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ドワーフと魔族が手を組んだ結果

※本日2話連続投稿しております。

前話をお読みになってからこちらをお読みいただきますよう、お願いいたします。

「いや、確かに妾も、どうやって写し取るのか、とは聞いた。

 じゃからといって、本当に写し取るというのはこう……どういうことじゃ」

「そうですねぇ……これも、これも、全て同じもの……ほとんど見分けがつきません」


 お時間をいただいた魔王様とグレース様に印刷したものをお見せしたら、絶句してしまった。

 それからしばらく見つめた後、出てきた言葉がそれ。私もノーラさんも思わずニンマリである。


「すごいですよねぇ、ほんと、ドミナス様とノーラさんのおかげですよ!」


 と胸を張る私に視線が集まる。

 いやちょっと待って、なんで皆さんそんなに見つめるの。

 何か言いたげに黙って見つめられると、すっごく気になるんだけど!?


「はぁ……いやもう、アーシャはそういうものじゃから、な?」

「そう、ですね……どういう人物かは、よくわかりました」


 なにやらぼそぼそ、魔王様とグレース様が言い合っている。

 な、なんですか、すごく気になるんですけど……。


「私はアーシャのそういうところ、素敵だと思いますよ?」


 と、ドロテアさんが曇りのない笑顔で言ってくれた。

 いや、その直球はこう……照れるんですけども。


 何だか色々温度差のある微妙な空気を、魔王様が手を叩いて改める。


「ともあれ、じゃ。アーシャの実験は見事成功、これで後は本格的に稼働するのみ、ということじゃな?

 で、予算が欲しい、ということじゃろ」

「あ、あははは……申し訳ございませんが、左様でございます」

「まったく……こんなものを見せられて、嫌というわけもなかろう。

 金に糸目は付けぬ、存分にやるがよい」


 申し訳なさそうにお願いするも、魔王様は苦笑しつつもあっさりと頷いてくれた。

 まあ、魔王様ならそうしてくれるとわかってはいたんだけどさ。……私も図太くなったというかなんというか。


 ともあれ、魔王様のお言葉に感謝し、頭を深々と下げる。


「寛大なお言葉、心より感謝いたします。

 まだ改良しないといけないところもございますし……」

「ほう、まだそんなものがあるのかえ?」


 十分綺麗に写し取れているように見える紙を見て、魔王様は不思議そうにしている。

 で、私は一枚紙を取り、その文字を指でこすって見せた。

 そうすると、完全には落ちないけど、少し文字がかすれてしまう。


 この状態だと、言わば鉛筆で書いただけの状態だから、こんな感じで薄れちゃうんだよね。

 少なくとも、インク程の耐久性はない。これが今後の課題。

 一応、その解決策は考えているんだけどね。


「なるほど、これは確かに課題ではあるのぉ。じゃが、解決の手立ては考えてあるんじゃろ?」

「ま、まあ、そうなんですけど……でも、上手くいくかはこれから次第なんですけど」


 正直なところ、理屈的な部分はともかく、技術的な部分は私にはどうしようもない。

 後はドミナス様とノーラさんにお任せするしかないんだけど……。


「任せときなって、あたしの作る物に間違いはない、だろ?」

「そして、私にできないことはあんまりない」


 二人が、自信たっぷりに答えてくれる。

 小柄なはずの二人が、やたらと頼もしく見えた。





 うん、そして、ほんっとうに頼もしかったんだけどさ。


「だから!! 誰がここまでしてくれといいました!?」


 第七工場の横に、第八工場と言うべきものができていた。

 その真ん前で、私の悲鳴が響く。


 だが、張本人二人はとても清々しい顔をしていた。


「いやね、あの後あのサイクロプス達も仲間に声を掛けてくれたらしくてね?」

「私の部下も興味津々で協力してくれた」


 と、さも当然のように。

 あかん……この二人の全面協力怖すぎる……。

 その二人の背後では、ゴウンゴウンと機械的な音を立てながら、印刷機が動いていた。

 当然、その動力はサイクロプスが回す歯車だ。


 メインの部分では、円筒に張り付けられた原稿がぐるぐると回り、その上から粉が振りかけられる。

 左右反転した文字にあたる部分以外は帯電している原稿の上に、帯電した粉が。

 それがぐるりと動くと、文字のところには粉が静電気で張り付くも、それ以外の粉は振り落とされ、受け皿のようなもので回収されていく。


 回転の一番下当たりで紙が送り込まれ、その原稿と紙が接する辺りの円筒の内側には帯電した糸が張られており、それに反発した粉が紙へと落とされて文字が形成された。

 それがその先の圧着するローラーに送り込まれていく。


 実は振りかけられている粉は、定着用と、ローラーにくっつかないためのワックスの役割として松脂などの樹脂や膠、蝋など色々混ぜたものが一緒くたになっている。

 これはコピー機のトナーの真似をした形。あれも定着剤とワックスが粉にくっついてるんだ。

 それを再現しながら細かい粉にするのは苦労すると思ったのだけど……。

 

「これをここまで細かくするのには苦労したよ、ほんと」

「実感がわかない! ぜんっぜんわかんない! もう、ほんっと、さらっさらじゃないですか!?」


 そう。そんな樹脂まみれのものを細かくするなんて、相当苦労すると思ってた。

 なのに、いつの間にかこないだの実験の、炭だけの時と同じくらい細かくなってるのはどういうことなの!?


