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下ごしらえ、あるいは悪だくみ

 ひとしきり泣いて落ち着いたキーラの涙を拭いてあげて、改めてお茶にする。

 すっかり冷え切ったチャイだったが、何故だかことのほか美味しく感じられた。

 いやうん、何故だか、わかっちゃいるのだ。


 予想外にキーラという素晴らしい人材を獲得できたこともそうなのだが。

 キーラを慰められたことそのものが、とても嬉しかったから。

 だなんて言わせないでよ恥ずかしい。


 ともあれ、お茶を飲み終わる頃にはキーラもすっかり落ち着いていた。

 

「ドミナスも今はああやって偉そうにしてるが、昔はな……」

「え、そう、なの……?」


 ゲルダさんの披露するドミナス様の暴露話に、くすくす控えめな笑い声をあげている。

 ……クールイケメン系大人美人のゲルダさんと、控えめ子犬系美少女のキーラが談笑する光景、プライスレス。

 

 はっ!? いかんいかん、気が緩んで昔のオタクの顔が大分出てきちゃってるよ!?


 折角ここでは高評価を得ているのだ、イメージを崩すわけにはいかない、と気を引き締める。

 ……動機が不純? うるさい、ほっといてよ。


「さて、と……そろそろ日も傾き始めたが、どうする?

 今日はこれで解散、でもいいし、なんなら一緒に夕食を食べに行く、でもいいが」


 談笑が一息ついたところで、ゲルダさんが不意にそんなことを切り出した。

 え? と思って慌てて窓の外を見ると、確かに街並みが少しばかり赤くなり始めている。


「うわぁ……大分長いことおしゃべりしてましたもんねぇ」


 我ながら、自分に呆れてそうこぼす。

 いやでもほら、おしゃべりって時間が経つの忘れることってあるじゃない?

 それにこうやって気兼ねなくおしゃべりできたのって、だいっぶ久しぶりだし!

 と、自分で自分に言い訳をしながら。


「できれば、夕食は一緒だと嬉しいです。

 私はエルマさんのとこに行けばいいけど、キーラがちょっと心配ですし」

「ああ、それはそうだな、確かに」

「あう、あ、ありが、とう……」


 なるほど、と頷くゲルダさんの横で、キーラが小さくなっている。

 ……何この可愛い生き物。え、愛でていいの? あ、だめ?

 いや、それはともかく。

 感謝と恐縮こそあれ、変に自分を責めるような空気がなくなったことに、内心でほっとする。

 それを表情に出したら再発しそうな気もして、表情には出さないように努めつつ。


「後、明日以降の予定なんですけど……キーラのおかげで出来ること、やりたいことが一気に増えたので、明日もある程度色々準備に使いたいんですよ。

 なので、患者さんを診るのは午前中だけにして、午後からはあちこち出歩きたいんですけど、いいですか?」

「いいも何も、ここの方針を決めるのはあなただ、アーシャ。

 私はあなたの指示に従うまで。ああ、もちろん明朝に騎士団の予定を確認したりはするが」


 なんだろう、この気配りと真面目さの絶妙なバランス。

 私に気を遣わせないように、それでいて騎士としての務めもきちんと果たそうとしているゲルダさんの言葉に、思わず感心してしまう。

 その横に座っていたキーラが、ちらり、ゲルダさんを見て、私を見て。


「わ、私は、ここに出向、だから……アーシャに、従う」

「ふふ、ありがとう、キーラ」


 健気な物言いに、思わず微笑みながら返すと、ちょっと頬を染めて俯いてしまった。

 くそう、美少女はこういう仕草すら絵になるなぁ!

 ……一応私も外見だけは美少女のはずなんだけど、どうにも我ながら可愛げがない。

 いやいいんだ、私はこう、バリキャリ風な生き方でいいんだ! などと自分で自分を慰めつつ。


「じゃあ、明日の午前中は、私は診療、キーラは私の手伝いで。

 ゲルダさんは、騎士団の方が大丈夫だったら、お願いしたいことが山ほどあるんですけど……」


 やりたいことは山ほど。しかし、それができるのは今のところゲルダさんだけ。

 となれば、申し訳ないけどお願いするしかない。

 の、だが……。


「ああ、もちろん、任せてくれ。私ができることならなんでもしよう」


 当のゲルダさんが、この爽やかスマイルで即答である。

 なるほど、そっか~、これが眩しい笑顔ってやつか~。

 とか、眩しすぎて思わず遠い目になりながら。


「いいんですか? ほんっとうにたくさんありますよ?」

「アーシャがそこまで頼ってくれるのは嬉しいからね。なんでも言ってくれ」

「そうですか、じゃあ、遠慮なく」


 対抗するように、私もにっこりと笑顔を浮かべた。

 ……あれ? なんでキーラが怯えたような顔になってるのかな??


「まず、ドワーフの方に明日の午後からお会いする約束を取り付けていただきたいんです。

 それから、醸造所というか、蒸留酒を作っているところにも同じく。

 できれば布を織ってる機織り屋さん? そういうのがあったらそこに……あ、そこは明日の約束でなくていいです」

「なるほど、確かに中々多いな。だが、これくらいなら大したことでもないぞ?」


 私のオーダーに、余裕の笑みを見せるゲルダさん。

 そうだろうな、とも思う。

 魔王様によれば、ゲルダさんは飛行能力を持っているという。

 多分、あの翼で飛べるんだろう。航空力学的にはあれだが、確か翼が魔法の力を増幅してとかなんとか。

 ともあれ、飛べるのであれば数㎞くらい移動して約束を取り付けるくらいは大した問題でもないのだろう。

 かなり顔も広いみたいだし。

 だが。


「後、これが一番大事なんですが」

「おや、そんなに大事なことが?」


 もったいぶった私の言い方に、ゲルダさんが興味を惹かれたような顔になる。

 それに対して私は、笑顔のままで。


「海水を運んできて欲しいんです。できるだけ大量に。そこの裏庭に」

「……は?」

「できれば大きな酒樽に……そうですね、5樽とか、それ以上。

 あ、もし手伝ってくださる方に心当たりがあったら、その方に頼んでいただいても。

 海水を運んでもらうこと自体は秘密でもなんでもないので」

「あ、ああ……私一人でもある程度は運べるし、荷運びは心当たりもあるが……。

 海水なんて、一体何に使うんだ?」


 怪訝な顔をするゲルダさんに、私は意味ありげな笑みを見せて。


「ふふ、秘密です」


 そう言って、片目をつぶって見せた。

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