有言実行
とりあえずその日は、大量に刷り上がった印刷物をサイクロプスさん達と一緒にお城に届けた。
その枚数を目にしたグレース様は額を押さえて沈黙し、魔王様はめっちゃ目をキラキラ輝かせていたのは予想通り。
ていうか、城に作ろうとも言いだしたので、まだ改良の余地があるから、と言って押しとどめた。
最後はドロテアさんに引きずっていってもらったけど、凄く申し訳ない。
「今度埋め合わせしてくださいね」
と、すっごく良い笑顔で言われたけど。
……えっと……うん、ちゃ、ちゃんと埋め合わせはするよ!
どうするかは全然わかんないけど!
と、ちょっと現実から逃避しつつ。
改善点を何とかしてみる、と言ってたドミナス様の結果待ちということで、一旦解散となった。
そして、翌日。
「なんとかなりそう」
「もう!?」
午後に尋ねてきたドミナス様に向かって、私は取り繕うこともできず、そう返してしまった。
そんな失礼な振舞いに怒るどころか得意気なところが、また可愛い。
いや、そうじゃなくて。
「いや、昨日の話ですよね!?
なんでもう、できちゃうんですか!?」
そう。昨日洗いだした改善点を、ドミナス様にお願いした。
それがなんでたった一日でなんとかなりそうなの!?
「だから、ほら。
私にできないことは、あんまりないから」
「なさすぎですよぅ!!」
「ふふ、すごいでしょ」
ああもう。そんな得意げに言われたら、思わず頭撫でちゃいたくなるじゃないですか!
「えっと、アーシャ……」
「え? ……あ、うわぁ!?」
ドミナス様の声に我に返ると、いつの間にかドミナス様の頭を撫でていた。
しかも、割と結構な勢いで。
「す、すみませんドミナス様、悪気はないんです!!」
慌てて平謝りする私を、ドミナス様はしばらく眺めていたけれど。
やがて、ちょっと目を逸らして。
「別に、いいけど。
もうちょっと、優しくして」
やめて、そんなちょっと照れたような感じで言わないで。
私の心の何かが削られる。
「アーシャ、ちょっと……あ、あれ、ドミナス様……?」
「あ、キーラ。元気そうで良かった」
ドミナス様の姿を認めたキーラが、びっくりしたように立ち止まる。
そのドミナス様は、キーラへと挨拶した後、しばし考え込んで。
「ごめんキーラ、私の見る目がなくて」
と、いきなり頭を下げた。
下げられたキーラは、慌ててドミナス様へと駆け寄る。
「えっ、な、何を急にっ……わ、私は、大丈夫、ですからっ」
「大丈夫なのは幸い。
でも、君の能力を活かす方法を考えつかなかったのは私の落ち度」
「そんなの……私も、知りませんでした、からっ。
アーシャが、教えてくれなかったら……」
平謝りのドミナス様の顔を上げさせようと、必死になだめすかすキーラ。
どもりながらも、その言葉、何より気持ちに偽りがないのが伝わってくる。
と、ちらり、ドミナス様がこちらを見て。
「うん、アーシャがいたから、不幸には至らなかった。
けど、私の至らなさも事実。
……でも、君を困らせたいわけでもない」
「は、はい、私は大丈夫です、から……。
むしろ、アーシャに出会えて、良かった、くらい、です」
そう言いながら、キーラがちらり、こっちに視線を向けてきた。
ドミナス様も、釣られるようにこっちを見る。
……うん、その視線はちょっとこう、困っちゃうなぁ?
ともあれ、二人の間にあったわだかまり、ではないけど、ちょっと悩ましい感情はこれで解消できたみたいで、良かった。
別の問題が生じ始めてる気はしてるんだけど……と、とりあえず。
「えっと……話の途中に申し訳ないんですけど、ドミナス様、できそうなんですか?」
「ああ、そう。それで呼びに来たのだけど……キーラごめん、アーシャを借りる」
「あ、はい、晩御飯までに返してもらえたら……」
と、ドミナス様とキーラの間では商談が成立したみたいだ。
……売買されてるのは私、なんだけどなぁ……。
そんな複雑な思いを抱えながら、私はドミナス様に引っ張られながらお城へと向かった。
「ああ、アーシャ先生、思ったより早かったね」
先に来ていたノーラさんが私達を出迎え、笑いかけてくれる。
若干苦笑気味なのは、私がいまだにドミナス様に手を引かれてるからだろうか。
やっとここまで来て、ドミナス様は手を放してくれた。
「あはは……お待たせしてすみません」
「じゃあ、始めようか」
ノーラさんに謝る私の横で、悪びれもせずドミナス様が言う。
……ああ、なんかこう、ワクワクしてるんだな、っていうのが伝わってきた。
こういう所を見せてもらえるのは、正直ちょっと、嬉しい。
折角こんなにワクワクしてくれてるんだ、こっちもしっかり結果を出さないとね!
