二人の花嫁
第63話〜二人の花嫁〜
青い花が咲き誇る庭道、なんとも言えない甘い香りが鼻腔をくすぐる。
そんな場所に似合わないような枷をつけ合った二人が、ある人の元へと訪れていた。
「ヨグ・ランスロット、ただいま戻りました」
そう言うと庭の中央にあるガラス張りの部屋のドアが開けられ、中には優雅に紅茶を啜る一匹の竜、メリーヌが座っていた。
「うん、おかえりヨグ。本当によく戻ってきたよ」
メリーヌは盲目だが、俺の立ち位置を的確捉えており、そのまま抱きついてくる。
彼女の肌は冷たく、まるで氷のようだが、どこか温かさを感じてしまう俺がいた。
草花の緑と青、そして澄んだ空気が体中を巡り、嫌な気分など元からなかったが、清らかな気持ちになる。
するとメリーヌが抱きついているのを見て、俺の手に抱きついていたリリィーも一層その力が強くなった。
「それで傷はもう大丈夫かい?」
「ニーズヘッグにも見てもらったから。それに......リリィーが絶対安静ってよく言われてるよ。だからあまり動いてないんだ」
「アハハ、相変わらずだね」
そう言ったメリーヌはリリィーの顔をじっと見つめる。
何か顔についているのだろうかと思ったが、実際は違ったようだ。
「うん、君もいい顔になったね。ずっと暗い表情だったから心配だったよ」
「それについてはごめんなさい。でも私だって必死だったんですよ。ヨグ様がいなくなってこの世の終わりを感じましたから......」
「うんうん、わかってるよ。私もヨグがいなくて寂しかったからさ」
そうして彼女らが抱きついている間、俺は身動きが取れず、腕につけられていた枷が肉を挟んで痛かった。
それでも我慢すればいい話だし、何よりこの状況を王様にでも見られたら後が気まずい。
時間は刻一刻と過ぎていくが、一向に彼女らは離す様子がなかった。
「そ、そろそろ座って話でも......」
「ヨグ、逃げる気......なのかな?」
「逃がしませんよ、ヨグ様。この枷がある以上、二度と逃がしません」
「いや、逃げるとかじゃなくて! 積もる話もありますし......」
「その枷いいなー、私の分もつけちゃおっかな」
「予備の分があるのでこれどうぞ」
「さすがはリリィー、わかってるじゃないか」
俺はどうやら蚊帳の外らしく、しかも両手に花ではなく両手に枷を繋ぐことになってしまった。
これで両手が使用不可になった訳だが、もしこれで俺が逃げる気などないことが分かればすぐに離してくれるだろうと甘い考えをしていた。
いつまでも抱きつく二人を、徐々に前にある椅子の方へと誘導するが離れる様子はなく、俺も何故か周りをキョロキョロと気にしてしまう。
誰かに見られでもしたら大変なのでゆっくりだが、前へと進んでいると、突然足がつまずきふわっとした感覚が伝わってくる。
「おわあああ!!」
「「きゃああ!!」」
転んでしまうが俺は地面と接触する寸前のところで、枷のついた手を彼女らの背中に回し、俺の手は彼女らと地面によりご臨終することになった。
しかしメリーヌとリリィーは俺の腕の間におり、怪我はなかったようなので俺は一安心する。
「アハハ、ヨグも大胆だねー」
「ヨグ様、私はいつでも準備できておりますよ」
笑顔でそう言う二人に少しドキッとしてしまうが、それどころか腕がそろそろ痛いくなってきた。
そしてついに腕の力が抜け、そのままゆっくりと彼女らの胸へとへと倒れ込んでしまう。
リリィーの肌は暖かく、逆にメリーヌは氷のように冷たかった。
また柔らかい肌の感触と、暑くも寒くないのでずっと抱き締めていたいような感覚に襲われる。
「ヨグ?」
「ヨグ様?」
顔をうずくめたまま動かなくなった俺に、二人は優しく抱き締めてくれた。
久しぶりの安らぎに心が歓喜の声を上げて喜んでいたが、体は重く、眠気が襲ってきた。
「スー......スー......」
「もしかして寝ちゃったかな?」
「はい! とても可愛い寝顔です!」
そうして寝てしまいそうになっていると、背後の扉が開く音がしてくる。
顔をうずくめていたため誰かは分からないが、足音的に軽い足取りであった。
「メリーヌ様、失礼します。ヨグが戻って来たと聞いて......な!? ななな、何をやってるんだヨグ!!!!」
「やべ」
その声はおそらくスイレンの声だ。
今にも赤面してアワアワとしている彼女の姿を思い浮かべながら、うずくめていた顔を上げると同時に、俺はスイレンから鋭い平手打ちをくらわせられた。
「こ、こんの馬鹿者がぁ! 心配して来てみれば、なんてことをしているんだ!」
「いや、不可抗力で......」
「ほう、私には自分から抱きついているように見えるのだが?」
「あはは......」
その後、俺はスイレンの説得を試みたが、その効果は皆無で、逆に説教をされたのだった。
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