正道と邪道
第47話〜正道と邪道〜
その頃、王都では新たな騎士が誕生していた。
リリィーは、パイロットとしての才能を開花させ、学園や街で、その噂が広がっていた。
奴隷という身分はさて置き、従者と言う身でパイロットに任命されたことは、初めてで驚きなのだろう。
また彼女は短期間でその頭角を表し、既に学園内トップの実力を保有していた。
その戦いぶりは、見た目の愛くるしさとは真逆で、無慈悲で冷酷であり、相手にした幾つかのパイロットは心が壊れたそうだ。
それほどまで彼女を強く動かしているのはやはり失ってしまった主人の存在だろう。
〜王城の内側-裏庭〜
静かな空間に、茶を啜る音が強く響き、ただただ張り詰めた空気がそこにあるだけだった。
「君も変わったね...」
そう呟いたのはメリーヌ、この国の隠された王女である。
目の前には瞳の奥底が、濁りきったリリィーの姿があった。
「そうですか? 私はただ彼のために...彼のなせ成せなかったことをしてるだけですよ」
「その言葉も......もう何回聞いたかわからないな」
そう言って一口、紅茶を啜る。
しかし、お互いそれ以上は踏み込まず、何も話そうとはしなかった。
メリーヌは彼女をこうしてしまった責任を感じ、またリリィーは主人を失ったことから来る、虚しさと苦しさが日々を重ねる毎に増していた。
「それでヨグ様を疑ったゴミの始末はどうなりましたか?」
「あー、あの件なら僕の暗部が片付けたよ。それより、今は彼のことを探すことが重要かな」
「はい! ヨグ様はきっとどこかで寂しくしているでしょうし...はやく、はやく私が迎えに行かなきゃいけないんです!」
「うん、分かってるよ。でも一向に彼の情報が手に入らないんだ。さすがの僕もお手上げだよ...」
「わかりました。それでは私は時間なので...あっ、それからまたゴミが出ましたらお教え下さい。私が処分します」
「うん、分かったよ」
そうして二人の間にできた溝は深まる一方だった。
〜解体屋〜
話は戻り、解体屋にはテペウスが訪れていた。
中に入ると、そこには大きな肉の塊が幾つか置かれ、解体人たちは忙しそうにしていた。
すると、この事の張本人であるリペと謎の少年(仮名ジーク)の姿を見つける。
「リペ! これはどういうことだ、街中で噂になっているぞ!」
「あっ、村長! 見てください、あの美味しそうなお肉!!」
「ああ、美味そう...じゃなくて! どうやってあれを倒したんだ! あれはブラックボアの親玉で、誰も倒せなかったやつだ」
「なんかー、ジークが急に飛び出して行って、帰ってきたらこんな獲物を取って来たんですよー!! 」
「少年が!? そ、そうだジーク、本当なんだろうな!」
「うん、俺でも分からないけど...いたから倒しただけ、かな?」
「なぜ君が分からなそうな顔をしているんだ? 君が狩った獲物であろう。まあ、そういうことならいい。しかし、なぜ力を隠していたんだ?」
「力? こんなの誰でも倒せると思うけど...獣人って狩りのスペシャリストなんだし...」
「すぺしゃりすと? が何かは知らんが、こいつは私たちでも手強い相手だ。一度狩りを試みたが案の定、死人が出た」
「へー、でもペキってやったらすぐだったんだけど...まあ、それよりも...」
ここであることを提案してみる。
「さすがにこの量を二人で消費をするには環境的にも厳しい。だから肉やその他の素材を買取ませんか?」
「良いのか? これは君がリペに送った獲物であろう。それは特別な意味が...」
「ええ、腐っても逆に困りますし...最悪もらってくださるだけでもうれしいですね」
「そ、そこまで言うなら買い取ろう。幾ら必要なんだ?」
「幾らと言うより、住処を紹介してくれませんか?」
「住処だと?」
解体屋から一度離れ、村長にリペの住む家へと案内する。
すると案の定、そのボロボロの様子を見て驚いていた。
「リペ、これはどういうことだ!」