ということで、早速実験に取り掛かる。
といっても、準備は粗方終わっていたのだけど。
「それでドミナス様、なんとかなりそう、というのは?」
置かれた器具を見ながら、そう尋ねる。
何やら棒みたいなのと、板に張り付けられた文字原稿、その反対側には、なにやら見たことのない板。
正直なところ、どう使うものやら想像がつかない。
「うん、実はね、こうやって……」
と、おもむろに操作を始めた。
いきなり棒が光を放ち、それが原稿に当たって……ん?? よくわからない現象が起こった。
多分ノーラさんも同じだったのだろう、二人して怪訝な顔になってしまう。
「い、今のは、一体……??」
「光が、原稿に当たって消えたみたいに見えたんだけど……」
残念ながら、私もノーラさんも、魔術に明るいわけではない。
首を傾げながらドミナス様を見れば……はにかんだ笑みを見せている。
「今のは、闇属性魔術の『魔力吸収』。
微弱な闇属性魔術は、白いものと打ち消しあい、黒いもので反射されるよう調整できる」
「……ほほう? ということは、こっちの板には魔力付与がされていて?」
「文字のとこだけ反射された『魔力吸収』が当たっている?」
私とノーラさんは、思わず板の方を見た。
何の変哲もない板、なんだけど。
取り外して、上からぱらぱらと例の粉を落としたら、確かに左右反転した文字の形に粉が残った。
「え、ちょ、これ、凄くないですか!?
この魔術道具使える人だったら、誰でも同じことできるってことですよね!?」
「しかもインクは黒けりゃなんでもいい、ってわけだ……凄いね、こりゃ」
正直、びっくりである。
これで、ドミナス様への依存度が一気に下がった。
と、思っていたんだけど。
「問題が二つ。設置が面倒。文字の形が歪む」
「……あ。確かに」
原稿をセットする板を置くのはちょっと神経使うし、確かに若干細くなったりしていた。
でもこれなら……。
「でもそれなら、こう当てたら解決するんじゃないですかい?」
と、ノーラさんが言いながら、設置場所を変えた。
原稿を中心に、棒と板を直角に配置。原稿は45度の角度になるように配置する。
……いや、私もこれは考えたんだよ?
反射光がちゃんと紙に対して垂直に入ってくるよう角度調整したんだ。
この角度なら、丁度同じ形で投射される。実験してみても、その通りだった。
もちろん他の角度でも、反射光が垂直に入ってくるように設置したら問題ないんだけど、多分この配置が一番わかりやすい。
で、後もう一つは……。
「設置の問題なんですけど……『魔力吸収』って、ガラスは透過します?」
「あ、なるほど」
さすがノーラさん、これだけで理解してくれた。
そう、つまりはほんとにコピー機みたいな形にするんだ。
設置したガラスに置いて、そこに向けて解呪を投射、反射されたのを受けられる位置に板を設置、という。
「そんなやり方が……でも、言われてみれば納得」
説明されて、ドミナス様も納得してくれた。
となると後は……。
「後は、原稿の交換をどうするか、なんですけど」
「それは問題ない。
この板の状態は、こっちの薄いのに写せる」
「……はい??」
想像もしていなかった発言に、私もノーラさんも固まってしまう。
そんな私達をそっちのけで、ドミナス様は取り外した板を紙のように薄い板にちょんと触れさせた。
実際、粉を落としたら……紛うことなく同じ文字が浮かび上がる。
「……この薄さと柔らかさなら、あの円筒に張り付けられますよね?」
「うん、全く問題ない、はず。しかもこの材質、紙より丈夫みたいだから、耐久性も段違いだ」
一気に問題が解決してしまった。
後はガラス台を作るくらいだけど、これはノーラさんなら朝飯前だろう。
まじまじと、ドミナス様を見つめてしまう。
「ほら、できないことはあんまりない、でしょ?」
と、得意気に笑うドミナス様は、とても可愛かった。




