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相談、だったはずの何か。

 その日は皆でお昼を食べて、残りの半日はゆっくり休んでくれと解散になった。

 ……一応皆、私を振り回した自覚はあったらしい。

 いやまあ、私も決して嫌な思いをしたわけじゃないし、むしろお得な面もあるにはあったんだけど……。

 でもこう、精神的に疲れたというか、凄く消耗した。それは間違いない。


 工房に戻って割とだらけた時間を過ごし、やっぱりお腹はすくので晩御飯を食べにまたエルマさんのお店へ。

 今度は早めの時間に、一人で。


「ありゃ、今度は一人で来たのかい?」

「あ、あはは……ちょっとエルマさんに聞いて欲しいことがあって」

「なんだいそりゃ、ってまあ、大体想像つくけどね。

 人が来始めたら、そんなにゆっくりは聞けないよ?」


 私の返事に何か察したエルマさんは、苦笑を浮かべながらも頷いてくれた。

 もちろん私だって、仕事中のエルマさんをいつまでも引き留めておくつもりなんかない。


「もちろんです、ちょっと聞いてもらえるだけでいいので」


 という私の返事にはいはい、と頷くと注文を受け、一度奥へ。

 白ワインを持ってきてくれると、私の隣に座ってくれた。


「ありがとうございます……いただきます」


 と、とりあえず、持ってきてもらったワインに口をつける。

 それを見ていたエルマさんが、テーブルに肘をつきながら。


「で、話って? 想像はつくけどさ」

「まあ、そうですよねぇ……で、私、どうしたらいいんでしょう。

 あの中から選ぶなんてできるわけないじゃないですかぁ……」


 遠回しに言っても仕方ないので、直球でぶつけてみた。

 あまりに予想通り過ぎたらしく、エルマさんはまた苦笑する。


「そんなの、あたしにもわかるわけないだろ?

 アーシャがどうしたいか次第なんだし」

「う~……やっぱり、そうなんですよねぇ……。

 その、私次第っていうのが凄くプレッシャーと言いますか。

 何より、私がどうしたいか、がわからないと言うか……」


 一番の問題は、多分そこなんだろう。

 これだけ好意を向けられるということに慣れていない私にとっては、この状況でどうしたい、というのがわからないのだ。

 人に好かれる、ということ自体がそんなになかったし……。

 うん、思い出したら泣きそうになってきたぞ、やめよう。


「んじゃ、どうしたいかがわかるまで、放置しといたらいいんじゃないかい?」

「はい?? い、いや、そういうわけにもいかないでしょ!?」


 思わぬ言葉に、私は思わず声を上げる。

 だって、この状況を放置とか……まず私の神経がもたない。

 だけど、エルマさんは軽く笑って。


「考えてもごらんよ、ドロテアさんも言ってたじゃないか、待ってるって。

 それに、焦って変な答え出しても、かえってあの子らに失礼ってもんさ」

「それは……確かに、そうなんですけど」


 言われてみればその通りなんだけど……う~ん、感情が納得してくれない。


「まったく、生真面目だねぇ。惚れた弱みって言うだろ?

