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極楽のような修羅場

 しかし、いつまでも現実逃避をしてはいられない。

 寝ている時はともかく、こうして目が覚めてしまっては、この体勢は色々と、困る。

 いや、寝返りも打てないから辛いって意味だからね?


 とにかく、起きてもらわないと……と思ったところで気が付いた。

 これ……見られても大丈夫なんだろうか。

 特にドロテアさんとキーラの体勢を見られたら。

 こんなところを見られたら、最悪戦争が始まってしまう。


 ならばまずドロテアさんか、と思った時だった。


「ん……ああ、アーシャ、おはよう」


 ぱちり、とゲルダさんの目が開いた。

 さすが軍人とでもいうべきか、ほとんど寝ぼけた様子もなくこっちを向いて、状況を理解したのか小声で声をかけてくる。


「お、おはようございます……あ、あの、これはですね、その……」

「大丈夫だ、わかっている。昨日最後に寝たのは私だからな」

「そ、そうなんですか、なるほど」


 それで状況を理解してくれているからこんなに落ち着いてるんだな。

 と、ほっとしてから、あれ? と小首を傾げた。

 つまり、こうなる状況を止めてくれなかったということでもあるよな……?


 と思っていると。ゲルダさんがベッドに上がってきた。

 四つん這いの姿勢で静かに静かにゆっくりと。

 ……薄着の胸元から、深い谷間が見えちゃってるんですけど!?


「あ、あの、ゲルダさん?」

「皆はそうやって好きにくっつけるが、私はこれがあるから、と遠慮してたんだ」


 これ、と言いながら自分の背中に生えている翼を指し示す。

 確かに、竜の翼は当たると痛そうだし、下手したら怪我をしかねない。

 しかしそうなると、ゲルダさんが遠慮してたこととは。そして今こうして迫ってくる理由とは。


「しかし今こうして起きているのは私とあなただけ、という状況なら少しくらいはいいだろう?

 私だけ、不公平じゃないか」


 あ、やめて、そんな綺麗な顔でそんなちょっと拗ねたような顔するのやめて。

 とかそんな私の気持ちを知ってか知らずか、ゲルダさんはしばし私の顔を見つめると、くすっと笑う。

 そしてそのまま、私の上に覆いかぶさるような格好になった。

 翼が誰にも当たらないよう、皆を起こさないよう気を付けながら、そっと身体を重ねてくる。

 そして、ぽふんと私の胸元に顔をうずめるような体勢になった。


「ちょ、え、ゲルダさん」

「ああ……落ち着くな、あなたの体温は。とても柔らかくて、暖かい。

 皆がくっつきたがるのも道理というものだ」


 心の底から満足したような声を出すゲルダさん。

 こっちは落ち着くどころじゃなく、心臓がバクバクいっているんだけど!?

 そんなことはお構いなしに、頬を、身体を、脚を擦りつけてくる。

 あああああ、ドロテアさんとはまた違う、張りのつよい膨らみが押し付けられるぅぅぅ!


「まって、落ち着いて、ゲルダさん!」

「いやだから、落ち着くと言ってるじゃないか」

「そうじゃなく、この体勢とか、その、色々っ」


 ちくせう、上手く言葉にならないっ!

 言葉に詰まる私に、ゲルダさんはくすっと笑いかけて。


「なるほど。私がこうしてくっついてくるのが嫌だというなら言ってくれ。

 だが、嫌でなければ、少しくらい許して欲しいな」

「い、嫌では、もちろんないんですけどっ。

 あの、ええと、少しっていうか、もう割と大分っていうか!?」


 確かにくっついてる時間はみんなと比べれば短いとは思う。

 けど、寝てる時と起きてる時では、こう、私の方が色々と、困るっ!


「しかし、まだ五分もくっついてないじゃないか。やはり不公平だ」

「そ、それは……でも、私の心臓がっ」

「ふふ、そうだな、早鐘みたいだ……私に、ドキドキしてくれているのか?」


 この状況でしない方がおかしいと思うんですけどね!?

