魔族と魔物の事情
そして、一通り今後の改良案やら、魔力式モーターの応用方法などについて色々と意見を出し合った後、その日は解散。
ノーラさんにゲルダさん、ドロテアさんにドミナス様、工場帰りに寄ったキーラを交えて、エルマさんのお店で打ち上げ。
さすがにその日のお酒は美味しかったなぁ。
でも、美味しいからこそ、味わいはすれども自重自重。
翌日以降も仕事は山積みだからね~……。後味が苦くなったら、もったいない。
ということで、割と早めに解散し、翌日。
いつものように診察を終えてから、午後から私は王城へと向かった。
今日は、例の情報通信網関連の打ち合わせ。
こっちも、色々課題は山積みなんだよねぇ。
王城についた私は、ドミナス様の部屋へと向かった。
ドアをコンコン、と軽くノックしてから、っと。
「ドミナス様、アーシャです」
「ああ、入って」
間髪入れずに返事があったので、ドアを引いて開ける。
と、すぐにぽすんとした衝撃。
半ば予想できていた私は、がっしとその身体を抱き留めた。
予想通り、ドミナス様が私の胸元に顔を埋める形で抱き着いている。
その頭をポムポムと撫でてあげながら。
「こんにちは、ドミナス様。
いきなり抱き着かれると、危ないですよ?」
「それはごめん。でも仕方ない。最近ノーラとゲルダとばっかり」
抱き着いたまま顔だけ上げて、ドミナス様が拗ねたように言う。可愛い。
っていうか……この距離、顔が近くてこう……いやいや、邪念は捨てよう。
などと私が内心で葛藤していると、ドミナス様の向こうから声がかかった。
「ほら、ドミナス、アーシャも困っているでしょう?
抱き着くなら部屋の中に入ってからになさいな」
「あ、ドロテアさんも……って、中に入ってからって、そこが問題なんですか!?」
微笑みながら近寄ってくるドロテアさんに、思わずそんなことを言い返す。
いや、確かに実際、さっきちらっとメイドさんに見られた気はしたんだ。
でもね……「あ、またか」って顔だったのは納得がいかない!
そんなにはしてないはずだ! 多分! ……もしかしたら、何回か目撃してた人なのかもだけどさ。
そんな私を意に介さず、ドロテアさんは私とドミナス様を部屋へと引っ張り込んだ。
あれ、思ったよりも力強いぞ? とか思ったりしたけど、それは口に出さない。
「ええ、そこが問題なんですよ。だって」
そう言いながら、ドロテアさんは扉をゆっくりと閉めた。
くるり、その場で振り返り、どこか艶然とした笑みを見せて。
「だって、私まで甘えているところを見られたら、あまりよろしくないですから」
ドロテアさんが言い終わった瞬間、かちゃり、と音がした。
そう、後ろ手で鍵をかけたらしい。
……いやまって!? なんでこの状況で鍵かけたの、密室にしたの!
いややっぱり答えは要らないかな、やばいこと言われそうだ!
逃げようにも、部屋は密室、ドミナス様も抱き着いたまま。逃げられるわけがない。
「ま、待ってください、今日はお仕事ですから! まずはお仕事しましょう!?」
「それもそうですね、まずは先に仕事から片付けましょう」
一か八か、ドロテアさんの職業意識の高さにかけてみたら……ドロテアさんはあっさり引いてくれた。
よ、良かった、助かった……そう、思っていたけれど。
ぽん、とドロテアさんは私の肩に手を置いて。
「早く終わらせたら、その分ゆっくりできますし、ね」
そう、耳元でささやいてきた。
その瞬間、ぞくぞくっ、と背筋に何かが走る。
「うひゃっ!?」
「あらあら……ふふ、アーシャってば、人の事言えないじゃないですか」
とても楽しそうに笑うドロテアさん。
くっ、これはもしかしなくても、こないだの仕返しだな!?
しかも、ドミナス様の前だから、反撃したくてもあまりお見せしたくない光景になる……そこまで計算してのことか!?
「何二人だけで楽しんでるの」
そう言いながら、ドミナス様が私にギュッと抱き着いてきた。
さながら所有権を主張するような仕草が、これはこれで愛らしい。
でも、それくらいで揺るぐドロテアさんではもちろんなく。
「あら、すみませんね、ドミナス。でも、ドミナスにはまだちょっと早いことですから」
「またそうやって子ども扱いする……」
「子ども扱いされて拗ねるうちは、まだ子供ですよ」
そう言われて、反論できないドミナス様は、むぅ、と頬を膨らませた。可愛い。
でも、考えて見れば……。
「あの、ドミナス様って、ゲルダさんと幼馴染なんですよね?