「松脂などがベタつかないくらいの低温で砕く機械を提案した」

「そんなことできるんですか!?」

「できた。さすが私。

 魔術の領域でできないことはあんまりない」


 と、自慢げにドミナス様が胸を張る。

 いや……確かに言われてみれば、その手があったか、という感じなんだけど……。

 ああそうか、冷やすということのコストを無視できる魔術ならできることなのか。


「さ、さすがドミナス様、凄いです!

 それを機械に組み込めるノーラさんも!」

「ふふふ、もっと褒めて」

「そこまで言われるとさすがに照れちまうねぇ」


 二人それぞれの反応に、こう……それぞれに可愛くて、こう。

 いや、だから自重しろ私。


 そして、書かれた文字をここまで綺麗に定着するローラーもなんでこんなに早く実現できたのかわかんない。

 圧力を掛けながら熱で樹脂などを溶かし、粉をインクのように定着させていくのが役割。

 温度管理や圧力調整が相当大変なはずなんだけど……。

 この二人と協力してくれた皆様だったらできちゃうんだろうなぁ……。


 でも、そこまではいい。


「ただね。ここまでだったら、ひたすら凄いだけで終われてたんですよ。

 なんで自動でどんどん紙が送り込まれる機構つけてるんですか!?

 なんでそれを寸分のズレなく送り込める精度で作れてるの!?」


 私はもっとこう、手回し式で一枚一枚印刷していくようなものを想像していたんだ。

 それが、どうしてここまでのものになっちゃってるの!?


「何よりも!!」


 印刷機、としか言えないものの先を、びしっ、と指さした。



 そこでは圧着の終わった紙がさらに送られて、くるりとターンさせられ裏面を上にして流れていくのが見えた。

 その先には、もう一つの印刷機。


「なんで自動で両面印刷できるようにしちゃったんですか!?」


 そう。

 確かに最終目的である本を作るためには、両面に印刷をする必要がある。

 でもね、片面に印刷して、それを裏返してもう一度印刷する、というイメージだったんだ。

 それが、これだよ。まさか紙を裏返す機構作って、もう一台印刷機を置いて、両面印刷実現するなんて思わないじゃない!?


「いやだってね、この機械だと印刷するものを変える時に原稿を取り外すのが面倒なんだよ。

 だったら、同じ紙に印刷するものくらいはこうしちゃってもいいじゃないか」

「う、それは、そう、なんですけど……だからって、なんでできちゃうんですか、これ」


 ノーラさんの答えには、確かに納得する部分があった。

 それができたら、大幅に効率が上がるのもわかってたし。

 だけど、まさかできるだなんて。


「私とノーラの合わせ技」

「……もう、それだけでなんでもできちゃうような気がするから不思議ですよね……」


 うん、こうして見せつけられると、それはもう、暴力的な説得力しかない。

 曰く、紙を送るベルトをちょっとだけプラスに帯電させているんだそうな。

 で、静電気の働きで紙はベルトからずれずに送られるし、マイナスに帯電している粉はくっつきやすくなるしといいことずくめ。

 その結果が。


「大体一分間に20枚は刷れてるかな。もっと早くしたいんだけどね~」

「いや、十分すぎますって……」


 現代日本のオフィス用コピー機で一番下のランクが大体一分間に20枚くらいの印刷速度。

 最初に作った段階でその速度を出せるのだ、十分とんでもないと言っていいだろう。


「改善点としては、原稿の交換をなんとかしたいねぇ。

 今は授業で使う練習用の一枚ものだからそんなでもないけど、印刷するページの種類が多くなった時にどうしたもんか」

「後は、原稿を作るのに使うインクが特殊なものなのと、ドミナス様に魔力付与してもらうしかないのもなんとかしたいですね」


 当面はこれでいいとしても、後々色んなものを印刷するとなれば、改善点は今のうちに考えておきたい。

 と、ノーラさんと二人で考えていたところに、ドミナス様が声をかけてくる。


「その二つ、どうにかできるかも」

「え。そんなことできるんですか?」


 思わずドミナス様をまじまじと見つめた。

 そんな私の視線に、ドミナス様はこくんと頷く。


「うん。ほら、私にできないことは、あんまりない、から」


 答えるドミナス様は、ちょっとはにかんだような笑みを見せた。

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