喪失者
第46話〜喪失者〜
目が覚めるとそこは敷物のないベッドの上で、体のそこら中が痛かった。
辺りを見渡すが、ここはどこなのだろうか...。
記憶を遡ろうとすると頭が痛くなり、何も思い出せない。
「う、うう...」
頭が割れそうだ。
痛みが引くどころか、どんどん増していき、ついには壊れそうだ。
すると、誰かが優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫...ですか? 頭が痛いの...ですか?」
そう言われ目の前に視線を移す。
そこには、ピンと立った大きな耳に、淡い桃色の髪、小柄で元気な表情で笑う少女がいた。
何故だろう、彼女を見ていると、無性に心が締め付けられ、苦しい。
分からない。
分からない...。
分からない......。
するといつの間にか、少女の頭を撫で、涙を流していた。
自分が何者で、なぜここにいるのかも分からない。
大切な人がいた気がする。
しかし、そんな記憶もなく、ただ泣き出すことしかできなかった。
「うう......」
「お、お兄さん、泣いてるの? え、えっと...どこか痛むのかな?」
少女も困った表情をしてしまう。
子どものように泣く彼を、どうにかして泣き止まそうと頑張っていた。
その後、泣き止んだ彼に村長は言葉をかける。
「少年...名はなんて言うんだ? 私はこの獣人の村の村長、テペウスだ」
「分からない...」
「うーむ、記憶がないのか?」
「はい...」
「そうか、ではここが聖王国領であることも知らぬであろう」
「聖王国領?」
彼から話を聞くと、ここは聖王国領の端くれらしい。
聖王国と言えば宗教思想の強い国で、特に獣人亜人には忌避感が強い。
そのため、獣人たちは聖王国領からは弾圧され、今に至る。
しかし、その扱いを憎んだ獣人や亜人たちは協力し、聖王国と戦争をしているそうだ。
ここは隠れ家のようなもので、戦線ともかけ離れており、獣人亜人たちは裕福ではないが、明るく暮らしているらしい。
そこで流れ者として拾われた俺を、怪しんでいることも伝えられる。
「流れ者と称して、スパイを送り込んでくることもある。それに住人の中には人間を恨む者もいる。そうやすやすと、自由にはできんぞ」
「別に構わない。ここに居ていいなら感謝しかない。ただ...」
「ただ?」
「彼女に恩返しがしたいんだ。できれば彼女の近くに置いてほしい」
そう言って指さしたのは先程の少女だった。
驚いた表情をする村長と、ニヤニヤとにやけるオババ。
村長は顎に手を当て、考え込む。
「うーむ、リペ! この者がお前と一緒にいたいそうだが、構わないか? 我々としてもお前が見てくれるなら安心できる」
「私ぃ? 別にいいよー!! だって私が見つけたんだし、どうせ一人暮しだからか...」
そう言う少女の表情は悲しそうだった。
俺は立ち上がると少しフラつくが、だいぶ回復したようだった。
「もう動いて大丈夫なの、お兄さん? 」
「体は大丈夫かな...」
「オババ! 大丈夫なの?」
「傷はなくなってるからねぇ。おそらく大丈夫じゃが、無理はせんようにな」
「そっかー! じゃあお兄さん...そういえば名前は?」
「分からないな。今は記憶がごっそり持ってかれて、何も思い出せないんだ」
「そっかー...それじゃあ名前つけてあげる! えーっとねー.......じーく、ジークなんてどう?」
「ジーク?」
「そう! 私が好きな物語の主人公の名前なんだー! 」
「うん、いい名前だね...。思い出すまではジークでいるよ」
「よろしくね、ジーク!! あっ、私はリペだよ!」
「よろしく...リペ」
そう言うと少女はおもむろに手を取り、外へと連れて行こうとする。
しかし、オババに捕まってしまい俺は一旦、風呂へと入れられた。
その後は服などを貰い、また許可証代わりのペンダントを受け取った。
何から何までしてもらうのは、少し恥ずかしく感じたが、甘えてしまう自分がいるのもまた事実。
「おーい、ジーク!! こっちだよー!!!」
大きな声で呼んでいるのはリペだった。
急いで向かうと、リペはおもむろに手を取って街中へと走り出す。
