謝罪
第37話〜謝罪〜
暗くて寒い、誰もいない場所...それだけで人は恐怖にすら感じるだろう。
だが彼はそんな状況にも慣れてしまったのか、それとも元々慣れていたのかは定かではない。
時間の流れすらわからず、ただ一人うずくまるようにしてその場から目を逸らしていた。
いや、逸らさずにはいられなかった。
これが夢なのか、それとも現実なのかもわからない。
毎度そのまま何もわからないままで目覚めがきてしまう。
学園の内側〜保健室〜
「う、うう...」
目が覚めるとベッドの上に寝かされていた。
服は軽い物に着替えされており、また左腕には赤い液体の入った管が刺さっていた。
ゆっくり起き上がるが急な頭の痛みに襲われ、少し怯んでしまう。
「いっっっってええええ!!」
かつてない程の痛みで驚いてしまった。
俺が大きく声を上げると、廊下からはドタドタと激しい音がし始める。
「よ、ヨグ様ぁ〜〜!!」
最初に入ってきたのは天使......ではなくリリィーだった。
彼女はおもむろに抱きついてきて、大粒の涙をダラダラ流している。
続いてスイレンやウルト、スレイまでもが部屋やってきては「大丈夫か?」と聞いてくるため、俺は笑いながら「もう大丈夫だ」と返してやった。
どうやら意外と俺が元気だったのか、皆は疲れたようにため息を吐いていた。
「ヨグ、元気になったかい?」
その声を聞いた俺はまさかなと思いつつも、ドアの方へと目をやる。
するとそこにはあら不思議、王城から出られないはずのメリーヌがいたのです。
「な、なぜメリーヌがここにいるんだ!?」
「あはは、お父様に頼んで連れてきてもらったんだよ。でも僕、君に会えるからっておめかしまでして来たのに...飛んだ災難だったね」
涼しげに怒っている様子のメリーヌだったが、確かに言われてみれば彼女はいつもとは違い、透明感のある高そうなドレスを身につけていた。
「そっか、でもありがとうメリーヌ。いつもに増して綺麗だ」
「......そ、そうかい? それなら僕もおめかしした甲斐があったかな」
そう言うと彼女は少し頬を緩めながらも赤くなる。
しかしリリィーやスイレンは何故かムッとした表情をしていた。
そんな中、廊下から王様と校長が部屋に入ってきた。
「ヨグ君大丈夫かい? 貴族同士の小競り合いに巻き込まれて頭を打ったらしいじゃないか」
「へ? 確かスイレンを庇ったら腕を刺されて...それで...」
「......さ、ササレタの...?」
俺がそう言うとメリーヌの様子がおかしくなり、スイレンは青ざめた顔をしてそっぽを向いていた。
「ねえ? スイレン嬢、僕が聞いていた話と違うようだけど...どういうことかな?」
メリーヌの笑顔には怒りが隠れており、スイレンは必死に弁明していた。
どうやら俺は盛大に地雷を踏み抜いたようだった。
なんでも少し考えればわかる事だ。
彼女の性格上、義理堅くそして独占欲が強いため、大切な騎士を傷つけられればさすがに黙ってはいられないだろう。
「あの伯爵家とかいう女がやったの? ねえ、スイレン...答えて?」
メリーヌからは殺気立った雰囲気を醸し出していた。
「お、おお落ち着いてくださいメリーヌ様! 決して騙すつもりはありません。しかし......その......」
スイレンが俺の方を見て助けを求めていたので、一応フォローを入れておく。
「メリーヌ、これは俺が庇ったのが原因だから仕方ないよ! それにせっかく綺麗な格好なのに、怒った顔していたら台無しになっちゃうよ。やっぱり笑顔が好きだし...」
「そう...ヨグがそう言うなら僕はもう構わないよ。あっ、そうだ! それよりもせっかく学園に来たんだ。ヨグの体調次第だけど案内してほしいなー......でも無理はダメだよ」
「ええ、それくらいならいくらでも大丈夫ですよ! 少し待っていてください」
そう言ってベッドから立ち上がると一瞬立ちくらみが起きるが問題ないだろう。
その後、輸血を終えた俺は急いでメリーヌの所へ向かった。
またスイレンたちは「天使の羽衣」の片付けをするため教室へと戻ると言っていた。
ようやくメリーヌの元へと着くと、そこにはリリィーの姿もあった。
リリィーは制服へと着替えており、「レッドキラー」を髪飾りとして身につけていた。
またメリーヌの髪の「ブルーキラー」と相まってか、二人ともとても煌びやかに見えた。
「お待たせ! ちょっと輸血に時間がかかちゃって...そういえばリリィーはどうしてここに?」
「ああ、僕の護衛に彼女を選んだんだ。ついでに将来の話をしておきたかったからね」
「はいヨグ様! そう言うことなので私もついて行きますよ!」
そう言って二人は俺の手を取り、ギュッと握りしめる。
半ば動きが取れないまま引きずられるように、運ばれるのであった。
「あの〜......」
「何かな、ヨグ」
「どうかしましたか? ヨグ様」
「いや、その......なんか近くないでしょうか? それに手が痺れてきたと言うか......それにほら、二人は女の子だし......」
