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交渉:人間編

 ノーラさんとの交渉と打ち合わせを終えて、またゲルダさんに抱えられて一っ飛び。

 ……うん、文字通り飛ぶんだけどね!?

 ともあれ、今度は街の反対の端の方。


 レンガ造りの大きな建物、その向こうに広大なブドウ畑が広がる場所に降り立った。

 着陸する前から凄く良い匂いがしていたから、よっくわかる。

 ここは、ワインの醸造所だ。

 時期的に、今はワインの仕込みはしてないはずなんだけど、定期的に蒸留酒を作っているらしいし、それの香りなのかもしれない。

 

「……なんだか、お土産を買っていきたくなりますねぇ」

「それは否定しないがね。その前にやることをやってしまおう」

「そうですね、そうしないと……ますます飲みたくなってしまいますし」

「なあアーシャ、本当に酒飲みの発言が多いんだが」


 ゲルダさんの指摘に、微笑みと沈黙で返す。

 肩を竦めるだけで済ませてくれたゲルダさんは、本当に大人だなぁって思う。

 まあ、私は大人げないんだけどね!


 ともあれ、ゲルダさんに案内されて醸造所の方へと向かった。

 しばらく歩けばすぐに、住宅として使われてるっぽい小さめの家に辿り着く。


「ミランダさん、いるかい?」

「ええ、お待ちしてましたよ、ゲルダさん」


 ゲルダさんが声をかけると、すぐに三十代くらいの女の人が出てきた。

 畑仕事で日焼けした顔、濃いめの茶髪、そばかすの多い顔。

 でも、とても活力に満ちた顔をしていて、凄くチャーミングだ。


「すまないね、時間を取ってもらって。

 それから、彼女がさっき話をした、薬師のアーシャだ」

「初めまして、ミランダさん。

 こちらのワイン、すっごく美味しかったです。

 エルマさんも自慢のワインだって言ってましたよ」

「はい、初めまして、ミランダです。

 ……あらあら、エルマったらそんなこと言ってたの?」


 私が挨拶をするとミランダさんも返してくれたのだけど、エルマさんが~の下りで5割増し以上の笑顔になっちゃった。

 若干頬を染めながら、ニコニコニコニコ……あれ、もしかして、これは……キマシ?


 いや、邪推はよくない。今後注意深く経過観察をしよう。

 などと心の中で思いつつ。


「それで実は、作っていただきたいものがあって、こちらに伺ったんです」

「ええ、うちで役に立てるものなら喜んで。

 もしかして、蒸留酒かしら」

「そうなんです、蒸留酒の、できるだけ香りも味もついてないものをお願いしたいんです」


 さすが、お酒による消毒が理解されてる街なだけはある。ミランダさんも凄く察しが良かった。

 つまり私はここに、消毒用アルコールのもとになる物を作って欲しいとお願いしに来た訳。

 濃度調整が必要になるから、最後はキーラの『脱水』で水を飛ばしてもらうことにはなるのだけど、できる限り糖分や香りの少ないものであるに越したことはないから。


「ええ、むしろその方が簡単だから、もらうものさえもらえたら、きっちりさせてもらうわよ?」

「ありがとうございます、お金に関しては問題ないと思いますので……ちなみに、おいくらくらいで?」

「そうねぇ、大体……」


 と、そこから私とミランダさんの価格交渉が始まった。

 お互いに納得のいく金額になった、とだけは言っておく。




 交渉が終わった後お土産用に蒸留酒を一本購入させていただいて、今度はそこから歩くことしばし。

 ぎっこんばったん、賑やかな通りへとやってきた。

 

「わぁ、凄く賑やかですねぇ!」


 心の底から感心して、思わず零す。

 多分だけど、いわゆる工場制手工業、マニュファクチュア的な生産体制ができてるんじゃないだろうか。


 工場、というにはまだ小規模だが、多分考えとしてはそれに近いものがある。


 この辺りを仕切っているのは、ステラさんという年配の方らしいのだが……。

 あれか、ステラさんもディアさんと同じく、チートなのか。


 私のいた国の王都でも見たことがないくらいに活気があり、かなりの勢いで布や衣服が生産されているのが見て取れる。

 そりゃまあ、女だらけの国だから衣服の需要は多いんだろうけどさ。ここまでの生産体制を築けるって一体……?


