輝く笑顔
それから。
早速魔王様はグレース様の時間を押さえ、グレース様の写真を撮りにかかった。
「陛下、火急の用と聞いて参りましたが、一体何事ですか?」
「うむ、まずはこれを見るがよい」
魔王様の差し出した紙……写真を見て、グレース様は硬直した。
サービス精神を出して、ちょうど写真の通りのポーズをドミナス様とノーラさんで作って見せたり。
それを見て……うん、目を見開くグレース様とか、レアだけど、目撃してしまっていいのかなって思っちゃったりはする。
ともあれ、それで写真の何たるかを一瞬で掴んだらしい。
何度も何度も、写真と私達を見比べて。
「陛下。……これは、何かの冗談でしょうか?」
「いっそ、そうであれば妾もなんぼか気楽だったのじゃがなぁ……」
そう言いながら魔王様がさらに、いくつもの写真を取り出して見せる。
見せられたグレース様は、完全に絶句してしまった……。
うん、気持ちはわかるし、主犯の一人として申し訳なくもある、のだけど。
そこまでのものを作ったのは決して私ではない、と主張したい!
……多分認められないのはわかってるんだけどさ。
「で、じゃな。この絵がどうやって作られるというと、じゃな」
そう言うと、魔王様がドミナス様へと視線を向けてくる。
頷き返すと、特命カメラマンであるドミナス様はシャッターを切った。
とりあえず、ということで私とノーラさんが仲良く腕を組んでいるところを。
……若干機嫌悪そうになるのがちょっと可愛い。あ、若干ドロテアさんの視線が痛い。
そして、先程の工程を経て……それはもう良い笑顔のノーラさんと、ちょっと困惑してる私が写った写真が出来上がった。
グレース様は、呼吸すら止まったのではないかと思うほどに、微動だにしない。
うん、まあ、その……衝撃的だよなぁ、とは思う。申し訳ないけども。
「と、まあ、この手軽さで、これほど写実的な絵が作れるわけじゃ」
「……え? え?」
うん、まだ理解が追い付いてないよね、仕方ない、さすがに。
それでも立ち直ったのか、やっと瞬きをして、荒くなりそうな呼吸を抑えながら、すぅはぁと大きく息をすること数回。
グレース様はためらいがちに、口を開いた。
「これは、神か悪魔の所業にしか思えないのですが」
「気持ちはわかる。じゃが、紛れもなく人の所業じゃ。
主にアーシャのやらかしを、ノーラとドミナスが増幅しよったものじゃ」
「いやっ、ちょっとその、その通りではございますが、もう少しこう、容赦をしていただけませんか!?」
重々しい魔王様の言葉に、思わず反論を差しはさんだのだけど……皆スルーってどういうことなの?
打ちひしがれる私の肩を、ドミナス様がぽんぽんと叩く。
「人間、諦めも肝心」
「なんの慰めにもなってないんですけど!?」
ちくせう、最近皆さん割かし私に容赦ないな!?
とか沈みかけてた時だった。
「ふふ、大丈夫、私はわかっていますよ、アーシャ」
そんな優しい声と共に私の肩がそっと抱き寄せられる。
そう、ドロテアさんである。
ちくせう、美味しいとこ持っていこうとするなぁ!? と思いつつも、心はあっさりと持っていかれそうになる。
ところが、そうは問屋が卸さないとばかりに、どん、と私の身体に衝撃が走った。
ドロテアさんの反対サイドから、ノーラさんがくっついてきたのだ。
「そうそう、アーシャ先生のいいとこはちゃんとわかってるからさ」
そう言いながら、にっこりと……あれ、なんかちょっと熱っぽい笑みになってるのは気のせいかな?
やめて、ぐいぐいご立派なものを押し付けてくるのやめて。
あ、ドロテアさんは言うまでもなく押し付けてきている。
あれ、やばいな、と思っていたら……さらに背後から襲い掛かる華奢な身体。
「ごめん、言いすぎた。
お詫びになるかわからないけど」
とか言いながら、抱きしめてくる。
申し訳ないけれど、確かにボリュームという点ではドロテアさんはもとより、ノーラさんにも敵わない。
けれど、こうやって一生懸命慰めようとしてくれるその心そのものが何よりもありがたいのだ。
こう、満たされる気がする。
……三人からアピールされている修羅場の真っ最中ということから目を逸らせるなら、だけれども。
「ええと……とりあえず、アーシャがまたやらかしたことだけはわかりました。
いつの間にドミナス様まで、とは思いますが……」
呆れたように言うグレース様。
……あれ? いやちょっと待ってください、ノーラさんやドロテアさんは不思議じゃないんですか!?