「どういうことだって言われても、案内されたらこの家だったよ?」
「そ、そんな!? まさかとは思っていたが、ドラも貰っていないか?」
「うん、ドラなんて貰ってないよー!」
「す、すまない!! これは完全に私の落ち度だ!!」
そう言うとテペウスは地面に頭をつけて謝っていた。
そして順に説明をしてくれる。
「実はリペの姉から給料の半分を生活費として、リペ宛に送って貰っていたんだ。しかも最初の頃にはリペのために家を用意してくれと、それ相応の額も頂いたんだ。しかし、今案内されたが、私はこんなボロ屋を選んだ記憶はない。おそらくだが、今までの生活費も全て取られているだろう」
そう言ってテペウスは地面に向かって拳を振り落とす。
それは自分の不甲斐なさとミスを悔やんでいるのだろう。
手からは赤い血がタラタラと流れている。
そして凄い剣幕で犯人のいるであろう場所へと、走っていってしまった。
俺たちもそれを追っていった。
彼の足は意外と速く、何回か見失いそうになったが、リペの感覚を頼りに追っていく。
そして着いた場所は周りの家々よりも豪華な住まいだった。
「ふざけるなっ!!」
テペウスの怒号の声が聞こえてくる。
門の奥に進むと、テペウスの姿と胸ぐらを掴まれる猿の様な獣人の姿があった。
あの獣人が横領をしていた張本人なのだろうか。
「知らないが通用すると思っているのか!! 今まで渡したものはどこにある!!」
「お、お待ちくださいよ。私はちゃんと渡してました...よ.....」
胸ぐらを掴まれた獣人はリペを見るや否や、悪い笑みを浮かべる。
このキモチはなんだろうか...。
俺は無償に殺意が湧いた。
テペウスが何度問い詰めても、獣人はヘラヘラと笑い、リペが何も言えないと高を括っているのだろう。
「はあー、どんなにいい場所でも頭の悪い連中はいるんだな」
そうボソッと呟いた俺は、ゆっくりと進んでいき、テペウスから獣人を離すよう説得する。
解放され、服のよれよれをピシッと直した獣人に向かって、本当に知らないのかと問う。
すると獣人は開き直ってこう言う。
「私はちゃんと渡していましたよ。 だいたいこんなガキ一人の言うことと、長年務めてきた私、どちらを信用するかなど...目に見えているじゃないですか?」
「そう......ですか」
リペは涙を浮かべ、俺の方に寄って来ようとした時だった。
猿の獣人は突如息苦しそうに顔色を悪くし、膝を着く。
その苦しさもだんだん増していき、テペウスやリペは何が起きているのかも分からなかった。
「最後にもう一度聞きますね。本当に渡していましたか?」
彼は至って笑顔だったが、どことなく恐ろしさを感じてしまう。
現に目の前にいる獣人は苦しさのあまりか、涙を浮かべ、顔は真っ赤である。
「ぐるし...しぬ! わかっ...た! いう! ちゃん...と...離す!!」
すると今までの苦しさが嘘のように消え去る。
息を荒らげながらも、獣人はついに白状する。
「渡してない...」
「ん? そんな小さな声じゃ聞こえないぞ?」
「渡してない!! 全て横に流していた。だが私一人ではない!」
どうやら複数人で分け合っていたらしく、他にもいるそうだ。
しかし、お金に困っているような様子も感じないので、おそらく金銭感覚が狂っているのだろう。
すると後ろで見ていたテペウスが、目の前の罪人を縄で縛りあげる。
「すまないが少年。ここからは私が何とかする。後は解体屋にでも戻って、二人で美味しく食べていてくれ! 後ほど謝罪とブラックボアの件で向かう」
「わかりました。後は...頼みましたよ」
そう言う笑顔の裏側にも背筋が凍るような鋭い圧を感じられる。
テペウスは苦笑いでその場を凌ぐが、次はないのだろう。
リペを連れて解体屋へと戻っていく少年。
それを尻目にテペウスはこう呟く。
「やはりあの少年一体...何者なんだ......」
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