街中へ出れば、獣人亜人が血気盛んに商売をしていた。
しかし街中で、リペについて行っていると、横を通る獣人や亜人からは嫌な目を向けられる。
なぜだが分からないがこの感覚は初めてではない気がする。
「おい、アレ見ろよ。孤児のリペと人間だぞ」
「確かに害はないそうだがな...」
そう呟く声が聞こえてきた。
中には馬鹿にする者もいた。
やはり人間に恨みを持っているというのは本当なんだろう。
しかし、リペはそんなものは慣れた様子で俺をグイグイ連れて行く。
そして着いた場所は街中よりもかなり離れた橋にある小屋のような場所だった。
「ここが私のお家だよ! ちょっと狭いかもしれないけど我慢してねー!!」
そう言ってリペは小屋のドアを開き、俺を招き入れてくれた。
中は普通の木造でできており、ほのかに木の香りがする。
家具も椅子が二つとテーブル、そして毛布のような大きめの布が二枚あるだけと、とてもシンプルだった。
「ねえ?」
「ん? どうしたのジーク」
「なんで君は俺を助けてくれたの?」
そう言うと彼女は一瞬黙り込んでしまうがすぐにこう答えた。
「私はお姉ちゃんみたいに、正義の味方になりたいの! だからね! 困ってる人を助けたいんだー!」
「姉がいるのか?」
「うん! 今は戦線の方にいるから会えないけど自慢のお姉ちゃんなんだー!! 私もお姉ちゃんみたいに強くなりたいよ...」
「そっか...」
彼女の表情からは、どれだけ姉を愛しているかが伝わってきた。
そんな中、急に腹の音が鳴り響く。
「へへー、なんかお腹すいてきちゃった! 何か食べようよジーク」
そう言って奥の方に行き、黒いパンと小さな干し肉を数枚持ってくる。
どう考えても食べ盛りの彼女には足りない量だった。
「ねえ、この近くに森ってモンスターはいるの?」
「へ!? モンスター....うーん、この近くの森は禁忌の森って言われてて、魔力が多いから強いモンスターしかいないよ。でも急にそんなこと聞いてどうしたの?」
「じゃあ、ちょっと待ってて。狩りに行ってくる」
「へ!? ちょっ!!」
そう言った頃には既に彼の姿が見当たらない。
待つこと数分、出入口のドアがノックされる。
「お待たせ、取ってきたよ」
「へ!? まだ数分しかたってませんよ? 」
不思議に思いながらもドアを開けるとそこには、巨大な猪を引っ張る少年の姿があった。
体長はおそらく四メートルは優に超えているだろう。
「ぇぇぇぇええええええええええええ!!!」
「ん? どうしたの? あっ、もしかして狩っちゃだめだったとか?」
「いやいやいや、心配する場所そこですか!? 狩っていいとかじゃなくて、どうやってこれを...」
「あー、なんか森に入ったらたまたま見つけて...そしたら俺を見るや否や逃げてくんだよ。だから急いで追いかけてギュッとしたら......動かなくなった」
「えっ、ギュッと!? あー、もう! 全然分かりませんけど!」
そう言う彼女だったが、なんやかんや納得してくれたようで、解体屋を案内してくれた。
解体屋に持っていく途中もそうだったが、周囲の動揺が伝わってきた。
もちろん解体屋の店主も最初は驚いていたが、次第に職業魂に火がつき、快く解体をしてくれた。
「こんだけ綺麗な獲物は久しぶりで、腕が鳴るぜ!! それにしてもどうやって倒したんだ? 」
「えーっと......首の方をクキッとしました。意外と誰でもできますよ」
「あれ? さっきはギュッとじゃなかったですか? それから、ブラックボアを狩れる人なんてここらにいませんよ」
そう言ってリペは疑いの目を向けてくるが、特にそれ以上は追求してこなかった。
それは俺が流れ者だからなのか、それとも記憶を失っているからなのかは分からない。
どちらにせよ、気を使わせてしまっているのは肉薄だった。
店主の解体を生で見ながらも、ブラックボアの肉は綺麗な紅色をしており、食えそうだった。
そうして解体を待つ中、再びあの男がこちらへと向かっていた。
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