同い年くらいとして、外見年齢が結構違うような」
私の問いかけに、ドミナス様がこくんと頷いた。
「ほぼ同じ。私もゲルダもまだ40になってない」
「あ、そうなんですね~。……え?」
四十? 二十じゃなくて?
あ、でもゲルダさんのお母様の年齢が多分……で、二十歳前の時の子と考えたら……計算は、あうな……?
困惑している私に、くすくすと笑いながらドロテアさんが解説してくれた。
「私達魔族は、ご存じでしょうけど寿命が長いんですよ。その分成長も遅い、というわけです。
ドラゴン族も同様ですね。ゲルダはハーフドラゴンですから、少し早いですけどね」
「そ、そうなんですね……聞いたことはありましたけど、改めて目にすると……」
ゲルダさんは、二十代半ばくらいのお姉さん。
ドミナス様は、十代の少女といった外見だ。
成長速度が違うのかな、と思ってはいたけど……数字で教えられると実感の深さが違うなぁ。
でもそうなると……ドロテアさんは……でも、聞いてもいいものか……?
と、ちらっとドロテアさんに視線を向けると、ドロテアさんが気づかないわけもなく。
「ああ、私ですか? 大体五百を越えたところですよ。
ちなみに陛下は千を越えています」
「五百!? 千!?」
あっさりと教えてくれたのはいいけど……桁が一つ二つ違うよ!?
目を見開いた私を、楽し気に見やりながらドロテアさんは続けてくれる。
「人間と違って、魔族は年齢を重ねる程に力をつけます。
ですから、人間とは逆に、年長者は年齢を聞かれることを嫌がりません。
逆に若い魔族は、それが気になるようですね」
「な、なるほど……だから、あっさりと教えてくれたんですね……」
だからドミナス様も子ども扱いを嫌がってるんだな……気を付けよう。
しかし、五百歳、かぁ……とてもそうは見えないや。
思わずまじまじとドロテアさんを見つめてしまう。
すると、抱き着いたままのドミナス様から声がかかった。
「……やっぱりアーシャも年上がいいの……?」
「はっ!? あ、いえ、そういうわけではっ、っていうか、ドミナス様も年上ですからね?」
ちょっと悲しそうになったドミナス様を、慌てて抱きしめる。
大丈夫ですよ~、大丈夫ですよ~と頭を撫でて慰めながら、今の会話で気になったことをドロテアさんに尋ねた。
「やっぱり、っていうことは、魔族だと年上の方が力が強いから、もてるんですか?」
「必ずしも、ではないですが、そういう傾向はありますね」
そうなのか……見たところ、年齢でほとんど老化とかもないみたいだから、そういう価値観になるんだろう、きっと。
「魔族は、魔力の塊が形を持った存在です。ですから、力の強い存在への憧れが本能的にあるんですよ。
また、それゆえに姿かたちをある程度自由にできます。
ただ、あまり自由にしちゃうと訳がわからなくなるので、いくつかに決めていることが多いですね。
こうやって私達が人間の姿を取っているのは、地上での暮らしやすさ、人間へ与える視覚的影響を考慮して、ですね」
「な、なるほど……あ、じゃあ、魔物っていうのは、姿が決まっている……?」
「そういうことです。例えばドラゴン族は魔族にも匹敵する力がありますが、魔族ではないわけです」
私の表情から色々察したのか、さらに解説してくれるドロテアさん。
なるほどなぁ……魔族と魔物、何となくで使ってたけど、そう解説されたらわかりやすい。
……まあ、でも、ということは……と踏み込んだことを考えたらちょっと怖いから、これ以上はやめておこう。
いやまてよ?
「あれ? でも、ある程度自由にできるなら、ドミナス様も大人っぽい外見になれたりするんじゃ?
今のお姿もとても可愛いですけど」
「その辺りは……まあ、その。本人の精神年齢が関係してるみたいで」
「なる、ほど……?」
言いにくそうにするドロテアさん。確かに、そんなこと言ったらまたドミナス様が……あれ、何も言ってこない?
はて、と思ってドミナス様を見ると……。
「ふふ……アーシャが、私のこと可愛いって……とても可愛いって……」
と、頬を染めながら、とても嬉しそうにしてた。だから聞こえてなかったらしい。
そんなドミナス様を見ながら、ドロテアさんがため息を一つ。
「アーシャ……だから、そういうところ、ですよ?」
「す、すみません……」
私は、そう謝るしかできなかった。