 遠い目になりそうになったが、この状況ではむしろありがたいので、何も言わないでおこう。


「この辺りは、ドワーフの集落の次に賑やかなんじゃないかな。

 あちらは金属音が強いから、流石に敵わないだろうけども。

 活気という点では、引けを取らないと思う」


 ゲルダさんが、そう解説してくれる。

 確かに、この地域の人たちはみんな、活気に満ちている。

 全員がエルマさんか! ってくらいに。


「そういえば、一緒に来たクリスがここに配属されたはずなんですよね……元気にしてるかなぁ」


 まだ一日しか経ってないのに、妙に時間が経ってる気もする。

 あの元気なクリスならば、馴染めてるんじゃないかと思うのだけれど。


「ステラさんならその辺りも把握してるだろうから、聞いてみるといい」


 私の心情を察してくれたのか、ゲルダさんがそう言ってくれる。

 とても、優しい笑みで。

 とても、心臓に、悪い。


 ともあれ。


「そうですね、ゲルダさんのおかげで時間に余裕もありますし」


 これは、嫌味でなくそう思う。

 ノーラさん達ドワーフやミランダさんとの交渉も終わって、多分時間はまだ16時とかそれくらいだ。

 あちらの都合もあるが、これならゆっくりとお話できるんじゃないか、と思う。


「私にできるのは、お膳立てくらいだからな。後はアーシャ次第だぞ?」

「それはまあ、なんとか、がんばりますっ」


 そう言って、ぐっと両手を握って見せる。

 

 ゲルダさんからの事前情報によれば、穏やかで優しい人らしい。

 でも、これだけの集団を仕切ってるだけあって、優しいだけの人でもない、とのこと。

 多分私のことも値踏みされるだろうし、提案自体もシビアに評価されるだろう。

 

 望むところではあるのだが。


「……本当に、タフだな、アーシャは」

「タフじゃないと生きていけなかったですからね。

 でも、この島だったら……優しくないといけないかな、とも思います」


 優しくなければ生きる資格がない。なんちゃって。

 正直なところ、この世界では男も女もタフでないと生きていけない。

 優しくしている余裕なんてとてもなかったとも思う。

 けれど、この島でなら……優しくあろう、なりたい自分であろうと思える。

 きっとそれは、ゲルダさんをはじめとする、人々との出会いがあったから、だけれど。


「そう、だな……あなたが優しくあれるように、と思うよ」


 そう言ってゲルダさんは、何とも言えない優しい笑みを見せてくれた。


 ちくせう、なんだよこのイケメンオーラ! 女性だけど!

 いやでも、私は勘違いしないぞ、私は詳しいんだ!


 まあ、こんなことを考えてる時点で負けてる気はするのだけれど。


 さて、そんなことを思いながら待ち合わせの建物の中へ。


「おやおや、こんな可愛らしい方が薬師の先生なんですねぇ」


 にこやかな笑顔でステラさんが迎えてくれた。

 ……うん、多分、油断したらいけない人だ。

 ナスティさんと同じ匂いを感じる。


 かと言って、最初からそう決めてかかるわけにもいかないし、協力してもらわないと相当困る。


「初めまして、アーシャと申します。

 この度は、貴重なお時間いただきまして、ありがとうございます」


 ぺこり、と頭を下げると、ステラさんが目を細めた。

 ……値踏みされてる気がするよ?

 まあ、いくらでも値踏みしてくださいよ、と開き直りもできてるのが不思議なところ。

 

 ……隣にいるゲルダさんのおかげが、相当にある気はするけども。


「ええ、なんでも、私らが治療に役立てるとか?

 もしそれが本当なら、協力するのもやぶさかではないですよ」


 ……一瞬、その顔に影が落ちた。

 そうだよね、ステラさんも結構な年齢。

 色々……見送ってきたんだろうと、思う。


「はい、布の力は、本当に偉大なんです。

 包帯はわかりやすい例ですけど、それ以外にも色々と。

 それで、もしこういうものが作れたらさらにありがたい、というものがあるんですけども」


 欲しいのは、さらに細い糸で緻密に織られた布。

 それから、細い糸でふんわりと織られた、ガーゼのような布。

 そして、もう一つ。

 パイル生地。

 タオルによく使われている、くるくると糸が輪になって飛び出ている生地のことだ。

 これが、どうしても欲しい。

 今は手ぬぐいのような薄い物しかなくて、吸水性がとても悪い。

 だから、パイル生地の物が作れたら、とてもありがたいのだ。


 私の説明を聞いていたステラさんは、しばらく考えた後、こくりと頷いてくれた。


「はぁ、なるほど……確かに、できなくはない、と思いますが」

「ありがとうございます、一度、作ってみていただけますか?

 これがあるとないとで、これから先が大分違うんです」


 私の言葉に、ステラさんの目が鋭くなる。


 うん、やっぱりだ。

 こうして元締め的立場になっていても、この人の根っこは、職人だ。

 できますか? と聞かれたら、できるに決まってる、馬鹿にしてるのかと思う類の人だ。

 そういう人は、個人的にはとても好ましい。

 それだけに、こうやってその性格を利用するのは心苦しいのだけれども。


「話はわかりました。

 当然、それに見合うお代はいただけるんでしょうね?」


 今度は、こちらが試されている。

 そして私は、迷うことなく頷いて見せた。


「もちろん。私の名と、何よりも魔王様に誓って」


 きっぱりと、笑顔で言い切る。


 そうしていながら、内心でこうも考える。

 ……さあ、魔王様に根回しして、予算もらわないとなぁ……と。

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