一日でやってくれました。
翌朝。
さすがに昨日よりは少ない患者さん達を、キーラと二人で捌く。
途中からゲルダさんが合流して力作業をやってくれたり。
かなりスムーズに回せていたところに、ナスティさんがやってきた。
背中には、昨日と同じくらいの薬草が入った籠。
「アーシャせんせ、今日の分持ってきましたえ。
昨日は人が多くてあれでしたけど、今日は昨日の分と合わせてちゃんとお代いただけます?」
「すみません、昨日はばたばたしちゃって。
昨日の分と合わせて持ってきますよ」
丁度患者さんが途切れた時間帯だし、仮に来ても、キーラに聞き取りをしてもらってたら少し待たせても問題はないだろう。
だから、昨日の分含めてちゃんとお支払いするくらいの時間は問題ない。
……そう、思っていた。
ナスティさんが請求金額を言うまでは。
「ほな、金貨十枚いただきますよって」
「ん? ちょ、ちょっと待った、九枚じゃないんですか?」
昨日、あの後色々探して、ディアさんが書いてた納入書的な覚書を見つけていた。
それによれば、昨日くらいの量は金貨4枚と銀貨50枚で買っていたはず。
こっちだと銀貨は100枚で金貨1枚だから、合わせて金貨9枚になるはずなんだけど。
私の返事に、ナスティさんは表情を全く変えず、相変わらずの何か含んだ笑顔を崩さない。
「ああ、いつものやったらそのお値段ですけども、昨日今日は急ぎ便で行ってもろてますからなぁ」
「急ぎ便!? そ、それはこっちから依頼したわけでもないしっ」
「でも、助かりましたやろ?」
ぐっ、それを言われると一言も言い返せないっ。
確かに昨日のおばあさんとか、あのキノコがなかったらちゃんとした処方ができないところだった。
他にもたくさん、助かった場面は多かったのは間違いない。
しかし、ここで言い値を飲んじゃうと後々まで続く気がするっ。
「あ、次の患者さん来はりましたえ。どないします?」
どう言い返したものかと悩んでいるところに扉が開き、患者さんが入ってきた。
慌ててキーラが受付、聞き取りを始めるけど……ここでいつまでも交渉しているわけにも……。
ちらり、ナスティさんの顔を見る。
……ちくせう、あれは勝利を確信した顔だ、これはわかる。
そして、ひっくり返せるカードはもちろんない。
「わ、わかりました、十枚で」
「ほな、毎度あり~」
私は、苦渋の決断をした。
それを聞いたナスティさんはもう、ニッコリ嬉しそうな顔で金貨を受け取っていった。
ちくせう、次はこうはいかないからな!
私は、そう心に強く誓った。
とまあ、そんな悔しい出来事こそあったものの、その他は順調に終わり。
今日もエルマさんが持ってきてくれたお昼ご飯も食べて、まずは一息、というところ。
「う~……ナスティさんめぇ……」
「まあ、彼女の言うことももっともだし、気にしても仕方あるまい。
確かに、いい様にやられた感はあるかも知れないが、今後の付き合いもあることだし」
ゲルダさんが慰めてくれる。そして、言ってることもわかる、のだが。
でも、悔しいのは悔しいんだいっ。
「お金のやりとり、私がしよう、か?」
「う~ん……それは……」
正直に言えば、ありだ。
何しろ、誰がどう触って流通してきたかわからない硬貨を触るのだ、直接的には患者さんに触れないキーラに扱ってもらった方がいいに決まっている。
キーラの人柄はわかってるから、お金を任せても大丈夫、だとも思う。
理屈の上では、むしろその方がいい、と言えるだろう。一点だけ除けば。
「そこまでやってもらうと、キーラが完全にこの工房の人みたいになっちゃうんだよね~。
それって、大丈夫なのかな、組織的に」
「ふむ、それは私が陛下やドミナスに確認しておこうか」
「あ、すみません、お願いできますか? キーラもそれでいい?」
「うん、もちろん」
ゲルダさんの申し出を、ありがたく受ける。キーラも頷いてくれた。
正直なところ、既にほぼこの工房専属になっているキーラだが、公式に認可をもらえた方が安心だ。
最早キーラはこの工房に欠かせない戦力だ、急にどこかに配置換えとかになっても困る。
……多分キーラも、ここで働きたいと思ってくれてるんじゃないかな、とかも思ったり。
だったら、正式にここ専属にしてもらった方がいいんじゃないかな。
「じゃあ、それはそれで、またゲルダさんにお願いするとして。
休憩が終わったら、今日は午後からもキーラには頑張ってもらうから、よろしくね」
「うん、がんばる」
「ああ、いよいよ例の実験か?」
「そうなんですよ。ノーラさんにお願いしたものができる前にやっておきたいことが……」
そう言った時だった。
何やら外で、ガラガラと賑やかな音がしてきた。
おや? と思っているところに、急にドアがノックされて、ノーラさんの大きな声が聞こえてくる。
「お~い、アーシャ先生いるかい?
昨日頼まれたもの作って持ってきたよ」
「え、はやっ!?」
私は驚きのあまり、大声を上げてしまった。
だって、お願いしたのそこそこ面倒なやつだったよ!?
慌ててドアを開けると、そこには自信満々なノーラさんがいた。いわゆるどや顔である。
そして、確かにお願いした道具らしきものもその後ろにあった。
「ず、随分早くできたんですね?」
「いやぁ、あれをどう使うつもりなのか、どう考えてもわっかんなくてね。
だったら実際に見せてもらうのが早いと思ってさ」
「だ、だからって一晩でって……」
思わず某漫画の執事の名前が出てきそうになったけど、そこは飲み込む。
さすがドワーフ、常識で測っちゃいけないなぁ。
頑張って欲しくてちょっと煽った結果がこれだよ。
でも、困ったなぁ。
「ごめんなさい、その道具を使うための準備を今日しようとしてたので……直ぐには使えないんですよ」
「そうなのかい? じゃあ、その準備も一緒に見せておくれよ。
午後の予定は空けてきたからさ」
そ、そんなに気になるの? まあ、予定ないのなら、いいのかなぁ。
多分キーラにやってもらったら、そんなに時間もかからないし。
ゲルダさんにノーラさんの手伝いもあったら、なおのこと、だ。
「わかりました、途中ちょっとお手伝いをお願いするかも知れませんけど、それでよければ」
「もちろん、ただで見るのも申し訳ないからね」
そう言うとノーラさんは、にっかりと良い笑顔を見せてくれた。




