海の呼び声
第83話〜海の呼び声〜
暗い海の底には竜騎兵装の残骸と、無謀に散って行った同胞の嘆きだけがあった。
俺は羽を破壊され海の中を彷徨うかと思われたが身体は水面に浮上していき、何とか生きているのだった。
アア、メリーヌ......ニーズヘッグ......。
そう喉の潰れたような声で囁くとふと海の底から何かが聞こえてきた。
誰ダ......。
俺がそう言ってもその呼び声は何を言っているのか分からない。
しかし良からぬ予感が全身を駆け巡るのだ。
俺は必死にその声を聞かないように耳を塞ごうとするが、その呼び声は脳裏から浸透してきて意味を成さなかった。
するとその呼び声はどんどん大きなものになって俺を貪るように取り込むのだった。
ーーー
メリーヌとニーズヘッグの戦闘が始まり、お互い一歩も退かない状況であった。
「クッ、やっぱり僕一人じゃきついか」
「敵情報を更新、どうやら私は貴方を甘く見ていたようです。その竜騎兵装は私を模して作られてのでしょう。性能もそこそことしか言いようがありません。しかしこの私とほぼ互角ということはパイロットの質が良いのでしょう」
「ふっ、急に敵を褒めるなんて柄にもないことをするじゃないか」
「ええ、本当に......。貴方のお陰で儀式は整いましたから、感謝してもしきれませんね。マスターには悪いですが器としてその力を示してくれるでしょう」
「ッ?」
そう言って不穏に笑うニーズヘッグにメリーヌは何かに気づいた様子だった。
するとメリーヌは急いで海に落ちたヨグの元に向かうのだった。
「もう遅いのですよ愚かな竜の王女。私の計画は順調に進んでいるのですから。さあ、今こそ復活の時ですよ。我が王よ......」
ーーー
ああ、ここはどこだ。
俺は......死んだのか。
そこは暗くて肌寒く、まるで海の底のようであった。
人の気配はなく、ふわふわと夢の世界のようだった。
すると足元には波のようなものが流れてきて、その揺らぎに引かれて行くように俺はどんどん海に入っていくのだった。
身体の自由が奪われたように、俺は波に従ってしまうのだった。
すると足元の水は黒く変色し、身体に纏わりついてきて離さない。
必死に振り払おうとするがまったく身体がいうことをきかないため、俺はどんどん黒く染まっていくのだった。
ああ、何故だか遠くからメリーヌの声がする。
俺の名前を呼んでいる? 涙を流している?
分からない......わからない、ワカラナイ。
すると黒いものは俺の身体を覆うと、俺の頭の中へと入ってくる。
ゼリー状の滑りのある気持ち悪さから、吐き気や恐怖といった負の感情が湧き出てきた。
しかしそれらを取ることはできない。
黒いものは俺の化けの皮を剥ぎ、その内に隠されたすべてを飲み込んでいく。
これが神様のシナリオ通りだとするなら俺はただの操り人形でしかなかったのだろうと、今更になって自覚するのだ。
俺は一時期の怒りに支配され、己の歪んで形を成さないことに焦りを感じ、信頼していた者に簡単に裏切られてきた。
今回もそうなのだろう。
メリーヌの泣いた顔は何度も見てきた。
ぼやけた視界の中にそれだけははっきりと写っていた。
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。
大切なものを守ろうとして、周りを見ていなかった愚か者は俺のようだった。
しかし戻りたくても、もう戻れない。
これがニーズヘッグの言っていた選択すれば戻れないというのはこういうことなのだろう。
そう思い半ば諦めて俺は身を海に委ねようとした時だった。
「ヨグ......ヨグ......」
「メリーヌ?」
「ヨグ! 目を覚ませ! 意識をしっかり持つんだ! 海の底に君の救いは無い。だから私が君の救いになるから! 頼む......頼むから、目を......覚ましてくれよ」
その震え声は消えかけていた身体に染み渡るように響いてきた。
彼女の涙がぽたぽたと落ちて来て、その冷たさの中には微かに優しさや彼女の思いが感じられた。
すると俺は心のそこからやり直したい、と思った。
するとその時、深い海の底には一筋の月明かりが照らされるのだった。
ああ、眩しいなぁ。
深い海の底にメリーヌはやってきたのだった。
ヨグ? ......ヨグ!
彼女は俺を見つけるや否や強く抱き締めてきてきた。
いつもの彼女は氷のように冷たいのだが、今回は温もりを感じた。
それは紛れもない彼女の体温であり、冷たいのは俺自身なのだろう。
そんな俺を彼女は決して離すことなく、彼女はゆっくりと上へ上へと運んでいった。
暗い海の底が人々の嘆きが未だ聞こえてきていた。
しかし彼女となら恐ろしくもなかったし、怖くもなかった。
ーーー
目が覚めるとそこは海の上だった。
身体は人へと戻っており、鱗の一つもそこにはなかった。
波が身体を揺らし、冷たい塩水が服を貫通して肌を撫でていた。
「ヨグ、帰ってこれたんだ。......良かったぁ」
そう言ったのはメリーヌで、よく見ると彼女もボロボロだった。
竜騎兵装は装甲が剥がれ、羽の部分は黒く焦げて壊れてしまっていた。
また彼女の手足は切り傷や打撲などがあり、とても痛々しかった。
すると彼女は俺を抱き抱えて、壊れかけの竜騎兵装を使い、飛行船の残骸の上に移動したのだった。
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