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魔法のない世界

第75話〜魔法のない世界〜



魔力が使えない生活がこれほどまでに不便になるとは思いもしていなかった。

例えば洗面台にある蛇口は少量の魔力を流すことで水が流れるのだが、魔力を使ってはいけない俺はそれすらも使うことができないのだ。

なのでほぼリリィーに要介護されているようで、彼女の重荷になっている気がしてならない。

最近では水をストックしておいてそれを使い、リリィーの負担を少しでもなくそうと努力をしていた。

しかし彼女は心配性なのでいつも俺に目を向けており、少しでも困っていようものならすぐに助けに来るだろう。

それがどうしても俺にとっては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


どうしようかと教室の机の上で考えていたが、いい案などそう簡単に思いつく訳がなかった。


「はぁー」


ため息をついても時間は止まってくれない。

教室はチョークの音と教員の声だけが響き渡り、それ以外は静かな空間である。

気がつけば昼が過ぎ、今日の授業も終わりを迎えていた。

俺は席に座ったまま、帰りの時間になっても動くことは無かった。

心配した友人たちがは励ますような言葉をかけてくれるが、どれも嫌味のようにしか聞こえなくなっていた。


帰り道、外はすっかり夕暮れで活気のある繁華街も半分以上の店が戸締りをしている。

足取りは重く、一日がまるで数十分かのようにも感じてくる。

家に帰ればまた明日がやってくるが、結局は同じ日々を繰り返すだけであった。

変わろうとしない自分に嫌気がさすが、周りがそれを良しとしない。

次第に己の心も憂鬱なものに変わっていくのだった。


〜王国国境付近〜


王国の所有する竜騎兵装部隊は今日も国境付近を巡回し、敵国との睨めっこをしている。

休戦状態である帝国とは未だ敵対関係にあるため、お互い干渉しない程度に監視をしているのだ。

空は今日も平和であるはずだった。


「こちらワイバーン7、敵対存在はなし。巡回を続行する」


「了解、ワイバーン7。そのまま巡回を続行してください」


無線で繋がれた魔道具により本部と常に連絡が可能な状態であった。

一機の竜騎兵が空を舞う中、いつも通りと思われた空は突如として血の海に変貌するのだった。


「ん? なんの音だ?」


「どうしたワイバーン7、何か発見しっ......」


「う、うわああああああああああ!!!!」


「ど、どうしたっ! 応答しろワイバーン7! 聞こえるか。 繰り返す、応答しろっ! ワイバーン7、何がった!」


そう呼びかけるのだが、ワイバーン7との通信は切れてしまい、砂嵐だけが聞こえてくるのだった。


〜王都内部〜


事件は早々に発表された。

帝国との国境付近で竜騎兵が謎の事故に見舞われたと号外のようにビラが配られていた。

市民は不安がる一方、王族や一部の関係者は皆、もしこの事件が帝国によるものなら大惨事になりかねないと危惧していた。

その頃俺は、休日でリリィーと一緒に過ごしていた。


「一応は竜騎兵装の不具合って言われてたけど、リリィーはどう思う?」


「うーん、ヨグ様に分からないことは私も分かりませんが、今のところ騎士団からの連絡もありませんし、大丈夫なんじゃないでしょうか? それにもし帝国が攻めてくるなら私が焼き払って見せますよ」


「その時はっ......」


「だめですよ。ヨグ様は魔力が使えない状態でどうやって戦うつもりですか? 今回は事故なんですからそんなこと考える必要はありませんよ。ふふ、それよりも私はヨグ様に甘えるので忙しいんですよ!」


そう言ってリリィーはおもむろに抱きついてくる。

最近では恥じらいもなくなっており、遠慮もなくなってきた。

成長とは恐ろしいもので、少し前までは手も繋げなかったというのに。

そしてリリィーを抱き抱えたまま、俺は自分に言い返せる。

胸騒ぎを抑えるように、心の内に秘めるのであった。


そして昼過ぎ、リリィーと俺はメリーヌの元に訪れていた。

メリーヌは相変わらず裏庭に居座っており、青い花達に囲まれながらも優雅に紅茶を啜っていた。

その姿はまるで様になっており、絵を描いて売ったらバカ売れ間違いなしである。

そんなことは置いておいて、あちらもこちらの存在に気づいたようだった。


「やあ、ヨグそれにリリィー、よく来たね。すぐにお茶を出すから待っていてくれ」


そう言っていつも通りの手順で紅茶を入れていく。

王女様に紅茶を入れさせるのはどうかといつも思うが、彼女もリリィーと同じく最近過保護気味だ。

やはりあの一件以来、普通には戻れないのかもしれない。


「ありがとうメリーヌ。それにしても今日は朝から物騒だったね」


「そうだね。帝国との国境付近なんて言われたら誰でも疑ってしまうよ。でも今回は事故らしいからね」


今回は(・・・)?」


「ああ、ヨグは知らなかったね。実はこういう事例は前にもあったんだ。あそこの海は強いモンスターの巣窟でね。今回を含めて五回、その内三件がモンスターによるものだったんだ」


「の、残りの二件はどうだったんだ?」


「そっちは整備不備と竜騎兵同士の衝突だね。だから今回も事故で間違いないと思うよ。......でももし

帝国が関わっていたら十中八九戦争になる。昔はよく戦争をしていたらしいからね。私が産まれた頃には停戦協定が結ばれたらしいけど、そんなもの破ろうと思えば平気で破ってくる奴らだ。念には念を入れてお父様も捜索隊を向かわせてるよ。もし何かあればまた呼ぶから安心してくれよ」


メリーヌはそう言って現状を教えてくれる。

本来ならば俺見たいな一学生が教えてもらえるものでは無いが恵まれていたのだ。

しかしあの話を聞いても尚、己の心に秘めた胸騒ぎは消えなかった。

最近は考えすぎていてどこかおかしくなっているのかもしれない。

そしてそれを誰にも悟られぬようにするのだった。







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