中間報告と、その先へ
「なるほど、これがそなたの言うておった羊皮紙に代わる紙か……」
「この手触り、滑らかさ……何よりも薄さ。
これを、羊皮紙よりも大量に作ることができるというのですか?」
お時間をいただいて、またお二人の御前に参上し、できたてほやほやの紙を見てもらったら、二人とも信じられないものを見るような目で眺めている。
ふふふふ、凄いでしょ、綺麗でしょ!
「ええ、凄いですよね、ノーラさんとドワーフの皆さんとサイクロプスさん達のおかげですよ!」
と、私は胸を張って答えた。
出来上がった工場でさらに微調整を加えた結果、今や本気で上質紙と見紛う程の紙ができてしまっている。
これはもう、自慢するしかないよね! と思ってお二人に報告していたのだが。
お二人は私をまじまじと見て。同時に、吹き出した。
え、なんで??
「いや、アーシャや、そなた……そこで誇るのが、ノーラや協力者達なのかえ」
「本当に……あなたは、自分の手柄にしてもいいところですよ?」
お二人仲良く、苦笑してらっしゃる。
言われてみれば、確かに発案者は私だし、計画や進行を仕切ってるのも私だよなぁ……。
でも、やっぱり私の力や手柄でもないと思うんだよねぇ。
「なんと申しますか……申し訳ございません。
私からしますと、皆さんのお力添えがないと、机上の空論で終わっていた事柄だと思えてなりませんもので……」
そして、それは多分事実なんだと思う。
木材を切り出す、というだけでも私では無理だ。
そこから先の様々なあれこれ……特に工場関係はノーラさん達あってのことだし、材料はキーラあってのこと。
ナスティさんが集めてくれたものもなくてはならないし、ゲルダさんの協力なくして雷撃魔術の有効利用はできなかった。
そりゃ、きっかけは私だっただろうけどさ。実現するには、私一人じゃとてもとても。
うん、皆の手柄だと思うんだよね。
「なるほど、の。
そういうそなたじゃからこそ、皆も協力するのであろうなぁ」
「そうですね、本当に。……陛下が気にいられましたのも、納得いたしますわ」
「ふふ、そうであろ?」
仲睦まじい様子でお二人は納得している。
……若干いちゃついてないかな、これ。
いや、是非とも目の前で繰り広げていただきたいので、どうぞどうぞ、なんですけども。
だけど、私やドロテアさんという他人の目があるからか、そこで終わってしまわれた。
「さて、これで第一の問題はクリアじゃな。
いよいよ、もう一つ……どうやって写し取るかじゃが」
「そうですね、そちらも、これから実験するところです。
こちらは、ドミナス様にも手伝っていただく予定なんですけども」
「ああ、それで今朝からドミナスがそわそわしておるのじゃな」
と、魔王様が楽しそうに思い出し笑いをしている。
っていうか、ドミナス様もそわそわしたりするんだ!? そっちにびっくりだよ!
「そ、そうなんですね……あ、あまりお待たせしても申し訳ないので、そろそろ失礼いたします」
「うむ、実に楽しみじゃ、励むがよい。
そなたであれば、結果は後からついてくるであろうからな」
「ええアーシャ、焦りは禁物です。あなたなら大丈夫、信じていますからね」
そう言ってお二人とも、そしてドロテアさんも、にこやかに送り出してくれた。
……疑いのない信頼が、重い。そして、応えたい。
重いはずなのに、むしろ私の心に力を与えてくれる。
こんな感覚、ほんと、この国に来ないと感じられなかったんじゃないかな。
だから、もっと感じたい。
そういう意味において、きっとこれは利己的な考えだ。
でも、これくらいは許してもらえるんじゃないかな。
とか自分に都合のいいことを考えながら、私はドミナス様のお部屋に向かった。
「なるほど、これが。
確かに、大したもの」
「でっしょ~、ほんと、アーシャ先生様々ってやつですよ」
ドミナス様の部屋につくとノーラさんとドミナス様が紙を手にして、ああだこうだと言い合っていた。
半分はノーラさんの自慢だったけど……まあ、それも仕方ないと思う。
「すみません、お待たせしました」
「ああ、時間通りだから問題ない」
「お疲れさん、アーシャ先生。陛下とグレース様の反応はどうだったい?」
私が声をかけると、二人が振り返って挨拶をしてくれる。
そして、結果はわかっているだろうに敢えて聞いてくれるノーラさんに、ぐ、と親指を立てて見せた。
「それはもう、感心しきりでしたよ!」
「ふふふ、それはそれは、頑張った甲斐があったねぇ」
「いや、あれは頑張りとかそういう次元を超えてたと思いますけどね……」
ノーラさんの言葉に若干遠い目になりながら、高々と上げられた手に、ぱちんと手を合わせてハイタッチ。
うん、これ自体は嫌いじゃない。むしろ、楽しい。
と、そんな私達を見ていたドミナス様が不思議そうに小首を傾げた。
「何それ」
「え、あ、今の行動ですか?
ハイタッチと言いまして、お互いの健闘を称えたり、何かが上手くいった時に『やったね!』っていう気持ちを共有するためにする行動……でいいのかな?」
「そうだねぇ、そんな感じだよね」
私とノーラさんは顔を合わせ、うんうんと頷きあう。
そんな私達を、ドミナス様はじぃ、と見つめていて。
「羨ましい。私もしたい」
「え、あ、今の、ですか? します?」
唐突な、そして意外な言葉に思わず目を丸くしながら、おずおずと問いかける。
だが、ドミナス様は首を横に振った。
「いや、今はいい。私は何もしていない。
実験が上手くいったらお願いする」
「なるほど、それもそうですね……わかりました。
気持ち良くハイタッチできるよう、実験、がんばりましょう!」
そう言いながら私は、ぐ、と両手で拳を作って見せる。
それをしばらく見ていたドミナス様が、ぐ、と真似をする。
「わかった、がんばる。
そして、気持ち良くハイタッチする」
……ちくせう、可愛いんですけど!?
それにつられたのか、ノーラさんも、ぐ、と拳を作った。
あれか、可愛さもみんなチートなのか!
こうなったら絶対成功させて、もっと可愛いところ拝んでやる!
などと内心でだけ身悶えしながら。
私は、材料を振り返る。インクやら謎の粉やらその他もろもろ。
これを使って、できるかどうか……理屈は多分大丈夫、でも結果はわからない。
ある意味、この島に来て最大の大博打に今から挑むわけだ。
でも、きっと大丈夫。多少失敗はあると思うけど、この二人となら。
そんなことを思いながら、私は、私達は、実験に向かった。




