扉と鍵
第36話〜扉と鍵〜
「いらっしゃいませー! ようこそ天使の羽衣へ!!」
そうリリィーが、はみかみながら言った。
すると、ドア前に溜まっていた生徒たちは、男女問わず、口々に「可愛い」と叫んだ。
またスイレンもリリィーと同じようにすると、一部の生徒(概ね男子)が推しを前にしたオタクのような声をあげる。
ものの数分でテーブルは満員になり、出し物ももうすぐなくなってしまいそうだった。
「これ美味い!! ああ、スイレン様こっちにおにぎり三つ追加出いただいても?」
「あっ、こっちには団子とお茶のおかわりをもらえるかしら!」
その注文を素早く聞き取り、そしてメモをしていく俺。
そのメモを頼りに出し物を準備し、なくなりそうなので調理も再開するスレイとウルト。
男子組三人は見た目こそ目立たないが着々と注文をこなしていた。
「スイレン様の特別団子をくださーい!!」
そう言う男子生徒たちの前にスイレンが団子をもっていく。
そして.....。
「え、えーっと......お、お待たせしました! 団子の三人前になります!」
スイレンは顔を真っ赤にしながらも団子にタレをかけていく。
見ているこっちは笑ってしまいそうだったがさすがに彼女が可哀想なので我慢する。
「それでは......ごゆっくりどうぞ! ご、ご主人様......」
「「「ふぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
辺りにいた男子たちの反応は、泣いて喜ぶ者や発狂する者、そして気絶する者など十人十色だ。
その反面学園の女子たちは一部騒いでいるが、そのほとんどが優雅にお茶をしていた。
しかし、そんな時間も束の間だった。
ドアが力いっぱい開けられ、入ってきたのは一人の女子生徒だった。
その生徒の後ろには黒ずくめの男が二人おり、おそらく護衛だろう。
「へ〜、いいじゃない」
周りの生徒たちは、その女子生徒を見るや否やぞろぞろと帰って行ってしまう。
それにスイレンやスレイ、ウルトの様子がなんだか変だった。
それでもヨグは一人のお客様同様に挨拶をする。
「いらっしゃいませ! ようこそ天使の羽衣へ」
「ふーん、なんでもいいけどここはお茶一つでないの? まあ、私は落ち目のスイレンを見に来ただけだけど」
そう躊躇なく言って彼女は、ニヤリと笑ってスイレンの方を見た。
しかしスイレンはあからさまにそっぽを向いて無視をする。
「はーい! こちら緑茶になります!」
そう言ってリリィーは震えながらもカップを手渡すと、そのお茶を手に取りいきなりリリィーの頭からかけはじめる。
ポタポタと髪から緑茶を滴らせたまま、リリィーは茫然とした表情で固まってしまい、その場で立ち尽くしていた。
すると、女子生徒は不快な表情を露わにして甲高い声を上げた。
「おい、獣人風情が私の口に入れるものに触れるんじゃないわよ!! 本当に気持ち悪くて最悪ッ!!」
そう言う彼女にヨグは腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
しかしヨグが注意するよりも先にスイレンが女子生徒へと手を出していた。
女子生徒の顔を鷲掴み、スイレンは地面へと叩きつける。
「おイタはいけませんよ...お嬢様?」
普段とは変わらない喋り方だが、彼女の目は笑っておらず、逆に作り笑顔が怖く思える程だった。
地面から顔を上げた女子生徒の鼻からは血のようなものが出ており、叩きつけられた時の威力が相当のものであったことが窺える。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!! あんたはもう落ち目の公爵家なんだよ。 お家も相当権力がなくなって貴族会議でも発言が通らなくなったみたいじゃない! 本当にいいざまだわ!!」
ここぞとばかりに女子生徒は指を鳴らす。
すると後ろにいた護衛が前に出てきて、何かを取り出し、それをスイレンに向けた。
「さっきはよくもこの私に怪我をさせたわね! 今のあんたになら、倍で返してあげられるわ!」
護衛がスイレンに突き付けたのは、小型の鋭い刃物で彼女に向かって思いっきり振り下ろされる。
しかし、ヨグが身を呈して守ったため、スイレンに刃物が届くことはなかった。
ヨグの腕からは鮮やかな赤色ではなく、少し黒色の血がダラダラと零れる。
傷は浅いようだが、足元にはちょっとした血溜まりのようになっていた。
「ヨグ!」
「ヨグ様ぁ!!」
スイレンとリリィーが悲痛な叫び声を上げた。
しかしヨグの腕の傷はすでに治っており、血も流れていなかった。
「ああ、いってえなぁ!!」
「き、貴様! なぜ傷がない!!」
「もう治ったよ......そんな傷」
ヨグはそう言って立ち上がると黒ずくめの男たちを睨む。
その瞬間彼の魔力によって空気が張り詰め、息ができなくなる。
「う...うぐっ......」
「なっ、なにを......」
ヨグは右腕を黒ずくめの男たちの方へとあげる。
すると辺りに広がって来ていた魔力は一点へと集中していく。
息もできない苦しさから解放されたスイレンたちは咳き込む。
しかし、未だに魔力の中にいる黒ずくめの男二人と女子生徒は苦しさのあまりか白目を向き始める。
「う、うがあ......やめ......」
「ぐ、ぐるし......」
しかしヨグの魔力は止まることはなく、その周囲を収束させていく。
「ゲホっ、ゲホ...はぁー、は!? よ、ヨグ様これ以上はいけません!!」
突如体に抱きついてきた物体をヨグは最初無視していた。
しかし徐々に意識が戻ってきてその物体の正体に気がつく。
「り...リリィー......」
「は、はい! 私です!! リリィーです!!」
彼女の呼び声が心の奥底まで響いてくる。
閉じていた扉をこじ開けるように彼女の声が入ってくる。
まるで暗闇の中に一筋の閃光が走ったようだった。
「...」
「え、え!? よ、ヨグ様!!」
ヨグは一瞬笑顔になったが気絶しリリィーへともたれかかる。
そして教室のドアが開かれるとそこには学園の教職員たちとある人物が現れる。
「何があったのかな? せっかく僕が見に来たって言うのに...」
その姿を見たスイレンとリリィーは驚いてしまう。
本来ならばこんな場所へは絶対に来るはずがない人物だったからだ。
「待て待てメリーヌ、私たち王族がはしゃいでは周りに示しがつかないだろう?」
そう言って現れたのは現国王と第二王女メリーヌだった。
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