歓楽街
第68話〜歓楽街〜
時間もすっかり夜となり、多くの者が寝静まっていることだろう。
そんな時間に、部屋のドアが叩かれ、お迎えにあがりましたと奥から声が聞こえてきた。
俺はドアを開け、外の様子を伺う。
すると忍者のような黒ずくめの服装を着た人物が、片膝を下ろして待っていた。
「夜分に失礼いたします。私、テンゲン様直属の暗部のものでございます。この度は案内人として働かせていただきます」
そう言った彼はおそらく竜人族だが、服装が真っ黒で顔や尻尾なども隠されていた。
「わかった......すぐに出るよ。二人とも準備をしてくれるかな」
そう言われた俺とリリィーはそっと頷き、戦闘服に着替えた。
またメリーヌも普段よりも綺麗なドレスに着替えていた。
そうして着替え終えた俺たちは外に出ると、冷たい風が吹いており、人の気配も感じなかった。
「それでは案内いたします。くれぐれも私から離れぬようお願いいたします」
そう言われと自然と緊張感が漂い、身構えてしまう。
夜空の瞳が輝くこの夜。
メリーヌ一向は歓楽街へと向かうのであった。
ーーー
〜歓楽街〜
歓楽街は夜の街と言われている。
理由はお察しだが、街では多くの遊女が歩いており、門の前ですら中の様子が伺えた。
せっかくの夜空も、煌びやかな街頭や派手な装飾のせいでかすれてしまうのも無理はない。
またお客の多くは男性であり、柄のいいやつは少ない。
そうして俺たちは案内人に連なった歩いているのだが、何故か周囲からの視線を集めてしまっていた。
「おいおい、アレ見ろよ」
「うわっ、すっげえ美人じゃん!」
「あっちはサラマンダーか!」
ちらほら聞こえてくる会話から察するに、メリーヌやリリィーのお陰で、視線が集まっていたのだった。
「それなのに俺への視線は殺意ばかりだな」
「あはは、ヨグは今両手に花の状況だからね。まあ、一番厄介なのはこれからだけど......」
メリーヌがそう言うが、俺はなんのことかわからなかった。
しかし歓楽街の奥に行くとそれは嫌と言うほど分からされるものだった。
ーーー
「ねえ、ねえ〜......そこのお兄さん。今夜買わないかい? 安くしとくよ?」
「ええー、ずるいよ先輩! 私が見つけたのに!」
「いいじゃないか! しかもこんな美人に囲まれてる優良物件を逃がすわけないじゃないか!!」
そう言い合っているのは、三人組の遊女で完全に絡まれている状況であった。
見かねた案内役が追い払おうとすると、メリーヌに止められてしまう。
そしてメリーヌは三人組の前へと立つと、こう言った。
「ごめんけど、どいてくれるかな? 僕たち忙しいんだ。それにヨグは僕たちのものだから他をあたってくれ」
そうメリーヌは言い放つが、三人組はキョトンとした表情をしており、理解が追いついていないようだった。
すると三人組の中でも一番年上そうな女性が、メリーヌに向かっていった。
「へえ、言うじゃないか。あんたみたいな小娘があたしらを邪魔しようってかい? あたしらはね、最高クラスの遊郭である『天威』で雇われてるんだよ。あんたはどこの安い店だい?」
「僕? 僕は......」
メリーヌは威勢のいい遊女の耳元に寄って、耳打ちをしていた。
「なっ!? 小娘、今なんて!!」
遊女はメリーヌの言葉を聞いた途端青ざめ、震えていた。
すると後ろで謎めいた顔をしていた二人の遊女を引っ張り、どこかへ逃げるように行ってしまった。
俺はなんとなく何を言ったかは予想ができるため、黙っていた。
「はあ、後少しでヨグの純血が危ないところだったよ」
「メリーヌ、正直あれくらい無視で良かったんじゃ......」
「だめだよ、ヨグ。こういうのはちゃんとしておかないと後が大変なんだ。それに君は僕の! だからね?」
そう言ったメリーヌはこちらに寄ってきて、俺の手を取る。
