表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/246

よもやの来訪者

 ざっくり工房内を確認したが、つい数日前に掃除されたかのような室内は、普通に使う分には問題なさそうだった。

 診察室として使えるような清潔な小部屋が欲しいところだが、それはおいおい考えるとしよう。

 

 其の後ゲルダさんには水汲みをお願いし、私はどんな道具があるか、残ってる薬草はあるか、などの確認をしていく。

 幸い、道具は使ったことがある、もしくは似たようなものばかりであり、これなら問題はなさそうだ。

 薬草類もいい乾燥具合であり、状態は良い。

 つくづく、誰かさんはこまめに面倒を見てくれていたのだろう。


「どうかな、アーシャ」

「あ、ゲルダさん、お疲れ様です。

 そうですね、これなら最低限のことは明日からでも始められそうです」


 水汲みを終えて顔を出したゲルダさんに、そう答える。

 もちろん、乾燥させられない薬草類の在庫はないから、来る患者さんの状態によっては即応できないけれども。

 痛み止め、解熱剤など、ひとまず症状を抑えるだけだったらできる、という薬草類はしっかりとあった。

 ……つくづく、ディアさんはできる人だったんだろうなぁ、と思わされる。

 

 その後を継ぎ、これらの道具や薬草を使わせてもらうのだ、恥じないようにせねば。

 そう、決意を新たにする。

 とはいえ、本格的な活動は、明日からにはなるだろう。


「さて、と。一段落着きましたし……ちょっとお茶にしましょうか」

「ああ、それはありがたい。さすがに少し疲れたしな」

「……少しで済むんですね、そうなんですね」


 そう言いながら、ちらりと水の入った瓶や、移動してもらった荷物類を見やる。

 合計で50㎏くらいはあるような気がするんだけれど、気のせいかな?

 それらを運び終えたゲルダさんは、いたって涼し気な顔なのだが。

 まあ、半竜人であるゲルダさんは人間よりも筋力があるから、本当に大した労働でもなかったのかも知れない。

 

 だからといって労う必要がないわけは、もちろんない。

 幸い、茶葉も少しあったので、それでお茶を入れさせてもらおう、とした時だった。


 コンコン。


 表で、ドアノッカーが叩かれた。


「ありゃ、お客さんみたいですね。ちょっと出てきます」

「それなら私も一緒の方がいいだろう。私が紹介した方が話が早いだろうし」


 というゲルダさんの言葉に、それもそうだと一緒に来てもらう。

 

