改めて知る人の縁
その日。
空は澄み渡った秋晴れ。
ゲルダさんのドレスにも似た、鮮やかな青。
お日柄も気候も良く、程よい涼しさで過ごしやすい秋の一日。
式場として、バルコニーじゃ狭いからとお城の中庭に会場が設置されたんだけど、そこは、大勢のお客さんで賑わっていた。
正直、覚悟はしていた。
なんせドミナス様とゲルダさんが同時に結婚する式なのだ、そりゃぁ国を挙げた式典になるのも仕方ない。
でも、この熱気はどう考えてもそれ以上だ。
キーラの勤めている工場で働く人達の姿が見える。
工場の大黒柱として活躍するキーラは、人望もしっかりと獲得していたらしい。
どの人も、皆一様に晴れがましいというか、嬉しそうな顔をしていた。
ドワーフの方々も大勢来ていた……というか、ほとんど全員じゃないの、これ。
何度も行ってるから、ドワーフの集落の規模と人数はおおよそわかってるけど……多分、全員に近い人が来てると思う。
この辺り、ノーラさんの人徳は流石だなぁ。
あっちの方に固まってるのは、お城のメイドさん達かな?
晴れ着というか、普段と違ってドレスを着てるので確信は持てないけど、見覚えのある人達が何人もいる。
本人は気づいているのかわからないけど、裏で色々きっちり取り仕切るドロテアさんは、メイドさん達からとても好かれている。
こうやって来てくれてるのが何よりの証拠だよね。
ドロテアさん本人は、照れて素直に認めないかもだけどさ。
あ~……エルマさんとミランダさんも来てくれてる。
二人仲良く並んで……うんうん、おそろいのドレスもすっごく似合ってる。
ああいうカップル、いいよねぇ……私の場合はもう、カップルっていうか……六人だとセクステットだったっけ。
……いや、なんか変なことを考えたりはしてないよ? うん。
そして、やっぱり来ている薬師三人娘と信者の皆様方。
うん。
増えてるね。確実に。……どうしたもんかなぁ……ああ、あの人、地震の時に心肺蘇生した人だ……まあ、うん、仕方ないかもね……。
わぁ、フォレストジャイアントの族長さんも来てくれてる。
もうすっかり良くなった、どころか、前よりも調子が良いとか言ってくれてたけど、元気そうで良かった。
……いや、元気すぎるんじゃないかな……あの納入された家具、王城のより立派なんじゃってくらいだったし……。
あ、サイクロプスさん達も来てる。相変わらず、こういうとこではちゃんとおめかししてきてるのが可愛い。
いや、それが褒め言葉になるのかわかんないけど。
向こうにはアラクネーの皆さんと、クラウディアさんと仲良くしてるクリスがいる。
……信者の皆さんと似たような表情の人が多いのは気のせい……じゃないんだろうなぁ。
でも、衣装にはすっごく協力してもらったし、しっかり着飾ったとこ見てもらわないとね!
ちなみに、ステラさんは衣装責任者として裏方に回ってくれてる。
普段のちょっと強面な表情はどこへやら、すっごく満足そうにしてくれてたのが印象的だった。
やっぱり、いい人なんだよね。じゃないと、あれだけのお針子さん達纏められないだろうしさ。
後は、っと……ああ、ジェシカさん達がいるとこで、さりげなくナスティさんが色々面倒みてくれてるなぁ。
なんだかんだ言いながら来てくれてるし、多分あれこれ言いながらも、面倒を見ずにはいられないのだろう。
そんで、ジェシカさんとか年配の方にはそれが見抜かれてるんじゃないかな。
だからこそ、ナスティさんもやりやすいところがあるのかも知れない。
ああ見えて、意外と気にしぃなとこもある気がするし。
いやしかしまあ、こうして見ると。
「ほんっと、この島に来てから、色々変わっちゃいましたねぇ……」
腫れ物扱いされていた、以前の日々。
それに比べたら、ここでの生活は、ここで得た縁は、充実しているなんて言葉では足りない程だ。
表現する言葉も浮かばないし、どうお返しをしたらいいのかもわからない。
わからない、けども。
多分、今日ここで、私達の晴れ姿を見せることは、お返しの一つになるんじゃないかなって思う。
思いたい。多分思ってもいいんじゃないかな?