 あ、まって、この格好と距離で見つめないで!

 じりじりとにじり寄ってくるのは、こう、ちょっと、待って!?


 と、私が滅茶苦茶焦っていた所だった。


「ん……あら、おはようございます、ゲルダ。アーシャも」


 不意に、私の頭の上から声がした。

 そう、ドロテアさんである。


 一瞬、助かった! と思った。

 でもすぐに、それが思い違いであることに気づく。

 だって、ドロテアさんは私の頭を抱え込んだまま離してくれてない。


「ああ、おはよう、ドロテア。一分くらい前には起きていたのに、ご挨拶だな?」


 え。


「あらあら、『不公平じゃないか』なんて珍しく拗ねた可愛いことを言ってるから、そっとしててあげたんですよ?」


 え。


 そして、にこやかな顔で笑いあう二人の間に流れる微妙な緊張感!

 ちくせう、やっぱりか! いきなり一触即発状態だよ!

 焦る私の上で、ゲルダさんとドロテアさんの視線が交わる。

 二人は、しばし静かににらみ合い。


「なあ、ドロテア」

「なんですか?」

「場所を交代するのと、お互いこのまま大人しく状況を維持するのと、どちらがいい?」


 まって、なんでそんな交渉になってるの!?

 しかもドロテアさん、なんで考えこんでるの!?


「ふふ、さすがゲルダ、いい提案ですね……では、少しだけ交代を……」

「うむ、交渉成立だ」


 二人はとてもいい笑顔で頷きあうと、場所をお互いに移動しようとした。


「まって、まってください!?

 私の意志はどうなるんですか!?」

「アーシャ、静かにしないとキーラとノーラが起きるぞ」

「え。……あ、あれ、やっぱりおかしい、それ、私が気にするとこですか!?」


 それとも静かに蹂躙されてろっていうの!?

 あ、だめだ、それ言ったら静かに頷かれそうな予感しかしない!


 そうこうしている間に、ゲルダさんがベッドを下り、ドロテアさんが私に向かって身を乗り出してきた。

 私の目の前を、肌着に包まれたドロテアさんのたゆんたゆんなどたぷーんが揺れながら通り過ぎていく。

 かと思えば、ちらりとおへそが見えたり、太ももが私の頬を撫でたり……。

 ちくせう、こんなの身動き取れるわけがないじゃないか!

 思わず、ゴクリ……と喉を鳴らしているうちに、ドロテアさんは私の腰のあたりに移動して、くるりと振り返った。


「アーシャ、ゲルダは良くて、私はだめなんですか?」

「そ、そういうわけじゃないんですけど、で、でもっ」


 私が何もできない間に、ふふ、と微笑んだドロテアさんはそっと身を沈め、私の胸元に顔を埋める。

 ふぅ、とか満足そうな吐息がこぼれると、もう何も言えなくなっちゃうじゃないか。

 

 と、私が観念したところで。もぞ、と左腕に違和感。

 

「……ノーラさん、起きてたんですか……?」

「あはは……や、おはよ?」


 さすがにあれだけ騒がしくしていたら起きても仕方ない、それはわかる、のだが。

 なんで私の左腕を抱え込んでいるのかな……?


「おはようございます……それで、その、これは?」


 挨拶を返してから、左腕をわずかに動かして問いかける。

 ノーラさんは、しばらく考えると……ちょっと上目遣いでこちらを窺うように笑って。


「……だめかい?」


 と言いながら、ぎゅっと私の左腕を抱きしめてきた。

 ちくせう、その言い方と表情はずるいぞ!?

 

 そうは思うものの、この状況で拒否なんてできるわけがない。

 なんて思っているうちに枕元に上がってきたゲルダさんに膝枕され、ドロテアさんにすりすりされて……。


「き、キーラ、起きてぇぇぇ!!」


 何かが私の限界を越えてしまい、キーラを起こすべく、叫んでしまった。


 なお、起きたキーラが現状を理解して、せめてもとばかりに私の右腕にしがみついたので、あんまり意味はなかった……。

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