 惚れられた方は、弱みを握ってどーんと構えてりゃいいのさ。

 まあ、それができるアーシャじゃないから、あの子らも惚れたんだろうけどねぇ」


 ケラケラと明るく笑いながら、ぽん、と私の肩を軽く叩いてくる。

 それだけでぐらぐら揺れそうになるくらい、私の頭もくらくらしてたりはするんだけどなぁ。


「惚れた、って……うう、改めて突きつけられると重いですね……」

「なぁに、惚れたのはあっちの勝手、どうするかはこっちの勝手、ってね。

 もちろん、ないがしろにするのはダメだけどさ」


 そう言われたら、そんな気もしてくるけど。

 ないがしろにしない、でもこっちの勝手にするっていう匙加減が難しい。


「そういうもんですかねぇ……まだちょっと、実感ないですけども」

「そういうもんだよ。あんたを惚れさせるのはあの子達のやるべきこと。

 それをいいことに都合のいい女扱いしない限り、あんたは待ってても構やしないんだよ」

「な、なるほ、ど……?」


 もちろん、キーラ達を都合のいい女扱いなんてするつもりもない。

 万が一してしまった日には、魔王様から惨たらしい死を与えられるだろうとすら思うし、そうあって然るべきだと思う。

 でもなぁ、私が主導権握るというか、そういう立場であることが、未だに実感がない。


「ま、アーシャがそういうこと苦手だってのは、ゲルダさんもドロテアさんもお見通しなんだろうね。

 多分、ドロテアさんが仕切ってるのもそういうことじゃないかなぁ」


 言われて、昨夜から今までのあれこれを思い返す。

 ……確かに、そう思わざるを得ない場面が多々あった。


「ねえエルマさん。私、相当申し訳ないことしてませんか?」

「そう思うのもわかるけどね。あの子らが好きでやってるんだ、気にしすぎちゃ失礼さ。

 ああ、でも、どーんと受け止める甲斐性見せるのは惚れさせた側の責任かも知れないね?」


 と、エルマさんは実に楽しそうに笑う。

 き、気楽に言ってくれちゃってぇ……第三者からしたら、それはもう楽しい話題なんだろうけどさ。

 ……あ、待てよ?


「なるほど、責任……そうかも知れませんね……。

 ところでエルマさん、ミランダさんとはどちらが惚れた弱みを見せちゃったんですか?」


 と、私が唐突に斬り返すと、エルマさんはげふげふと咳き込んだ。

 あ、意外な弱点発見。いや、もしかしたらとは思っていたけど。


「……そんなの聞いてどうすんのさ」

「や、先輩の経験談を今後の参考にさせていただければと?」


 目が笑ってないエルマさんの笑顔と、私の曇りない笑顔がぶつかり合う。

 そうして、しばらくの後。


「ワイン三杯奢りでしゃべってあげよう」

「お願いします」


 商談は成立し、私はエルマさんの経験談という惚気話を聞くことができたのだった。


「最初はまあ、あたしっちゃあたしなんだけどさ。

 ミランダのとこのワインに惚れ込んじまってね」

「ほほう。確かにこのワイン美味しいですもんね」


 と、グラスに手をやりながら。

 話し始めたエルマさんの手にも、しっかりグラスはあった。


「で、卸してもらう商談自体は簡単に終わったんだけどね。

 何かにつけて顔を出しちゃワインを褒めてくあたしのことが段々気になったらしくってさ」


 あ、段々話す口調に照れが入ってきたぞ。

 こういうエルマさんは新鮮で、可愛いなって思う。

 グラスを持つ手もちょっともじもじした感じで……え、何このおねーさん、ずるいくらい可愛いんですけど。


「んで、ある時新作ワインの試飲をって誘われてね、何だかんだ言い合いながら大分飲んじゃってさ。

 で、遅くなったんで泊まっていけってなって、ね。

 泊まることにして、ベッドに入ろうとしたとこで、抱き着かれて……まあ、色々言われたわけさ」

「ほうほうほうほう!

 その、色々言われたところ、詳しくお願いできますか!!」


 エルマさんが語ってくれる経験談はとても真に迫っていて、とても申し訳ないけど、すっごく興味を惹かれた。

 大して飲んでないけど、お酒の勢いってことにしてずずいと迫った、んだけどさ。

 エルマさんはちょっとだけ考えて。


「これは、ダメ。

 あたしとミランダだけの秘密、だからさ」


 とか、ウィンクしながら言われちゃうと……それ以上追求できるわけがないじゃない。

 むしろ、ご馳走様としか言えない。だから。


「あ、はい。

 ありがとう、ございまし、た……」


 と、両手を合わせて拝みながら言うしかできなかった。

 そんな私を見てエルマさんは盛大に爆笑してくれたけど、いっそそれがありがたくすらあった。

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