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埋め合わせという名のお付き合い

「え、それで魔王様拗ねちゃったんですか?」

「ええ、そうなんです。全く、グレース様に対してはこうなんですから……」


 ふぅ、とドロテアさんは呆れたようなため息を吐いた。

 全裸で。


 私達は今、二人で公共温浴施設に来ていた。

 先日、魔王様の暴走を強制終了させてくれた「埋め合わせ」というやつ。

 お城に顔を出した時にドロテアさんに何がいいかと聞いたら、これがいいと言われたんだ。

 以前私が髪を洗ってあげたのが、とても良かったらしい。

 普段魔王様のお世話ばっかりしているわけだから、誰かにお世話される感覚は心地よかったのかもね。


 ということで、ドロテアさんの髪を洗って差し上げながら、お城勤めの愚痴を聞いていたわけだ。

 なんでも、グレース様が執筆に一生懸命過ぎて、構ってもらえないからと魔王様が拗ねているらしい。

 ……おっかしいな、あのカリスマ美女は一体どこへ……?


 私でも言いたくなるのだ、日ごろ御側にいるドロテアさんは色々思う所もあるだろう。

 そんなドロテアさんの気分転換になるならいいのだけど。


「それにしても、魔王様って……最初にお目にかかった時と大分印象変わりました」

「確かに普段はしっかりなさった方だと思いますし、私もあの方以外にお仕えするなど想像もできません。

 ですけど……身内には色んな意味で甘いというか、甘えてくるというか」

「……でも、そういうのも嫌いじゃないって顔してますよ?」

「……アーシャにはお見通しですか、仕方ないですね」


 小さく笑うドロテアさんの長い薄紫色の髪の間に指を入れ、頭皮を指の腹で揉み解し、汚れを揉み出していく。

 若干頭皮が固い気がするのは、ストレスのせいかな~?

 でも、揉み解していくうちに段々ドロテアさんの表情も柔らかくなっていった。

 うんうん、折角の美人さんなんだから、ストレスとかため込まないようにして欲しいよね。


 髪を洗い終わったら、タオルでまとめ上げて、今度は背中を流していく。

 相変わらず、肉感的なエロい背中とお尻だ。

 というのを顔に出さないよう、きりっとした表情を作る。


「んっ……やっぱりアーシャに洗ってもらうのが一番気持ちいいですね」

「あはは、そうですか? まあ、一番手馴れてるでしょうしね~」


 と、明るく応じながら、心の中では煩悩と理性が壮絶な戦いを繰り広げていた。

 いやだって、ねぇ。このすべすべお肌を好きにできるわけですよ、洗うという意味に限定すれば。

 となれば、うっかり手が滑った、とか言って……って、だから、ダメだってば。


 でも、ちょっとだけ気になることがあって。


「ドロテアさん、最近お疲れです? 微妙に背筋や肩が張ってるような」

「……本当に何でもお見通しなんですね、アーシャは。

 最近、陛下のお仕事が増えていますから、結果として私も、という形です」


 そう返すドロテアさんは、ちょっと困ったような顔になった。

 ……あれ、なんか嫌な予感がするぞ?


「……その増加分のうち、何割くらいが私絡みです?」

「……お見通し過ぎるのも困ったものですね、アーシャ」


 や、やっぱりか……。

 ここのところ私が企画提案した案件は多い上に大半が大規模なものだ。

 いや、気が付いたら勝手に大規模になっていってるんだけどさ……そこは私のせいじゃないと主張したい。


 そんな私を見ながら、くすくすとドロテアさんが笑う。


「大丈夫ですよ、別にアーシャを恨んだりはしていません。

 それに、あなたの提案する事業はどれも有用であり、刺激的です。

 確かに忙しいですが、充実している、とも言えますから」


 そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいのだけども。

 でもそうだよな~、魔王様達がそうやって処理してくださってるから、私も好き勝手できてるのは間違いない。

 何かお返しができたらいいんだけど。


 とか考えながら、洗い終わったドロテアさんの背中を流してしまうと。


「ふぅ、ありがとうございます。

 ではアーシャ、次は私があなたを洗いますから、こちらに背中を向けてください」

「へ? い、いや、今日はドロテアさんに私がサービスする日じゃ」

「確かに『埋め合わせ』をお願いしましたけど、お世話されたいとは言ってませんよ?

 お世話されたいのもありましたけど、お世話もしたいんです」


 あ、もう、根本的にそういう性格なんだ、ドロテアさんって。

 確かにいるよ、お世話好きな人。それが生きがいっていうくらいの人が。

 ドロテアさんもそうだというなら、無理に断るのもかえって申し訳ないかも知れない。


「わ、わかりました、じゃあ、折角だしお願いします」

「ええ。……私だけお尻を見られるのも不公平ですしね」

「……お気づきでしたか」


 悪戯っぽい笑い声に、思わず小さく縮こまる。

 考えてみればドロテアさんは、非接触で脈拍がわかるような能力の持ち主。

 あれは何なんだろう、振動が見えるとかそんな感じなんだろうか。

 ともあれそんなドロテアさんだったら、背中を向けていても私の視線がわかるのかも知れない。


「ごめんなさい、つい目がいってしまいまして……」

「別に構いませんよ。あなたになら、ね」


 背中越しに、くすくすという笑い声がする。

 うう、気のせいかなぁ、微妙に意味深に聞こえるの。

 背中を預けてしまった今となっては、大人しく洗われるしかないのだけど。


 しばらく、何てことのないおしゃべりをしながら、背中を洗ってもらう。

 さすがドロテアさん、絶妙の力加減。これなら毎日洗って欲し……いやまて。まさか、これが作戦?