「私はここに来る前のアーシャを知らないから、なんとも言えない部分はあるけれども。
もし変わったと思うなら、それはアーシャがここに来てから行動した結果だと、私は思うな」
私のつぶやきを聞いたゲルダさんが、そう言ってくれる。
「アーシャ、何度も言っていますが、あなたはそれだけのことを、いいえ、それ以上のことを為してきたのですよ。
また列挙してあげましょうか?」
ドロテアさんが、にっこりと笑いながら脅してくる。
いや、正直それは勘弁願いたい!
「まあ、うちの集落でも全く反対が出なかったどころか、皆諸手を挙げて賛成してくれたしねぇ」
「え、そうなんですか? それは、嬉しいけど、なんだか恐縮だなぁ……」
私の発想と企画力は、ドワーフの皆さんにも好意的に受け入れられていたらしい。
確かにまあ、ドワーフの集落に行った時、皆さん好意的に対応してくださっていたけども。
今までやってきたことがそういう形で認められていたのなら、嬉しいな。
「大丈夫、何か言う人がいたら、私が何とかするから」
「待ってキーラ、お願い、そこまでしなくても私でなんとかするから。
キーラには綺麗なままでいて欲しいの」
「アーシャ……わかった、私、信じてる……」
危ない、こんなところで闇墜ちさせかけるとは……。
っていうか、『脱水』の危ない使い方、私教えてないよ!?
まさかキーラ自分で気づいたの!? いや、まだ気づいていないと思いたい!
でも、キーラの『脱水』は直接的でなくても使い方によっては危ないしなぁ……。
「なるほど、できないことはあんまりない私の出番」
「違います、出なくていいです、いえ、ドミナス様は強力すぎるんです!
ああああ、っていうかここにいる皆強すぎだぁ!?」
違います、と言った途端にしょぼんとしたドミナス様へのフォローのつもりで言ってる最中に気づく。
いや、改めて気づく。
ここにいる人達、皆強すぎなんだよ!
だめだ、実力行使させたらだめだ! 実力行使はへっぽこな私がなんとかしないと!
「いや、別にそなたが何かする必要はなかろう。
妾が一言口を出せば、のぉ」
いつの間にかいらしていたらしい陛下のお言葉に、私は思わず背筋を伸ばす。
「ひぃっ!? へ、陛下、その……ええと……冗談、では、半分くらい、ない、ですね……?」
「無論じゃ、そなたは最早この国に欠かせぬ人材。
であれば、そなたの生活に安寧をもたらすのは王としての務めであろう」
「申し訳ございません、話が大きくなりすぎかと思われます!」
おかしいよ、なんでそんな大事になってるの!?
……いや、おかしくないか。
私の結婚式がこんな国を挙げての行事になってるんだから。
でもでも、私は平穏無事に、慎ましやかに結婚式を挙げたかっただけなのに!
「受け入れよ。ことここにいたっては、最早そなたの結婚だなんだは国の命運を左右する。
であれば、公的にも大衆にも受け入れられたという形を作るのが得策であろう」
「理屈はわかるのですが、感情がまだ微妙についてきていません!」
うん。
わかってるんだ。
こうやって、一大行事的な形で私達の関係を公表して受け入れてもらった方が、今後色々やりやすいことは。
わかってるんだけど、でも、大事になりすぎなんじゃないかな!?
「そうか。では、慣れよ」
「……はい?」
「うむ、慣れるがよい。存外、慣れてしまえば感情もついてくるものよ。
妾とて、生まれたときから王というわけではなかった。
じゃがの、立場が、役割が、妾を王に育てていった。そういうものじゃよ」
「な、なるほど……それは、わかる気がします」
チート能力満載ではあるけれど、王としての資質をそれとは違うところで見せている魔王様がこう言われると、すごく説得力がある。
大半の人は、多分魔王様の力を恐れて従ってるとかじゃないもんね。
「ゆえに、慣れよ。
立場に、役割に、行いに。何よりも、向けられる感情に。
それは、無視せよということではない。
まずは素直に受け止められるようになることじゃ。
その上でこそ、返したいものを返すことができるようになろうというものじゃろ」
「それは……はい、確かに、左様でございます」
魔王様の言葉に、私は頷くことしかできない。
あ~……やっぱりこのお方は、カリスマだ。そう思わざるをえない。
心の底から、この国に来て良かった、と思ったのだけれど。
「よってそなたは、女神としての立場と役割に慣れる必要がある」
「ちょ~~っとお待ちいただけますか!? それはまだ、その、もうちょっとお時間をいただければ!」
私の悲鳴は、盛況な会場のざわめきにかき消された。




