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目には目を、功には賞を

「とりあえず、アーシャの責任うんぬんはおいといて、じゃな。

 またとんでもない物を作ってしまったのぉ……」

「そうですね、こうやって一瞬で光景を留めておける、ということは……例えば開発予定地の光景を描画して設計者に渡すのもいいですし、様々なものを開発する過程を留めておくのにも使えます。

 もし速く動くものも捉えられるなら、武術の訓練にも使えるかも知れませんね」


 どこか疲れたようにため息を吐く魔王様に、ドロテアさんが淡々と……でも、淀みなく張りのある声で例を挙げていく。

 なんとなくうきうきしている気配がするのは、気のせいかな……?

 ちら、とこちらを見たドロテアさんと目が合った。

 あ、だめ、やめて、そんなふわっと柔らかな優しい笑みを一瞬だけ、私にだけ見せるのやめて。


 ……やめてドミナス様、気付いて私の腕を抓るのやめて。

 やめてノーラさん、そっと私の足踏むのやめて。

 何より、二人してじっと上目遣いで睨むのやめて。可愛いから。


 なんでサイレントに修羅場ってるの、私の周辺!

 いや、わかってるんだけど、私のせいだって! でもちょっとだけ逃避したかったの!


 そんな私周辺に気づいているのかいないのか……いや、間違いなく気付いてるけどスルーした魔王様が言葉を続ける。


「そうじゃな、文章で留めておける情報量には限りがある。

 視覚情報……その場に何があったか、に関しては、この写真とやらが遥かに優れておるな。

 逆に情報量がありすぎる、とも言えるのぉ。

 そして、文章は必要な情報を抽出しておけるとも言えるゆえ、それぞれに一長一短あるのじゃろうな」


 魔王様の言葉に、皆なるほど、と納得し、うんうんと頷いている。

 それを聞いた私は、びっくりしすぎて言葉を失ったのだけど。

 

 なんで、たったこれだけの間に、そこまで本質掴んじゃうかな!?

 普通なら、未知の技術に驚くか興奮するかで、そんなこと考えられないと思うんだけど……。

 もうすでに、どう使うべきかっていう根本を考え始めている。

 本気でチート過ぎるぞ、この魔王様。


「お、おっしゃる通りでして……。

 流石でございます、陛下」

「ふふ、世辞はよい。

 で、じゃ。これだけのものを見せつけて、妾に何をさせる気じゃ?

 どうせそなたのことじゃから、色々裏で考えておるのじゃろ?」


 あ、お世辞はいらないとかいいながら、ちょっと嬉しそうだぞ。ちょっと可愛いぞ?

 とか、口にしたら不敬にもほどがあるから、真面目な顔を作る。

 ……若干、ドロテアさんにはバレてるような気がしなくもない。

 そうだよね~、生きる嘘発見器だもんね~。でも、黙ってくれてるから、そのまま押し通す!


「いえいえ、そんな、人聞きの悪い」


 やめて、私が返事した途端皆そんな微妙な顔するのはやめて。

 色々自覚はあるんだけど、でもほら、こう、心は繊細な乙女なんだから!

 ……ごめんなさい、割と嘘つきました。

 いや、それはともかく。


「でも、何かしていただきたい、というのはある意味その通りでございまして。

 実はこの機械、カメラというのですが、まだまだ未完成でして」

「は? ……この状態で、かえ?」


 と、魔王様はそれはもう心の底から呆れたような顔をしてくださる。

 でも、実際にそうなんだから、しょうがない。


「はい、特にこの……ええと、実際にお見せしますね」


 と言いながら、カシャン、とまたシャッターを押す。

 そして、今度はシャッタースピードを変えて、もう一枚、二枚。


 そして、撮影したそれを、また印刷してもらった。

 出来上がったそれを見た魔王様は、眉を潜める。


「なぜに、こうも違うのじゃ?」


 そう、手にした写真は、ちゃんと写っているもの、ほとんど真っ白になりかけているもの、逆に真っ黒になりかけてるもの、と見事に別れていた。

 これが写真の奥深いところであり、難しいところではあるのだけど……。


「実は、画像を取り込むためには光を外から取り込む必要があるのですが、取り込む時間が長すぎると白くなり、短すぎると黒くなるのです。

 この辺りの、程よいところを探るのが中々に難しく、その指標となるものを作る必要がございまして。

 室内だけでもまるで違いますし、屋外、昼、夜、となるとさらに変化が激しくなってまいります。

 ですから、このカメラに詳しく、なんならその場である程度微調整できるような方にあちこち出向いて撮影していただき、情報を収集する必要があるのです」


 私がそこまで言うと、魔王様は吹き出しそうになるのを堪え、ドロテアさんはとても優しい微笑みを見せた。

 ノーラさんも、我が意を得たり、とばかりにニヤリと笑って。ドミナス様はあれ? という顔をしている。


「な、なるほど、の。つまり、カメラとやらの開発に携わり、かつ魔術に長けた者をその役割に当てよ、ということじゃな。

 それは、是非もない」


 さすが魔王様、この程度の腹芸などお茶の子さいさいだ。

 うむ、うむ、とわざとらしく重々しい頷きを見せて。

 それから、ドミナス様に向き直った。


「ということで、ドミナス。

 そなたをこの役割に任命する。

 それに伴い、そなたの任意で、護衛として適当な人員を連れて外出することも許可しよう。

 場合によっては夜遅くなり、外泊する必要もあるじゃろうが、それも許可する。

 これは、そなたが一番の適任じゃ、引き受けてくれるかえ」

「え。……え、え。いい、の……?」


 多分、途中から気が付いてはいたんだろうけども。

 あまりに唐突で、あまりに都合がいいからか、ドミナス様はびっくりしていた。

 でも実際必要なことだし、一番適任なのはドミナス様だ。


「もちろんじゃとも。好きに外に出て、写真を撮ってくるがよい」


 よっし、魔王様からの正式な許可が出たぞ!