「は~い、どなたですか」


 と言いながらドアを開けると、そこには。


「ええと。先程ぶり、というか、なんというか」

「ありゃ、キーラじゃない。どうしたの、こんなところに」


 そう、そこには、ここまで一緒の船で運ばれて先程一度別れた、キーラが立っていた。

 なんだか凄く困ったような顔でもじもじとしている。


「その、ここに来るように言われて」


 そう言いながら、彼女は地図を示してきた。

 差し出されたそれには、確かにここの位置が書いてある。

 いやしかし、正確な地図だとは言え、よくこれ一枚で見知らぬ街を一人で歩いてこれたな。


「そうなの? ああ、立ち話もなんだし、入って入って。

 ちょうどお茶にしようと思っていたところだし。

 ゲルダさんも、それでいいですか?」

「もちろん。キーラの話も気になることだしな」


 予想通り、あっさりと同意してくれるゲルダさん。

 ありがとうございます、と笑い返すと、どこか遠慮がちなキーラを工房内に案内する。


 テーブルに案内してゲルダさんにキーラの相手をしてもらいながら、まずはお湯の準備。

 竈の口に薪を組み、火炎石と呼ばれる魔力を秘めた小石に私の魔力を通して、組んだ薪の間に置く。

 しばらくすると、メラメラと火が立ち上がってきた。

 魔術の使えない私でも、それだけで火を熾すことができるのが、ちょっと便利なところだ。


 もちろん、かつてのガスコンロに比べれば不便なものではあるけれど。

 特に、火力の調節はなんとかできないかな、と思わなくもない。

 後、炭じゃなくて薪だと煤がなぁ……。

 ともあれ、熾きた火の上に五徳を設置し、小鍋を乗せて、お湯が沸くのを待つ。


 その間に茶葉とカップを用意し、市場で買ってきたクッキーみたいな焼き菓子を皿に並べた。

 これは非常食のつもりもあって買ってきたのだけれど、まあまた買いに行けばいいことだ。


「なんだか、大分不安そうにしてたもんなぁ、キーラ」


 そんな彼女の気持ちを少しでも落ち着けられるなら、これくらい安いもの。

 準備が終わったところでお湯が沸いたので、小鍋に入れて少しだけ煮出す。

 なお、ティーポットなぞはない。

 ああ、買ってきたミルクとスパイス系の香りの薬草に砂糖も入れて、チャイ風にしてしまおう。

 先に焼き菓子を持って行っておいて、

 二人が待っていたテーブルにそれらを運んで、お茶を注いで回り、席について準備完了。


「さ、お待たせしました。どうぞ召し上がれ」

「ありがとう、遠慮なくいただくよ」

「えっと、ありが、とう」


 慣れた手つきでカップを手にするゲルダさんと、ちょっとぎこちないキーラ。

 う~ん、緊張している、という感じでもないのだけれど。


「それでキーラ、どうしてここに?」

「ええと……ドミナス様に言われて」

「ドミナス様?」


 あれ、なんか聞き覚えがある名前ではあるぞ。

 と思っていると、ゲルダさんが苦笑を漏らした。


「ドミナス……あいつめ、また悪い癖がでたな」

「悪い癖、ですか」

「ああ、ドミナスは魔術関係の責任者の一人で、魔術が得意な魔族や人間の魔術師を統率する立場にある」

「そういえば、キーラが行くように言われてたような」

「あ、うん」


 ゲルダさんの話を聞いてキーラを見れば、小さく頷いてくる。

 そうか、だから聞き覚えがあったのか。

 

「優秀だし、決して悪い奴ではないのだが……どうにも視野が狭いというか、なんというか。

 自分の当たり前は他人の当たり前、自分にできることは他人もできるだろうと思う奴でね」

「……なるほど? もしかして、キーラに地図一枚渡してきたのは」

「恐らく、それで一人で来れると思ったんだろうな……感情を推し量るとかも苦手な奴だから。

 だから、悪気があったわけじゃないんだ。その証拠に、この地図を見てくれ」


 と、キーラが持ってきた地図を指さす。

 言われるままに地図を見るけど……うん、正確なものだ、としかわからない。

 ……あれ? まてよ?


「地図? この工房に行くためなんていう限定的な目的の、こんな正確な地図?」


 え、まさか。


「うん。キーラ、多分これは、ドミナスが書いたか魔術で出したか、どちらかじゃないか?」

「うん、書いてくれた。物凄い速さで」

「手書き? これ手書きなの? しかもその場で即興で??」

「うん」


 キーラの返答に、私は驚きを隠せないまま、何度も地図とキーラの間で視線を往復させた。

 うっそでしょ、こんな正確で細かい地図、その場でフリーハンドで書けるものなの?

 魔王様といい、魔族にはチート級しかいないのか……?


「だから、無責任に放り出したわけじゃないんだ。

 ただちょっと、相手がどう思うかとかに気が回らないだけなんだ……」

「な、なるほど……」


 若干遠い目になるゲルダさん。多分ゲルダさん自身も似たような扱いを受けてきたんだろう。

 よくそれでそんな責任ある立場を任されているなぁ。

 でも、それで話が見えた。


「じゃあ、魔王様にお願いしてた補助系の魔術が使える人って、キーラなんだ」


 ちょっと、ほっとしてしまう。

 見知らぬ魔族の人よりも、多少は見知った人間のキーラの方がやりやすいのが正直なところ。

 いや、魔力の量だとかは魔族の方が優秀なんだろうけど。

 

 などと、思っていたんだけれど。


「う、うう……」


 何気なくかけた言葉に、キーラは瞳を潤ませてしまう。


「え、ちょ、キーラ、どうしたの?」


 慌てて腰を浮かす私に、なんでもないと言おうとして首を振っているが、全然なんでもなくない。

 何か言おうとしては俯き、顔を上げる度に表情が歪み。


「私、ここでも役立たずだ……」


 そう呟いて、ついにはボロボロと涙をこぼし始めたキーラに、私もゲルダさんも狼狽えることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