「アハハ、ダメだよ! それならリリィー君に言えばいいじゃないか? 私と君はこういう関係じゃないか」
「私はヨグ様の従者なのでこれくらい普通ですよ。それよりも王女様の方が近すぎるのではないでしょうか?」
目の前でバチバチに牽制し合っているが、二人とも笑顔なのがまた怖い。
ヨグはそんな二人の中心で怯えていた。
「ん? あれは...」
不意にメリーヌは前にいた集団に向かって言葉を漏らした。
目の前には王子が大量の女子生徒を連れて廊下を歩いていた。
相変わらずと言えば相変わらずだが「セリス」とは一緒にいないため、ちゃんと約束は守っているようだった。
「ん?...め、メリーヌ!? なぜお前がここに!?」
王子は俺を見るや否や、少し嫌な表情をするがメリーヌを見た途端驚きの表情に変わる。
「別に僕がどこにいようが、君には関係のないことだろ? それよりも僕は今、人生で一番幸せな時間を過ごしているんだ。邪魔するなら、容赦はしないよ?」
そう辛辣に言い放つメリーヌはまるで汚物でも見るかのような表情をしていた。
「そんなことを聞いているのではない! お前はあの庭から出られなかったのではないのか? それに父上や母上がどれだけ心配して...」
「いい加減にしてくれないかな、レイル! 僕はヨグとの時間を楽しみたいんだ! さっさと消えてくれないかな?」
彼女はそう言うとヨグの腕を引っ張ってその場を後にしようとする。
「転校生...いや、ヨグ・ランスロット、この間の決闘での一件本当にすまなかった。今更なんと言おうが信じられないだろうが、お前の従者をバカにする気はなかった。本意ではないとはいえ、あの場で失言してしまったことを許してほしい」
王子はそう言うと難なく頭を下げて見せた。
本来の立場からすればその行動は絶対しないだろうが、廃嫡され地位を失った今、彼を縛り付けるものはなくなったのだ。
その様子を周りの生徒たちも見ており時折、「すばらしい」とか「まさに王子」と言って自分たちが王子側であるかのように主張する。
逆にヨグを見るや否や、「騎士の風上にも置けない奴」とか「殿下に向かって無視をするなんて生意気」と良くは思われていなさそうだった。
その間にもずっと頭を下げ続ける王子。
俺も一応、最低限の受け答えをする。
「殿下、貴方がどう思われようと、それは貴方の勝手です。ですが俺からすれば貴方の信用は地に落ちた。一度失ったものは簡単には戻らない。なのでこれからは期待していますよ...殿下。もう二度と失望させないよう頑張ってください」
ヨグがそう言うと「ああ、わかった」とだけ言って頭をあげる。
その表情は初めて会った時よりもいい顔をしていた。
もしこれで王子が良くなってくれるのであれば、周りの評価が下がった分の釣り合いくらいはあるだろう。
するとそこへ一人の男子生徒が走ってくる。
「レイル様! 大変です! レイト様が大怪我をして.....」
「な、なに!? 大怪我だと!? わかったすぐに行く! それじゃあ邪魔をしてすまなかったな、ヨグ」
そう言って二人は足早にその場から抜け出していく。
少し嫌な予感がしてたまらなかった。
すると俺のその様子を見ていたリリィーとメリーヌはどうやら感じとったのだろう。
リリィーやメリーヌはため息をつきながらも、どこか嬉しそうにお互い顔を見合わせる。
二人とも俺の性格を良く理解している。
「ごめんメリーヌ......俺......」
「君の性格くらいわかってるよ。ちょっと嫌だけど、君のそう言う優しいとこに私は惹かれたんだ。ほら先に行くといいよ」
どうも俺は心配性なのかそれともお節介かもしれないが、助けたいと思ってしまったのである。
廊下を走っている最中、俺はニーズヘッグに治療の用意を頼んでおく。
もしかしたら万が一の時があるかもしれないからだ。
それに今朝のことからニーズヘッグは余計に過保護になってしまった。
俺が怪我をしたと聞いて警戒心を強めたのだろう。
なんだかんだで保健室へと戻ってくると既にドアは開いており、そこには王子とスイレン、そして一部の関係者がいた。
「...ん! ヨグ、いいところにきた! すまないが手を貸してくれないか?」
スイレンがこちらに気づき、俺は半ば強制的に部屋へと押し込まれる。
目の前には包帯でぐるぐる巻きにされたレイトの姿があった。
それに脇腹からは、止血されているものの血が流れている。
「ニーズヘッグできるか?」
(できるもなにも全て元通りにしてご覧に入れましょう)
ニーズヘッグはそう言って、俺に手でレイトに触れるよう指示してくる。
触れた箇所からは緑色の波動のようなものが流れ初めて、回復魔法が施されていく。
ものの数秒でその傷の全てが完治した。
「こ、これは......すごい回復魔法だ」
王子や他の生徒たちはみな驚いていたが、スイレンはホッとしたようにため息をついていた。
何がったかはわかないが、この学園は物騒過ぎて、怖くなってきた。
レイトの目が覚めると王子の表情は笑顔に戻っていた。
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