交渉:ドワーフ編
食事を摂り終わった後、一休みしてから外出する。
ちなみに、キーラはちゃんと言いつけ通り大人しく寝室に行ってくれた。
……寝てるところをなでなでしたいな~とか思ったのは仕方ないし、自重した私を褒めて欲しい。
ともあれ、まずは最初の目的地、ドワーフの集落へと向かう。
いや、向かおうとした。
歩こうと、思ったんだよ。
「アーシャ、あなたは疲れているだろう?
それに、先方をあまり待たせてもいけない」
外に出た途端、ゲルダさんがそう言って私に寄り添い……すぅっと、本当に軽々と、私を横抱きに抱き上げた。
いわゆる、お姫様抱っこである。
……え? え!? ちょ、ちょっと待って!?
「ちょ、あの、ゲルダさん、この格好はそのっ、恥ずかしっ」
「気持ちはわかるが、まあその、合理性のために我慢してくれ」
そこでそんな爽やかな笑顔を見せられましても!?
やめて、私スカートなの、多分この格好だったら中は見えないと思うけど、一応ほら、恥じらいってものがぁぁぁぁぁ!!
という私の内心は、無視された。
多分、多少わかってて、わざとやった感じがいなめない。
……ゲルダさんなら許せる、と思ってしまうのが、ほんっとにずるいと思う。
ともあれ。
「わひゃぁぁぁぁぁ!?」
色気も何もない悲鳴を上げながら、私はゲルダさんに連れられ、大空の旅に出た。
「し、死ぬかと思った……」
ドワーフの集落に辿り着いた私は、げっそりとした顔でそう呟く。
いやね、加速は緩やかで、降り立つ時もふんわりとしたソフトランディングだったんだけどさ。
最高速度がね、えぐかったんだ。
後、考えてみれば、割かし結構喉元に来る減速だったような気が。
考えてみればプロペラ機でも時速500㎞とか出せた記憶がある。
ゲルダさんのそれが、どこまでかはわからないけれど……多分、生身で新幹線並みかそれ以上の速度を体感させられたんじゃないかと思われる。
そらぁ感じたことのない風圧感じますよ、服が飛びそうな感覚になりますよ!!
ああ、生きてるって素晴らしい。
「すまない、一応ゆっくりと飛んだつもりだったんだが……やはり慣れない人には辛かったか」
「あ、あれでゆっくりなんですね……。い、いや、ありがとうございます、おかげであっという間でした」
そう言いながら、ゲルダさんの腕の中から降りる。
……うん、若干足がぷるぷるしちゃうのは仕方ないと思うな。
と、思ったら。
「やはり、驚かせてしまったようだな。
ならば、私が運ばせてもらおう」
と言うなり、またゲルダさんは私をお姫様抱っこした。
まって、まって!?
心臓と脳みそが追い付かないんだけど!!
「や、待ってっ、下ろしてください、見られる、見られちゃうっ!!」
これから、全く見知らぬドワーフの皆さんがいる集落に行くというのに、この格好はあまりに恥ずかしすぎる!
必死に訴えるも、ゲルダさんは涼しい顔だ。
「なに、見られても、あなたがこれだけの扱いを受ける存在だと見られるだけだ、問題ない」
「私の羞恥心的に問題があるんですってばぁぁぁ!!」
私の叫びが響く。
何とかそれは聞き届けてもらえたらしく、集落の入り口直前で下ろしてもらえた……。
うう、見られなかったけど、なんだか妙に恥ずかしいっ。
「おやゲルダさん、もうちょい後からだと思ってたんだが、随分と早いね?」
ゲルダさんに連れられて案内されたのは、集落の中でも中心にある、一際大きな家。
ノックをして中に入れば、一人のドワーフ女性が迎えてくれた。
人間の三分の二くらいの身長、ずんぐりむっくりとした横幅のある体。
でもその体は、みっしりと筋肉によって構成されていることが良くわかる、力強いフォルム。
髭は、流石に生えていない。ドワーフといえば豊かな髭、というイメージがあるが、やはりそれは男性だけらしい。
ずんぐりむっくりと表現したが、太っているという印象はない。
どちらかと言えば、丸っこくてかわいいという印象の方が強いかな。
こげ茶色の髪の毛は量が多く、それを器用に二本の三つ編みにしてまとめている。
出迎えてくれたドワーフの女性は、私の方をじろじろと無遠慮に見てきた。
ドワーフはどちらかと言えば率直な人柄の人が多く、こうやってまじまじと見てきたりと無遠慮な人が多いみたい。
でもそれは、興味があるという意識の表れであり、粗探しとかそういう意味ではないのだ。
……うん、とあるグラスランナーさんの顔がふと浮かんだけど、気にしない。
