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夢のような一夜が明けて

「はひ~、飲みましたねぇ、食べましたねぇ」


 魔術の明かりで照らされた夜道を、私はご機嫌に歩いていく。

 並んで歩くキーラも、前を行くゲルダさんもそれぞれにご機嫌だ。


「いや、本当に。少しとか言いながら、中々行ける口じゃないか、アーシャ」

「あ、あははは、あれです、良いワインだったから飲みやすかったんですよ、きっと」


 からかうように言ってくるゲルダさんに、私も冗談めかして返す。

 実際、この世界のワインとしてはかなり頑張ったもののように感じられた。

 どうしても醸造技術が低いから、質の悪いものが多いんだよね……仕方ないんだけど。


 それにしても。


「ていうかゲルダさん、大分飲んでましたよね?

 なのに顔色一つ変わってないって……」


 どうしても、呆れたような顔と声になってしまう。

 あの後、一人でボトルを二本くらいは空けていたのだが、まったく平気そうだ。

 まあ私もそれなりには飲んだが、とても比べ物にならない。


 それに比べると……。


「ふふふ、二人とも、強い、よね……。

 私、なんだか、ふわふわする……」


 ほんわかとした笑顔を浮かべる、キーラ。

 若干足取りがふわふわしてる気もするので、私が隣で腕につかまらせている。

 掴み方といい、笑い方といい、遠慮がちでありながらも可愛らしい。

 もうこのままお持ち帰りしちゃいたい。


 いや、まてよ?


「あ、そういえば、キーラの家ってどうなるんですか?」


 ふと思い至り、ゲルダさんに尋ねる。

 おや、と何かに気が付いた風にゲルダさんが立ち止まり、こちらを振り返った。


「そういえば……魔術師は寮のような扱いの集合住宅があるんだが。

 キーラ、部屋の話は聞いたか?」

「あ……そういえば、聞いて、ない……?」

「ドミナス、あいつ……後で文句の一つも言ってやらないとだな」


 そう言いながら、ゲルダさんが苦笑する。

 確かに、キーラを預かった責任者であるドミナス様に、連絡不備の責任はあるのだろうけれども。


「まあまあ、ドミナス様だって、急な事で慌ててしまったんじゃないですか?」

「確かにあいつは、臨機応変というのが得意ではないが……すまない、キーラ」

「あ、ううん、それは、いいのだけれど……私、今夜はどうすれば……?」


 困ったようなキーラの声に、私とゲルダさんは顔を見合わせる。


「ゲルダさんの家に泊めてもらうか、工房に泊まってもらうか、ですかね。

 幸い、空き部屋もありますし」


 工房、というだけあって、複数人が寝泊まりできるだけの広さはあった。

 多分だけど、ゲルダさんの家も広いんじゃなかろうか。


「あ~……私の家は、ちょっとキーラには辛いかもしれない。

 一応、ドラゴンの巣と言えばそうなるから」

「な、なる、ほど……?」


 その言葉に、納得していいのかどうか、迷ってしまう。

 スカイドラゴンの生態に詳しいわけではないが、ドラゴンの巣というと……こう、冒険者の死屍累々だとか、火山の近くだとか、そんな物騒なイメージが湧くことは否定できない。

 かと言って、そんなイメージを抱きつつ、納得した様子を見せて、ゲルダさんが傷つかない保証もない。

 結局、なんとも言えない反応を返すくらいしかできなかった。


「じゃあ今日は、アーシャのとこに泊めてもらう、ね」

「ああ、それがいいだろう。私が二人を送っていって、ついでに集合住宅の方に寄って事情を話してくるよ」

「すみません、お願いします。……何だかゲルダさんにはお世話になってばっかりですね」


 言うまでもなく、さっきのエルマさんのお店の飲食代もゲルダさん持ちだ。

 この島に来てから、本当に最初からずっと、ゲルダさんにはお世話になりっぱなし。

 何とも申し訳ない気分になるのだけれど。


「なに、二人にはこれから助けてもらうだろうから、その前払いみたいなものだ。

 あなた達の性格を考えたら、こういう扱いを受けたら逃げられないだろう?」


 そんな、ちょっと性悪なことを言うのだけれど。

 言いながら見せる笑顔がとても優しくて暖かいものだから、真に受けることなどできやしない。


「ふふ、そうですね、明日からもう、馬車馬のように働きますよ、私」


 でも、敢えて乗ってみた。

 ぐ、と力こぶを作るようなポーズを見せると、ゲルダさんが楽し気に笑う。

 キーラも、私の横でこくこくと頷いている。うん、可愛い。


「ああ、二人とも明日からもよろしく」


 そう言って差し出されたゲルダさんの手を、私はしっかりと握り返した。


 だが、この時私は知らなかった。

 まさか、この言葉を後悔することになるだなんて。





 ゲルダさんに工房まで送ってもらった後。

 

「一人で寝るの、寂しい」


 なんて可愛いことをキーラが言い出すものだから、二階の同じ部屋に寝ることにした。

 ベッドが一つしかないから、キーラにベッドを使ってもらって。

 もちろんキーラは嫌がり、自分が床で寝ると言い張ったが、ここは譲れない。

 

「じゃあ、一緒に寝よう?」


 とか言ってくれたが、それも必死にお断りした。

 そんな可愛いことを言ってくれるほろ酔い美少女を前に、私の理性を信じることなんてできるわけがない。

 

 とにかく。私は、この素晴らしい一夜を、健全に乗り越えたのだ。


 そして、翌朝。


「ふあ~……キーラ、おはよ」

「ん……おはよう、アーシャ」


 差し込む朝日に、二人して目を覚ます。

 こんなに気持ち良く眠れたのはどれくらいぶりだろう。

 多分それはキーラも同じで、寝起きの顔は少しまだ眠そうだけれど、とても顔色が良かった。


 うん、よかった。

 なんて、そんなことを思いながら、立ち上がって……ふと、気付く。

 何だか、がやがや賑やかだ。


 なんだなんだ? と思って私は窓辺に近づき……。


「……は??」


 窓の外を見て、絶句した。


「え、どうしたの……??」


 私の様子に怪訝な顔をしたキーラが寄ってきて、同じく外を見て目を丸くする。


 眼下には。

 にぎやかにおしゃべりをしながら列を成す人たちが、ずらりと並んでいたのだから。


「ど、どういうことぉぉぉぉぉ!?」


 私は、思わず大声で叫んでしまっていた。

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