もしかしてまさか、既に公認だっていうんですか、この状況!
とか私が衝撃を受けている間に、魔王様とグレース様の間では話が進んでいた。
「うむ、そこでじゃな。
グレース、妾はそなたが欲しい!!」
唐突な魔王様の告白。いや、多分、ここにいる全員、そう思ってらっしゃるのは知ってますけども。
何よりも一番よくご存じでらっしゃるグレース様は、むしろきょとんとした顔で。
「はあ、既に私の身も心も捧げているつもりですが」
「い、いや、そうなのじゃがな……」
当たり前のように返されて、今度は魔王様の方が照れてしまった。
これもまた貴重な表情なのだけど……。
いいのかな、こんなところを目撃してしまって。
色々社会的にまずい気がしなくもない、けども、目を逸らせるわけもないんだよね……。
「つまり、陛下はグレース様の絵姿を手元に置いておきたい、とおっしゃりたいのです」
「こ、これ、ドロテア!」
「ああ、なるほど……ふふ、それはもちろん、否と言うわけもございませんでしょうに」
さすがのタイミングで入れられるドロテアさんの助け舟に、魔王様は慌て、グレース様は得心してくすくすと楽し気に笑う。
なんだこの、予定調和。
いいぞもっとやれ、と言わざるを得ない。
「では、撮影させてもらう」
と、既にドミナス様は撮影モードに入っており、こっそりと一回、オフショットにも程がある素のお二人を撮影したりしてたけど。
その後はちゃんとグレース様に軽いポーズ指導したりしながら撮影していた。
ついでとばかりに、お二人のツーショットを撮影したりと、実に楽しそうで。
うん、やっぱり、こうして良かったんだと、思う。
実際、出来上がった写真を見て、お二人、特に魔王様は大満足だったしね。
グレース様だって、満更でもないのを頑張って押し隠していたしさ。
それはそれでまた可愛かったのだけれど。
ともあれ、こうして魔王様のやる気は大幅にアップすることになったのだった。
そして。
カシャン、と軽快な音が響く。
撮影した場所、時間、露光計で測った光の量と、カメラ設定をさらさらと記録して、うん、とドミナス様は一つ頷いた。
グレース様と魔王様の写真を相当数取り終えたドミナス様は、時折こうしてお城の外に出て色んな場所で撮影している。
それはもう、明るい広場から、薄暗い路地裏まで。
もちろん、護衛として騎士の人が……結構な確率でゲルダさんがついていた。
そして、もう一度シャッター音が響く。
すると、ドミナス様の手元に、画像が浮かび上がった。
今撮影できたものが、おおよそではあるけれど即座に確認できる仕組み。
撮影したものに反応するよう幻影魔術を組み合わせ、可能にしたものだ。
あれだ、デジカメの液晶ディスプレイみたいなものだよね。
あの後も改良を重ねて、一々印刷しなくてもちゃんと撮影できたかどうか、こうやって確認できるようになった。
屋外での撮影だとこの機能はとても有効で、調査の効率はめちゃくちゃ上がった。
ただし、これを使えるのはドミナス様だけ。
「皆が使えるようにするには、結構時間がかかる」
ということは……一日二日でできることではない。
でも、決して遠くない未来にできるということでもある。きっと。
そっちはそっちで研究してくれているみたいだけど、こうやってフィールドワーク的に光とシャッタースピードや絞りの関係をデータ化する作業も並行しないといけない。
でも、きっと今のドミナス様からしたら望むところ、なんだと思う。
「ほら、アーシャ、こっち」
「あ、はい、少々、お待ちくださいっ」
先を行くドミナス様がくるりと振り返って、笑顔で手を振ってきた。
それに答えながら、私はひいこらとついていく。
「少々お転婆になりすぎじゃないかな」
と、護衛としてついてきたゲルダさんが困ったような顔を作っていた。
でも実際は、こんなに元気になったドミナス様を、心から喜んでいるのが伝わってくる。
そうなんだよね、ドミナス様はやっぱり魔王様の親戚なだけはあった。
こうやって定期的に出歩く、ただそれだけでどんどん体力がついてきている。
もうとっくに、山村の村娘という、それなりに体力があるはずの私は追い抜かれた。
それは、とても喜ばしいことだと思う。
「もしかしたら、ドミナス様はお転婆なくらいが一番可愛いのかも知れません」
息が切れそうなのを抑え込みながら、私はゲルダさんに答える。
うん、きっと、今のドミナス様が一番可愛い。
明るい日差しの中、それに負けないくらいに輝く笑顔を見せるドミナス様を見ながら、私はそう思った。