ギュッと握られた手は冷たかったが、同時に温もりも感じた。
そして再び俺たちは歩き出したのだった。
ーーー
〜天威-最上階〜
夜月の輝くこの頃、透き通った暗幕から漏れた紫色のオーラは、部屋全体を飲み込んでおり、また奥には影だけが見えている。
「モンテ様、例の者共がこちらに向かっているそうです」
そう言い放たれると、暗幕からは煙草の煙がモヤモヤと出てきていた。
静かな部屋の中で、煙草を吸う音と吐く音が交互に聞こえてきており、それが三回ほど続くと、やっと声が聞こえてきた。
「そうか.........まあよい。多少の無礼は許そう。なんせ我が娘なのだから......」
そう言うと再び煙草を吸い、邪悪な笑みを浮かべるのであった。
ーーー
あの後、俺たちは数度の勧誘を潜り抜け、目的地の目の前まで来ていた。
天威はその名の通り、威圧感を放った店構えをしていた。
天高く作られた塔のような建物で、装飾は派手じゃないが、一目見たら忘れないであろうものであった。
玄関となる部分はマンションのエントランスのようになっており、明るい光が夜目を刺激した。
「メリーヌ様、ここが歓楽街最高峰の娼館。天威でございます」
メリーヌも上の方を見て、あの高さを実感すると案内人にお礼を言っていた。
「それじゃあ案内ありがとう。帰りもよろしくね」
「はっ! お待ちしております!!」
そう言うと案内人はどこかへ消えてしまう。
さすがは本職の暗部といったところだが、さすがに魔力までは隠せないようで、俺にはバレバレである。
そんな些細なことはさておき、俺たちは天威の中へと入っていった。
「寒く......ない」
「本当だ。暖かいねヨグ」
俺たちは中へ入ると、暖房が付けられているのかと思われるほど暖かかった。
しかしこの世界に暖房などという便利なものはない。
おそらくこの建物の素材か、もしくは魔道具の類いだろう。
そう思いつつもエントランスのような場所には、綺麗な女性が二人立っていた。
「お待ちしておりました。ようこそ天威へ。三人組での部屋をご所望でしょうか?」
そう言って淡々と説明をし出す女性に、メリーヌは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。
「あっ、いや、きょ今日はそういうのじゃないんだ。ほら聞いてないかな?」
「はて?」
「お母様、いやモンテ・アナスタシア。この名は知ってるよね?」
「モンテ・アナスタシア......ああ、娼館長のお知り合いの方でしたか。それでは少々お待ちください。ただいま上の方に連絡いたしますので.....」
話のわかる人のようで、難なくことを終えられそうだった。
連絡をすると言って数分後、彼女は戻ってくるとその横には、別の女性の姿があった。
「お待たせ致しました。メリーヌ一向の皆様」
「いいや、構わないよ。それでお母様はどこに?」
メリーヌの言葉に少し重みがあった。
その雰囲気を察したのか、連絡をしてくれた女性は苦笑いをし、その隣の女性が空気を読んで言葉を発してくれた。
「御安心くださいませ、メリーヌ様。すぐに案内させていただきます。申し遅れました、私はモンテ様の部下をしている者です」
そう言った彼女はメリーヌと同じ白い髪で、顔には面を被り表情が伺えなかった。
声も面のせいで少しこもって聞こえており、まったくもって人柄がわからなかった。
しかしこの時俺は不思議にも嫌な気持ちはなく、自然と警戒心を解いてしまう。
これが彼女の腕だと言うならさすがとしか言えないが、正直別の何かを感じたのだった。
俺はそんなことを思いつつも、案内について行くのだった。
どうも皆さんこんにちはこんばんわ永久光です!
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