけど、何とか表情には出さないようにできたと思う。
で、できたんじゃないかな……?
「え、何それ。ばれてたって、どういうこと?」
「うん、実はね……その……アラクネーの人とお付き合いしてて……」
正確には人、とは言えないかも知れないけど。
ってそうじゃない!
「お付き合いしてたの!? え、い、いつのまに!?」
「いつのまにって言われる程会ってなかったアーシャに言われるのは複雑だなぁ!」
「それはごめん! っていうかそれはクリスもじゃない!?」
「お付き合いには色々あるの! 夜とか!」
「やめて! 生々しい! わかるけどさ!」
うはぁ……唐突に友達のそういう話を聞かされると、こう、不思議なダメージあるなぁ。
っていうか、そもそも。
「っていうか、内緒にしてたかったんなら、ここで暴露しちゃっていいの!?」
気付いてたステラさんはともかく、他の人達もいるのに……。
いや、どうも表情を見てると、他の人達にも気づかれてたっぽいぞ?
「もうこうなったら、破れかぶれっていうかね!
ついでにアーシャ様のコイバナも聞き出して一緒に自爆してやろうって腹さぁ!」
「やめて! 自分から色々自爆するのやめて! そこに巻き込まないで!
ていうか私は語るようなことはないぞぉ!」
ごめんなさい、ないわけじゃないんですけども。
こう……面子を考えると、あまり大っぴらに言うのは、ほら、さ?
「え、女神アーシャ様のハーレムは割と公然の秘密だよ?」
「まって、何それ聞いてないんだけど」
「そりゃ、当事者に赤裸々に言う人はいないでしょ」
「こういう時だけ冷静かつ的確なのが憎らしい!」
ちくせう、色々ツッコミたいところが多すぎる!
とか、私とクリスで漫才を繰り広げてたら。
「はいはい、色々積もる話もあるみたいですから、どっかに場所を移してくださいな。
これ以上ここに居られたら、私らが仕事になりません。
クリスも、今日はもう上がっていいからね」
「あ、はい……」
「すみません、お騒がせしました……」
ステラさんの裁定に、私たちは素直に従うことにした。
私としても、大分お邪魔しちゃったな~とは思ってたし……。
「よぉし、折角だから今日はとことん飲むぞぉ!」
「まってクリス、それをステラさんの前で言うのは良くないから!」
びき、って空気が鳴った気がしたよ!? ステラさんの表情は全く動いてないのに!
私は背筋に冷や汗をかきながら、クリスを引っ張って、とりあえず街中に向かったのだった。




