母上
第67話〜母上〜
テンゲンがそう言うと部屋の空気が張り詰め、緊張感が漂う。
しかしメリーヌは一切の動揺を見せず、お茶を啜っていた。
お互い何も話さず、ただただ無の時間が過ぎていく。
するとお茶を飲んでいたメリーヌが、ついに口を開いた。
「母上がここにいることは知っていたよ。それで母上がどうしたの?」
「それが......メリーヌ殿がこちらに来られると聞いて、母君はつい先日私の元へと訪ねて来ました。そして伝言を頼まれたのです」
「伝言? 母上が僕に?」
「左様、内容はこうでございます。『我が愛しいメリーヌ。母は遊郭の街の天威で待っております』とのことです」
「ふーん、つまり会いに来いってことかな?」
「はい、おそらくは......」
「うーん、困ったね。母上も会いたくないなら会わなきゃいいのに。面倒なものだよ。それで天威ってのはどこにあるの?」
「い、行かれるのですか!?」
「もちろん、久しぶりに母上の顔も見たいしね。それに今までのことも散々言ってやりたいからね」
そう言うメリーヌの言葉には力が入っており、怒りを感じさせる。
するとテンゲンは苦笑いをしていたが、正直怖がっていた。
メリーヌは表情こそ変えないが、感情豊かで態度や言葉で示すことが多い。
そんな彼女の怒りとなると、王国に喧嘩を売るようなものである。
「わ、わかりました。天威までの場所の案内は致します。ですが治安のいい場所ではありません。こちらから護衛に......」
「いらないよ。僕の護衛は後ろの二人に一任してる。他の護衛なんてつけたら面子が立たないよ」
「では道案内だけ致します。案内は明日の夜、案内役が迎えに行かせますゆえ」
「うん、ありがとうテンゲン。その間は自由にしてていいかな」
「はい! すぐに旅館までお送り致します。明日の案内まで存分に楽しんでください」
そう言ってテンゲンと別れた俺たちは、すぐに旅館へと向かっていた。
乗り物に揺られていると、メリーヌは疲れたのか俺の膝に頭を乗せて、寝ていた。
俺はメリーヌの長い綺麗な髪を撫でると、彼女は少し嬉しそうに笑顔になっていた。
横目ではリリィーが羨ましそうにしていたので、もう片方の膝に乗っけてやる。
リリィーは暖かく、メリーヌは冷たい、まるで反対な二人だが、嬉しそうに寝ている姿を見ていると、俺自身も幸せを感じるのだった。
ーーー
〜旅館〜
旅館は古風な感じだが、設備が充実しており露天風呂などが常備されていた。
生徒たちは別館で荷物整理を行っており、俺とメリーヌとリリィーは、部屋へと案内されていた。
「お待たせしました。こちらが部屋になります」
そう言ったのは着物に身を包み、髪には簪が刺さっている竜人だった。
花柄の着物は鮮やかなものではなく、それでいて綺麗なものを身につけていた。
「へー、なかなかいい部屋だね。それじゃあ荷物を置いてしまおうか」
部屋の中は畳がひかれ、真ん中には四角い机、左右にはお仕入れが設けられていた。
俺はメリーヌの荷物を指定された場所に置き、その場を去ろうとする。
するとメリーヌに捕まり、不思議な顔をされる。
「どこにいくのかな、ヨグ」
「えっ? 俺も自分の部屋に荷物を置いてこようかなって.....」
「君の部屋はここだけど?」
「えっ? 俺とリリィーは生徒側だから、別館なんじゃ......」
「はぁー、君たちは私の護衛。なら部屋を共にするのは当たり前だよ。もし私の身に何かあったらどうするの?」
「ならリリィーだけの方がいいんじゃないかな。ほら、俺男だし」
「アハハ、私が逃がすと思うのヨグ。それにリリィーだってヨグと一緒がいいよね?」
「もちろんです!」
「ねっ、これで問題なし。ほらさっさと荷物を置いてくるといい」
俺は逃げようにもドア前を塞がれ、またメリーヌに片手を掴まれているため逃げ出しようがない。
正直嫌な予感しかしないが、ここは従うほかないだろう。
最悪寝る時だけは分ければなんとかなりそうだ。
「あっ、あと布団は一枚しかないから」
そう言ってメリーヌはお仕入れから一枚の布団と、毛布を取り出して見せた。
しかし中にはぎっしりと布団が詰められており、三枚なんて優に超えていた。
「でも今中に......」
「なんのことかなヨグ。布団は一枚しかない。いいね?」
少し声色を変えて言うメリーヌに、俺は押し黙るしかなかった。
リリィーに助けを求めようと視線を向けると、ぷいっとそっぽを向かれてしまい、知らない顔をしていた。
どうやら俺には逃げ道がないらしい。
「何も起きなければいいけどなー」
「ん? 何か言ったかいヨグ?」
「うんうん、なんでもないよメリーヌ」
そう言って俺は部屋へと荷物を運び込んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼過ぎ、荷物を運び終えた俺たちは休憩をとっていた。
「悪いねヨグ。本当はもっと荷物を減らしたかったんだけど、お父様が持っていけとうるさくてね」
「確かに結構な量あったな」
俺とリリィーの荷物はニーズヘッグやミラージュに預けているが、それでも着替えと少しのアイテムだけだ。
それに比べメリーヌの荷物は、旅行用のケース三つ程あり、おそらく着替えじゃない物の方が多いだろう。
するとメリーヌは何かを気づいたように言い出した。
「ヨグ、水色のケースはあるかな?」
「水色.......水色、あっこれだね。あったよメリーヌ」
「そのケースを開けてくれるかな」
そう言われ俺は、ケースの鍵を外し、ケースを開けた。
「ッ!? これって......」
中には布面積の限りなくない、下着が入っており、柄も派手なものが多かった。
「私の下着がそこに入っているから、覚えておいてね!」
「ななな、なんで俺が覚えるんだ?」
「なんでって、今日から君が私のお世話をするからね。下着の場所くらい覚えてもらわないと困るよ。あっ、欲しかったら言ってね。一枚くらいならあげるから」
「い、いらないよ! まず俺着れないし、あと変態でもないぞ!」
「アハハ、冗談だよ。冗談。それじゃあ、改めて二人とも頼んだよ」
「はぁー、わかったよ」
「はい、任せてください!」
メリーヌはそう言うと椅子に腰掛けながら、窓の外を覗いていた。
彼女の目には何が写っているのかは分からない。
おそらくは俺たちとは違う世界が見えているのだろう。
願わくば彼女見る世界がいつまでも綺麗でいて欲しい。
俺は彼女元に近寄って、窓の外を覗くのだった。
どうも皆さんこんにちはこんばんわ永久光です!
毎度のこと、更新の時がやってまいりました。
さてさて今回はどうだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです!
最後に感想とブックマーク、そして評価(☆☆☆☆→★★★★)をしてくれると、大変喜びます!