「……? アーシャ、どうかしましたか?」

「いや~、なんでもないですよ~。凄く良い力加減だな~って」

「ふふ、ありがとうございます。何なら毎日洗ってあげましょうか?」


 読まれてる、心の中が読まれてるぅ!

 

「あ、あはは、それはさすがに申し訳ないと言いますか……」

「私なら構いませんけど、ね」


 若干焦り気味の私の声に、ドロテアさんは笑いながら返しつつ、背中を流してくれた。

 ……さすが大人の女、余裕のようなものすら感じる。

 いや、私だって生きてきた年齢は前世と合わせればそれなりなんだけどなぁ!?

 なのにドロテアさんには全然敵う気がしないよう。


 ともあれ、背中を流してもらって髪も洗ってもらって。

 湯舟に浸かってのんびりと手足を伸ばして。

 ……お見事な部分に目がいっちゃうのは仕方ないと思うんだ、うん。

 そして、う~ん、とか伸びをしているドロテアさんを見ていたら、ふと思いつくことがあった。


「ドロテアさん、良かったらこの後マッサージしましょうか?」

「マッサージですか? それは、願ってもないですが……」


 実はこの温浴施設、マッサージ台も併設されてたりする。

 さすがに専門のマッサージ師はいないものの、利用客がお互いにマッサージしたりしている光景はよく見る。

 ちなみに、やっぱり上手い下手は出るらしく、上手い人はよくお風呂に誘われるそうだ。


「じゃあ、ここにうつ伏せになってもらいまして」

「わかりました、こうですね?」


 頷いたドロテアさんが、言われるがままにマッサージ台にうつ伏せになった。

 ……豊かな一部が押しつぶされて形を変え、座ってた時とはまた違う形でこちらにお尻が向けられる。

 ヤバい。これは想像以上に、ヤバい。

 いやいや下心ではないのだ、これはあくまで普段ご迷惑をおかけしたりお世話になっているお返しなのだ。

 そう心に言い聞かせながら、ドロテアさんの背中に指で触れた。


「あ……なる、ほど……アーシャ、上手ですね……」

「えへへ、薬師は人の身体に触れ慣れてますからね~」


 自分で言うのもなんだが、私はマッサージが上手い方だ。

 そりゃまあ、大学時代に筋肉と骨全ての名前覚えて、そのつながりも覚えたんだからマッサージに活かせないわけがない。

 キーラやゲルダさん、ノーラさんにもたびたびお願いされてたりするんだよね。

 特にノーラさんは仕事が仕事だけに凝ってることが多いから……。


 ともあれ、そんな私の手にかかれば、ドロテアさんも一たまりもなく。


「すぅ……すぅ……」


 と、気が付いたら寝息を立てていた。

 ちょっと内心で達成感を覚えながら、起こさないように気を付けつつマッサージを続行。

 30分以上はマッサージしたかな? 一通り解せたと思ったところで、声を掛けた。


「ドロテアさん、マッサージ終わりましたよ~」

「……え、ええ……えっ!? わ、私、寝てました……?」


 意識が戻ってきたドロテアさんは、慌てて身体を起こした。

 こんなに慌ててるところは初めて見た気がする。


「ええもう、ぐっすり。やっぱり、疲れ溜まってましたねぇ」

「そ、そうかも、知れませんね……まさか、私が……」


 寝てしまったことがよっぽど恥ずかしかったのか、ドロテアさんは顔が真っ赤。

 そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ。


「まあまあ、たまにあることですよ、気持ち良くなっちゃったら」

「それは、そう、なんですけど……はぁ……アーシャには敵いません」


 ため息を吐き、困ったような笑顔を向けてくる。

 もしかしたらあれか、魔王様の側近なのに気を抜いちゃうなんて、とかそういうのかな??

 でも多分、そういうストレスとかもあると思うんだよなぁ。


「さて、じゃあ一休みしたら、髪を乾かして着替えましょう。

 エルマさんの店でキーラやゲルダさんと待ち合わせしてるんですよ」

「そうですね、もうだいぶゆっくりしてしまいましたし、そうしましょう」


 そんなことを言いながら私たちは髪も乾かし合いしたりしつつ、楽しくお風呂を堪能した。


 実は、この時の会話で、またやりたいことが増えちゃったんだけど……後にそのことがばれて、ドロテアさんからは困ったような笑みを向けられてしまった。

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