 思わずノーラさんと顔を見合わせて、にんまり笑い合う。

 だから、絞りを付けたかったんだよね。そして、ノーラさんも汲み取ってくれたんだよね。


 そんな周囲の反応に、ドミナス様は困惑しきりだ。 


「それは、嬉しい、けど……。

 でも、なんで、そんな……」


 なんでも何も、私達からすれば当たり前でしかない。

 だって、さ。


「だって、ドミナス様が『魔力原版』を作ってくださったから、この印刷機も、カメラもあるんですよ?

 だったら、ドミナス様が一番じゃないですか」


 そしてね、ちょっとくらいご褒美があったっていいじゃないか。

 これだけ凄いことができる女の子が、自分の作ったもののおかげで、ちょっと羽を伸ばせるようになるくらい。

 むしろ、足りないくらいだよ? それだけ、凄いことしてるんだから。


 私の言葉に、魔王様もドロテアさんもノーラさんもうんうんと頷いている。

 だよね、皆認めてくれるよね。


 そんな私たちの反応を、茫然とした顔でドミナス様はしばらく見ていて。

 くしゃり、顔が歪んだ。

 そして、顔を見られまいとするかのように私に向かって突っ込んできて、ぎゅ、と私の胸元に顔を押し付けながら抱き着いてくる。

 ぐす、ぐす、と嗚咽が漏れているのを聞きながら、私はぎゅっと抱きしめ返した。

 魔術でできないことはあんまりない、けど、今こうしているのは、華奢で儚さすら感じる女の子だ。

 そんな女の子が抱えていたものを、ちょっとだけ軽くできたなら、こんなに嬉しいことはない。


「色んなところで、たくさん撮影しましょ? それが大事なお仕事なんですから」

「うん……うんっ」


 まだ上手く言葉が出ないドミナス様は、こくこくと頷いてくれた。

 それだけでも、喜んでくれているのが伝わってきて、私も嬉しい。


 そうやって抱き合っている私達を、魔王様達は微笑みながら見守っていた。


「やれやれ、結局アーシャの思惑通りではないかえ」

「ふふ、でも、してやられて不快じゃないのが、アーシャではございませんか」


 ちょっとだけ呆れたような魔王様の声に、ドロテアさんがそれはもう嬉しそうに、どや顔になりそうなのを堪えながら応じている。

 ……そこまで信頼されてるのは、かなりこう……面映ゆいのだけど。

 でも、その言葉はちょっとだけ正確じゃないんだよね。


「でも、まだ完全には思惑通りじゃないんです」


 と、ドミナス様の頭をよしよしと撫でながら割って入った。

 私の言葉に、意外だったのか皆の視線が集まる。


「なんじゃ、やはり治療に使うつもりだったのかえ」

「あ、それは……今すぐには無理ってことがわかりまして」


 実は、『魔力吸収』が人体をある程度透過できたら、レントゲンみたいに使えないかって思ったんだけど……。

 人体は光を通さないし、放射線を扱えるような技術はさすがにないしね。

 でもまあ、結論から言えば、無理だった。

 なんせ、元々魔力を吸収する魔術。人体に向けて照射したら、その人の魔力を吸収するだけ。

 透過する程に過剰な威力で当てる手もなきにしもあらずだけど……魔力を枯渇させ、衰弱させてしまう。

 治療のために瀕死にしてどうする!? 殺してでも治すとか意味わかんないよね!

 ということで、こっちはまた研究することになった。


 で、そもそもこれを作ろうと思ったスタートが、さ。


「そちらはまた今後研究するとしまして。

 こうやって、姿を写し取れるわけですから……例えば陛下、グレース様のそっくりな姿絵が執務室にあったら、やる気が出ませんか?」


 そうなんだよね、元々は、グレース様に構ってもらえないからって拗ねてた魔王様のためだったんだ。

 仕事机の上に奥さんの写真があるとやる気が出るっていうじゃない?

 その効果を期待して、ドミナス様とノーラさんに持ちかけたんだよね。

 もちろん、実用的な意義もたくさんあったし。


 私の問いかけに、魔王様は完全に意表を突かれた顔で口をパクパクとさせていた。

 かなりレアな顔をゲットだぜ! いや、そんなことを楽しんでる場合じゃないのだけど。


「いや、それは、確かにやる気が出る、であろうが……」


 凄く、戸惑ってる。

 この辺り、やっぱりドミナス様と親戚なんだろうか、反応が似てる気がする。

 でもさ、だからこそ……普段からとても頑張ってらっしゃる魔王様に、ご褒美……っていうのは不敬だけど。

 何かいいことを、って思っちゃったんだよね。

 

 しばし、俯いて何やら考え込んだり、宙を見つめたりしていた魔王様は、ドロテアさんの方に向き直って。


「のお、ドロテア。この人たらしはどうしたらいいのかえ」

「それがわからないから、私達も困っております」


 なんて会話を交わしていた。

 

 ……その人たらしって、私だよね? え~……そんな言われる程かなぁ……。

 と思ったのは私だけだったらしい。


「ほんとこう、どうにかできないですかね、アーシャ先生は」

「……いっそ法律を作るべき」


 ノーラさんと、ちょっと涙が収まってきたドミナス様も参加してきた。

 まって、私そんな危険人物扱い!?


 まだ離れようとしないドミナス様を抱きしめたまま、今度は私が途方に暮れてしまったのだった……。

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