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振動を制する者は

「でも、ということは、やっぱりまずは全体向けての公共放送から、ですね~」


 私の言葉に、ドミナス様もドロテアさんもこくりと頷く。

 公共放送と言っても、テレビとかラジオとかのレベルではもちろんない。受信する機械もないしね。

 災害時とかに自治体内で流れる緊急放送的な物だと思ってもらったら間違いないだろう。

 

 速報性が必要なものとか、書面にするほどではない軽めの案内なんかを、街中全体に音声放送するのだ。

 これなら、あちこちにスピーカーを配置して、アラクネーさんの糸を行き渡らせたら実現可能だからね。


「スピーカーの方はもうほぼ問題ないところまで来ていますね。さすがノーラというところでしょうか」

「おお~、さすがノーラさんですね!」


 自動車と並行してやってるとはとても思えないスピードで、相当な完成度のスピーカーを作ってくれている。

 聞いた話では、大事なとこは自分でやるけど、任せられるところは人に任せてるから、あれこれ手を出すことができるんだそうな。

 ……ノーラさんって、技術者としてもチートなんだけど、こんだけ仕事の割り振りできるあたり、管理者としても相当優秀なんじゃないだろうか。

 私が知る限り、上手くいかなかったプロジェクトないしねぇ……。

 

 そしてこのプロジェクトも上手くいっている。ついつい私もテンションが上がろうってものだ。


「やっぱりノーラさんが作ったら間違いないし、そこにドロテアさんがサポートしてくれたら百人力ですよ!」


 私の言葉に、ドロテアさんがぱちくりと瞬きをした。あ、ちょっと珍しい表情。

 それから、すいっと視線を横に流した。……もしかして、照れてる?


「そんな、それこそ私は大したことなんて」

「いやいや、むしろドロテアさんがいなかったら大分大変だったんですよ?」


 ドロテアさんが担当したのは、音声を振動に、振動を魔力に、魔力を振動に、振動を音声に……という、いわば核の部分のところだ。

 一応、ノーラさんで機械的にやったり、ドミナス様が代わりにやったり、というのも不可能ではなかったみたいなんだけど、ドロテアさんが担当するのが一番早かったんだよね。

 そのおかげでスムーズに進行してるし、出来上がったものの音声の品質もとてもいいし。


「そう言ってくれるのは嬉しいんですが……でも、アーシャのおかげもありますよ?

 あなたが教えてくれたノイズ除去の方法はとても参考になりました」

「あ、そうですか? お役に立てたみたいで、何よりです」


 そう言われると、私も照れちゃうな。……うん、ドロテアさんのこと言えないや。


 私が教えたのは、ローパスフィルタと呼ばれるもの。

 極端な高周波を通さず、人間の耳に聞こえる範囲の音だけを通すフィルタだ。

 つまり、高周波を通さず低周波だけ通すから、ロー・パス・フィルタ。だったと思う。


 音というものは空気の振動であり、その振動は波として伝わっていく。

 その振動が1秒間辺りに波打つ回数が多ければ多いほど、高い音として認識される。

 高すぎると、耳障りな音になっちゃうんだけど……これが、今回問題になった。

 

 振動を音として出す際、そのままだと振動が少ないので増幅装置をつけた。俗に言うアンプだ。

 ここら辺はドロテアさんとドミナス様の共同作業だったんだけど……増幅した時に、耳障りな高い音が乗るようになっちゃったんだよね。

 で、相談を受けた私は、その高音の正体が周波数の高い振動によるものだと解説し、ある程度より下の周波数の振動しか通さないフィルタという考え方を教えたわけ。

 

 本来ならコンデンサやらを組み込んだ複雑な電子回路を組む必要があるのだけど、そこは直接振動を操作できるドロテアさん。

 考え方を理解したら、あっという間に魔術的な回路を作って解決してしまった。

 おまけに、音声品質も向上させてしまい、下手な携帯電話よりも音が綺麗になってしまったくらいである。

 ……振動絡みのことで、ドロテアさんにできないことはないんじゃないかと思うくらいだなぁ。


「ドロテアもアーシャも、もうちょっと自信を持つべき」


 私達のやり取りを聞いていたドミナス様が、口をはさんできた。

 その言葉に、思わず私とドロテアさんは顔を見合わせてしまう。

 

「……反論はできませんね、これは」

「ですねぇ、ドミナス様の言う通り、だとわかってはいるんですが」


 お互いに、歯切れが悪い。

 言う通りだとわかってはいるのだけど、感情が邪魔をしてしまうんだから仕方ない。

 こういうところは、私とドロテアさんは似てるのかも知れない。

 とか思ってると、ドミナス様がドロテアさんに向かってちょいちょいと手招き。

 何事かとドロテアさんが近づくと、ドミナス様は手を伸ばし、ドロテアさんの頭を撫でた。


「ここまで上手くいってるのは、ドロテアのおかげ。

 がんばってるんだから、自信持って」


 その言葉に、ドロテアさんはびっくりしたような顔を見せる。

 うん、まさかこうくるとは、私も思わなかった。

 しばらく為すがままにされていたドロテアさんは、くす、と微笑んで。


「ふふ、まさかドミナスに慰められる日が来るだなんて」


 と言いながら、そっとドミナス様を抱きしめた。

 うん、私の膝の上に座ってるドミナス様を。私ごと。


「んむっ……ドロテア、ちょっと苦しい」

「ああ、ごめんなさい。でもね、ドミナスがいけないんですよ? そんな可愛いことしてくれるから」


 ドミナス様の抗議の声に、しかしドロテアさんは耳を貸さない。

 本気で苦しいわけでもないのだろう、ドミナス様もそれ以上は言わないでいる。

 そして私は、そんな二人の仲のいいところを至近距離の特等席で見られて、久しぶりに百合オタな部分が刺激されていた。


 いや、そんなことをしてる場合じゃないとはわかってるんだけどさ。

 ほら、普段は私が百合の渦中にいるから、ゆっくり堪能できないんだよね……これだけ恵まれた環境にいるのに。

 なので、ここは一つじっくり堪能させてもらおう。


 とか思ったんだけど。


「それから、アーシャにもお礼をしてあげないといけないですね」

「えっ、いやいや、私のことはどうぞお気になさらず」

「なるほど、確かにアーシャが一番頑張ってる」

「いやいや、私が一番とかそんなことないですから!」


 ドロテアさんの言葉に、ドミナス様が同調してくる。

 まって、この、椅子に座って膝の上にドミナス様がいるっていう逃げられない状態で何する気!?


 そう思っていたら、ドロテアさんが身を乗り出してきた。

 ふわん、と揺れた髪からすごく良い匂いがする。

 なんだっけ、何かの花の香……と思ってるうちに。

 

 ちゅ、と頬に感じる柔らかい感触。

 ほんのり、そこが暖かくなったような気がする。

 ええと、つまり。


 ほっぺにちゅーってやつですかこれ!?


 理解した途端に、かぁっと私の頬が赤く染まる。

 そりゃそうだ、こないだゲルダさんにされたみたいな、どさくさ紛れのじゃなくって、だもの!

 覿面に動揺する私を見て、ドロテアさんは実に楽し気に笑う。

 くぅ……こういうとこで大人の余裕を見せてくれちゃってぇ……。


 そして、そんなことをされてしまったら。


「あ、ずるい。私もする」


 と、ドミナス様もしてくるわけで……。

 結局また、私は百合の渦中に引きずり込まれ、もみくちゃにされるのだった。

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