「ああ、時間が気になったので、ちょっと飛んできたんだ」
にこやかに応じるゲルダさん。
それが、比喩的表現でないことは、誰よりも私が良く知っている。
多分相手の人にもそれは伝わったのだろう、若干苦笑気味に見えた。
「なるほど、道理で。
で、そちらがアーシャ先生で?」
と、私の方に視線が向けられる。
じろじろ、値踏みするような視線を向けられるのは仕方ないことだろう。
「ああ、こちらがアーシャ。
こう見えて、凄腕の薬師なんだ」
「ええと……凄腕かはわかりませんが、薬師のアーシャです。よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
その間も、じろじろとした視線は向けられている。
……特に、私の手を見られているような気がした。
「うん、確かに経験のある薬師の先生っぽいね。
あたしはノーラ、このドワーフ集落の顔役をさせてもらってるもんだ」
そう言って、やたらと頼りになりそうな笑顔を見せてくれる。
なんだろう。
姐御、という言葉が似合いそうな、そんな人だった。
「それで、ゲルダさん。
こちらの先生がお求めの道具を作ればいいんです?」
「ああ、お願いしたいんだが」
ん~……仕方ないとは思うけど、まだまだ半信半疑というか、信頼されてないものを感じる。
まあ、それも当然ではあるのだが。
「よござんす、他ならぬゲルダさんの頼みとあらばね」
若干恩着せがましい気がするのは気のせいかな?
そういえば、ドワーフは頑固で気難しいと聞いたことがある。
なるほど、新参者の依頼をホイホイ受けるわけじゃなく、信頼あるゲルダさんからなら、ということかな?
それはそれで彼らの職人気質の表れと思えば嫌いじゃないが、だからといって、舐められっぱなしでも見下されっぱなしでも良いわけがない。
これから、ドワーフの人たちには色々と協力をお願いしないといけないのだから。
ここで変に見下されていては話にならない。
「ありがとうございます。こんな面倒なことは、ドワーフの方にしかお願いできなくて」
「ふぅん? なんだい、そんなに面倒なことなのかい?」
……なるほど、プライドをくすぐられるような言葉には反応しちゃうのか。
「ええ、とても面倒で……多分、最初は意味がわからないと思うんです」
「ほほう。なんだい、物づくりであたしらにわからないことがあるってのかい?」
「物を作るっていうことに関しては、それはないとは思うんですけども。
使い方、には、わからないこともあるかなって」
「面白いじゃないか、どんな道具が欲しいってんだい?」
おお、見事に食いついてくれた。
正直、かなり有難い。興味を持って技術を費やしてくれるかどうかで、完成度はかなり違うと思うから。
ともあれ、私は欲しい道具を伝えていく。
舌圧子はさすがに意味はすぐにわかってくれた。
それから、聴診器の説明をしてみたら。
「ああ、近い道具ならあるよ。あたしらも岩盤叩いて中の様子を聴くことがあるからねぇ」
「そうなんですか!?」
思わず大声を上げてしまった。
そう、言われてみればそれも当然のこと。
実際前世の世界でも岩盤の打診調査はしてたはず。
であれば、より岩や石に馴染んでいる彼女らが、それを開発していても何の不思議もなかった。
でも正直、これは嬉しい誤算と言わざるを得ない。
ついでに、食事用の四枚歯のフォークの形状を説明して、試しに作ってもらおうとしたり。
「なんでわざわざ、そんな面倒なもん作るんだ?」
「実は、手づかみで食べることが原因で広がる病気もあるんですよ」
「へぇ? そんなものもあるんだねぇ」
と、これは凄く不思議そうだった。
当たり前だけど、細菌とかそういうの知らないわけだし、これは仕方ないところだろう。
そうして細々と色々な道具を伝えて、試作品を作ってもらう協力を取り付けて。
いよいよ本命の道具の仕様を伝えると……途端に困惑した表情になってしまった。
「そりゃ、作れるけどね。そんなの、何に使うってんだい?」
「そうですねぇ……言葉では説明しにくいですから、納品の際に使う所をお見せしましょうか?」
「おう、そりゃありがたいね、是非とも見せてくれ!」
最後にはノリノリでそう言ってくれたので、よしとしよう。
これなら早いうちに出来上がるんじゃないだろうか。
そう思っていた時も、ありました。
まさか、あんなことになるなんて……想像も、できなかった。




