意志の強さ
第80話〜意志の強さ〜
波の音が聞こえてきます。
体は水を含んで冷たくっており、また意識ももうろうとして私は砂浜で寝ているようでした。
鳥の鳴き声や波の音が聞こえていますが、依然として体は動きません。
このまま死ぬのかなと思うこともありましたが、私は大切な人を残して死ぬほど、薄情な人間にはなれませんでした。
だから私は必死に息を続けるのです。
もちろん命が惜しいわけではありません。
ただあの人が心配で心配で、ただそれだけが心残りで息を続けるだけの価値があるのです。
生きる意味を見いだせなかった私をあの人は愛してくれて、そして生きる意味を見出してくれた。
だからこそ私は死ねないのです。
例え死に損ないと揶揄されようとも私はあの人を置いてはいけない。
そんな私の元に足音が聞こえてきました。
砂を歩く音はザクザクと聞こえてきて、どうやら二人いるようでした。
「あっ! 見てお姉ちゃん!! ジーク二号がいる!!」
そう言って一人は子どもでしょうか。
はしゃぐように甲高い声が聞こえてくると、首元にピタッと指で撫でられるような感触が伝わってきました。
「息があるけど、このままじゃ危ない。リペ、お婆のところに運ぶよ!」
「はーい!!」
そう言って二人は私の体を持ち上げました。
どうやらまだ私は神様に見捨てられていなかったようです。
そうして再び意識が途絶えるのであった。
ーーー
一方その頃、ヨグたちは帝国をめざして空を飛んでいた。
背中から生えた大きな翼は空気抵抗をものともせず、 巨岩のような体からかは手足が生えており、鋭い爪は人間とは違い、指先から爪が生えているようにも見えた。
意識はあるが、依然として怒りや復讐といった負の感情に縛られており、俺が帝国に着けば帝国は火の海に変わるだろう。
止める者はおらず、また止められる者もいないだろう。
ニーズヘッグは竜騎兵の姿で隣を飛んでいた。
俺のやることに否定を示さないニーズヘッグだが、これが彼女の望み通りなのだ。
俺の決定した未来を実現するために、ニーズヘッグはそのあり方を成していた。
そうして飛んでいると背後から魔法による砲弾が飛んできた。
「止まるんだヨグ!!」
魔法により拡声された声は聞き覚えのあるもので、振り返るとそこには数百を超える戦闘飛行船団と竜騎兵団の姿が目に映った。
またその中心に位置する飛行船には声を出した人物が立っていた。
「やっぱり来たか......メリーヌ」
そう呟くとメリーヌは俺の姿を見てどう思うのだろうか。
もちろん彼女に視力はないが、この禍々しい魔力は感じ取れるはずだ。
「ヨグ、もう辞めるんだ。仇は取れたんだろ! なら終わりでいいじゃないか!」
拡声された声がまた聞こえてきた。
しかし俺は言葉を発することはない。
なぜならもう戻れないからだ。
彼女のせいでは無いが、もう遅いのだ。
俺はもう一度前を見て飛んでいこうとすると、メリーヌは意地でもそれを阻止したかったみたいで、砲弾を打ち込んできた。
砲弾が翼に当たるが痛くも痒くもなかった。
「ヨグ、君がどうしても止まらないというのなら......僕は、いや私は君を殴ってでも止めて見せる! 全砲撃用意ッ......」
どうやら彼女は本気のようだ。
しかし竜となった俺が止まることはない。
つまり俺とメリーヌの決別の時であった。
「そうか、それでも止まらないかヨグ! このわからずや!! これが最初で最後の夫婦喧嘩といこうじゃないか!! 」
そうしてメリーヌと俺の激しい攻防戦が始まったのだった。




