私は、この島で
「くぅ~~っ、またこのレモン水がうまいねぇ!」
と、実に嬉しそうにノーラさんが声を上げる。
あの後十分に髪を乾かした私たちは、休憩室でそれぞれ椅子に座りながら、レモン水を飲んでいる。
「お風呂って結構汗かいてますからね。しっかりレモン水を飲んでおいた方が体にいいですよ。
あ、飲むときはゆっくり、少しずつ飲んでくださいね」
そう言いながら、私もレモン水に口をつける。
うん、お風呂上がりの身体に水分が染みわたり、実に美味しい。
本格稼働する時にはエルマさんの店とか、この辺りの飲食店が飲み物や簡単な食べ物を出す予定だけど、プレオープンの今日は用意されてない。
でも正直、このレモン水だけでも十分美味しい。
まあ、強いて言うなら……。
「う~ん……氷で冷やせるともっと美味しいんですけど……。
氷を出す魔術とか、結構大変です?」
「適性のある者ならそう難しくもないぞ。
ドミナスあたりは得意だな。というか、あいつは不得意な属性がないからな……」
「え、それって滅茶苦茶凄くないですか??」
聞きかじりだけど、魔術はそれぞれの素質によって使える使えないが割とはっきり決まる。
私なんかは全く使えないし、キーラは水系統が得意。まあ、さらに脱水っていう特殊系統が一番得意みたいだけど。
ゲルダさんは風とその派生の雷。魔王様は風が世界最強、水も得意らしい。
で、ドミナス様は地水火風の四属性と闇属性、さらにその派生各種、全て不得手なく使えるらしい。
さすがに光属性は使えないらしいが。
「私の知る限り、あいつくらいなんでも魔術でできる奴はいないな。
まあ……大体なんとかできてしまう分、使い方の部分ではあなたのような発想がないようだが」
と、ゲルダさんは肩を竦めながらいう。
ふむ。
「ゲルダさんって、ドミナス様には随分と口さがないんですね。仲良しさんなんですか?」
「うん? ……いや、まあ確かに、仲が悪いわけではないし……幼馴染の腐れ縁ではあるから、どうしてもそういう言い方になってしまうかも知れない」
「なるほど、ふふ、そういうの、いいですね」
私には、と言いかけたのを飲み込む。……誤魔化せただろうか。
ゲルダさんの表情に変化はないけど……う~ん、ゲルダさんのことだから、察した上で顔に出さないとかできちゃいそうだもんなぁ。
私自身そこまで気にしてないから、あんまり気にしないで欲しいな、と思うので。
「じゃあ、私もゲルダさんにそこまで言われちゃうくらいに仲良くなっちゃいましょうか」
「はは、アーシャだったら歓迎だよ。ただ、ドミナスとはちょっと違う形になりそうだが」
……うん、意味ありげな視線に見えるけど、きっとそんなことはないはずだ。
私は詳しいんだ。
「ですねえ、私、幼馴染ってわけじゃないですし」
「ああそうだな、それはちょっと残念だ」
笑ってかわそうとしたら、ゲルダさんはそのまま流されてくれた。
……それがかえって本気っぽいと思えるのは私だけだろうか。
とか思ってたら、くいくいと袖を引っ張られる。
「私、は? 私とも、仲良くして、くれる?」
「もちろん! っていうか、もうだいぶ仲良しなつもりなんだけどな~」
「うん、そう、だね」
私がそう答えるとキーラは、ふにゃ、と安心したような笑みを見せてくれた。
くそう、可愛い。
「あたしはどうだい? あたしとは仕事の付き合いだけかい?」
「いやいや、仲良くしてもらえるならもちろん嬉しいですよ!」
ノーラさんまで便乗して来た。
まって、これどういう状況?
「ふむ。ドロテア、そなたはどうじゃ、アーシャと仲良くしたいかえ」
「陛下、お戯れを……否定はしませんけども」
やめて魔王様、楽しそうにけしかけるのやめて。
ドロテアさんも悪乗りするのやめて、心臓に悪いから。
「ああもう、私は皆さんと仲良くしたいです、これからもよろしくお願いします!」
若干ヤケになりながら、そう言い切った。
……いや、別に全員かもーんバッチコイって意味じゃないんだけどさ。
あくまでもお友達よ、お友達。多分。きっと。
「それはそうと、最初の話ですよ、氷の話。
さすがに、ドミナス様に氷屋みたく氷の納品を毎日してもらうわけにはいかないですし。
そもそも、氷を保持しておく場所もないですしねぇ」
当然ながら、この世界に冷凍庫はない。
氷の魔術が使える人が都度都度出す、って形ならいけるし、小遣い稼ぎに来てくれたらかなり助かるのだけれど。
でもそれだと、単価も高くなるしなぁ。
中が真空な中空構造のステンレスボトルでも作れたらいいけど、いくらドワーフでもそれは無理ってものだろう。
っていうかまず、ステンレスがないし。
「妾が命じれば、ドミナスなら毎日来させられるぞ?」
「いや、大変ありがたいのですけども、ここだけじゃなくて他の施設もありますし……」
魔王様がいきなり強権発動しそうになったけど、さすがにそれはご遠慮いただいた。
でも、あれ?
もしかしたら、あの手ならいけるかも知れない??
「ゲルダさん、今度ドミナス様にご紹介いただけませんか?」
「ふむ、その顔は何か思いついたみたいだな?
もちろんだ、任せてくれ」
やっぱりゲルダさんは快諾してくれた。
わかってはいたけど。なんだかその微笑みに、照れてしまう。
でも、正直かなりありがたいから、お言葉に甘えることにした。
これから夏に向かっていく今の時期に、氷だとか冷凍庫だとか、そういったものをなんとかできるようにはしたい。
結構高齢の方もたくさんいらっしゃるから、冷房だって設置できるようにしたいんだよね。
こっちの夏は、多分北方出身の人達には辛いだろう。
そうでなくても外で肉体労働をする人や魔物が多いのだ、熱中症対策を今のうちから準備しておきたい。
思いついたことが上手くいけばいいんだけど。
「アーシャ、一人で考え込まないでください。
陛下は寛大です、あなたの相談には真摯に答えてくださるでしょう」
考え込んでた私に、ドロテアさんがそう声をかけてきてくれた。ついでに微笑みかけてくれる。
……今日だけで、大分印象変わったなぁ。
「ありがとうございます、ドロテアさん。
そうですね、私は一人じゃないですもんね」
うん、と頷いて周りを見回した。
キーラが、ゲルダさんが、ノーラさんが。
もちろん魔王様もドロテアさんも、うん、と頷いてくれる。
私は、一人じゃない。
きっと、私一人でできることなんて、たかが知れていた。
だけどもう、こんなに助けてくれる人たちがいる。
……仲間がいる。って言ったら、どんな顔されるかな。
喜んでくれる気がするのは、うぬぼれだろうか。
見捨てられて生贄として送られてきたというのに。
私は、この島で、とても大切なものを手に入れられた。
だから、もらえた分を、もっともっと、返していきたい。
「だから、皆さん、これからもよろしくお願いします!」
そう言って私は、皆に向かって頭を下げた。
※これにて、第一章が終わりとなります。
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二章は、続けて明日から更新予定でございます。
こちらも是非お読みいただければ!




