私と私
第32話〜私と私〜
学園の内側〜学生寮〜
あの食事会から一週間が経ち、その間これといって問題は起きていなかった。
しかし、一つだけ変わったことがある。
それはシニエスタが、聖女候補としてついに選ばれ、各地の教会へと呼ばれているのだ。
彼女は別れの際に、立派な聖女になって帰ってくると言っていたので、また会う時が楽しみだ。
それからシニエスタがいなくなったことで俺一人となった部屋には、校長先生の計らいでリリィーが部屋に引っ越してくることになった。
なんでも俺とリリィーが主従関係であるのにも関わらず、とても仲が良かったため、校長が他の生徒にも見習って欲しいと同じ部屋にしたそうだ。
リリィーが引っ越してくるので忙しくなると思っていたが、彼女の持ち物はほぼないため、今では何もなかったように、お風呂上がりの彼女の髪を櫛でとかしている。
彼女の綺麗な金髪は綺麗に輝きを放ち、櫛を入れる度にサラサラとして、簡単に整えることができた。
「えへへ、ヨグ様ぁ...そろそろ寝ますか?」
「そうだね! 明日も早いしもう寝ようか」
そう言うとリリィーはモゾモゾと布団の中へと入っていく。
もちろんこの部屋にはベッドが一つしかないため、俺はソファーで寝ようと思っている。
しかし、そんなことは彼女にお見通しのようだった。
「ヨグ様、私の体温でお布団暖かいですよ! 夜は冷えますがこれからは安心してください!」
「早く新しいベッド買わないとな...。このままじゃ、俺の身が持たないかもしれない」
「えっ! だ、ダメです! それだとヨグ様に合法的にくっつく...じゃなくて暖められないじゃないですか!」
「うーむ...確かに夜は冷えるし寒いけど! 俺とリリィーが一緒の部屋にいる状況を誰かに見られたら、確実にクラスの男子からボコボコされちゃうよ!」
そう、今や俺は王子一向を廃嫡させた者として学園中に知れ渡っている。
そのせいか、この一週間で王子派閥の人間からは怒りの目を向けられ、逆に王子派閥ではない奴からは羨望の眼差しを向けられるのだ。
また一部の貴族たちは俺をどうにかして取り込もうとしているようで、それらの対処はスイレンが行ってくれているため、今のところ実害は出ていない。
しかし、これから出ないとは言いきれないのが悔しいところでもあった。
「ニーズヘッグ、周囲の警戒ともしもの時は任せたよ」
「はい、マスター! 周囲の警戒は二十四時間怠らずに行います。それからいざと言う時のためのアイテムも制作中ですので、マスターとリリィー様の身の安全はお任せ下さい」
「ニーズヘッグがそこまでしてくれてるなら安心かな...。それじゃあ、二人ともおやすみ!」
「おやすみなさい、ヨグ様」
「良き睡眠をマスター...」
そう言って電気を消すと、部屋には月明かり以外の光が消え去る。
窓から入ってくる月明かりはとても明るかったが、寝る分には邪魔にならなかった。
それにしてもこの世界の夜はよく冷えるものだ。
昼の時は真夏のように暑いのだが、夜は凍えるような寒さのため、シニエスタと寝ていた時は布団一枚じゃ物足りなかった。
しかし、今はリリィーが近くにいるのでそんな心配もする必要がない。
彼女の体温は人間よりも遥かに高く、それでいて暑すぎることもない。
例えるなら大きな湯たんぽを抱き抱えているような感じだ。
しかし、彼女の体には鱗がついているため触り心地はザラザラとしている。
そんな彼女は既に寝ており、出会った時のような怯えた表情など一切なかった。
その表情を見た事で俺も安心して寝ることができそうだ。
段々と意識が遠のいて、ついに俺も寝ることができた。
〜???〜
「おい、目を覚ませ竜騎...」
謎の声により、目が覚めるとそこは一度来たことのある場所だった。
辺りが真っ白で何もない世界。
そんな世界にたった一枚の鏡が浮かんでいる。
すると、先程の声の主が浮かんでいる鏡の中から現れる。
その姿は真っ黒な霧のようなものが集まり人型を作っていた。
「やっと気がついたか...」
「またこの場所か。そしてお前は...誰だ.....」
「別に俺が誰だってどうだっていいだろ? だって俺はお前で、お前は俺なんだからな!」
「何を言って...」
「まあ、今はそんなことどうだっていい。問題なのはお前が自分を見失わないことだ」
「俺が...見失う? 余計にわからないな。俺はちゃんと生きている」
「フンっ、そう言っていられるなら当分は大丈夫だろう。だがもしお前が自分を見失えばいづれ本物が現れる。所詮俺たちは作られたモノに過ぎないんだからな」
「だから何を言って...」
「おっと、もう時間のようだ。俺はもう消えるが、あとは頼んだぞ」
そう言って黒い霧は消え去り、俺は現実へと戻される。
飛び起きるように目を覚ますと、そこは昨日寝たベッドの上だった。
窓からは太陽が顔を出し、眩しく感じる。
しかし、先程まで見ていた夢?の内容が全く思い出せない。
なにか大切なことを言われたようにも感じるが、思い出せない以上お手上げだ。
布団をめくるとリリィーが顔をだす。
彼女はまだスヤスヤと寝ており、その顔からは幸福感が伝わってくる。
「よし! とりあえず今日も頑張るか!!」
俺はリリィーに布団をかぶせ、静かに起き上がる。
そして洗面台へと向かいお手洗いと洗顔を済ませ、朝食前なのでフルーツティーを作ろうとお湯を沸かす。
その間、紅茶の元を用意し買いだめしておいた果実を輪切りにして、お湯が沸いたところで紅茶の元を入れ濃いめに出す。
お湯が少し濃い茶色になったところで別容器に移しておいた果実の元へと注ぎ、少し蒸らしたら完成だ。
俺は作りたてのフルーツティーを啜りながら窓の外の景色を楽しんでいた。
青い空に輝く太陽、そして新しい朝を知らせるように鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「今日は...一段と空が綺麗だ......」
すると今度はリリィーが起きたようで、現れた彼女は目を擦りながらも、トロンとした表情をしていた。
「ほわぁー...おはようございます、ヨグ様ぁ〜」
「ああ、おはようリリィー。昨日はよく眠れたかい?」
「はい...久しぶりに落ち着いて寝られました!」
「そっか...なら良かった」
俺がそう言うと彼女はニコッと笑っていた。
そして彼女が顔を洗おうと洗面台へと行ってしまう。
静かすぎるほどの朝に浸りながら啜る紅茶は格別と言っていいほど美味しく感じる。
そんな時だった...。
「ッ!?」
突如俺は持っていたティーカップを地面へと落としてしまう。
その瞬間だけはスローモーションに感じるほど時間がゆっくりになり、ティーカップが地面に着いた瞬間に割れて飛び散る音が鮮明に聞こえてきた。
すると、どこからともなく蝉の鳴く声が耳鳴りのように聞こえてくる。
「あ、ああ...」
俺はその場で倒れ込み、頭を抱えながらうずくまる。
すると、頭の中には知らないはずの記憶が蘇ってくる。
同時に砂嵐のような歪な音が蝉の声と混ざり合うように聞こえてくる。
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俺には幼馴染と言うよりも、もはや家族と言っても過言ではない人がいた。
彼女と知り合ったのは親同士が知り合いで、それがきっかけで知り合うことになった。
その時はまだお互い一桁しか歳をとっていない子どもだった。
最初こそお互い親の後ろに隠れ、警戒心むき出しだったが、半年も過ぎればそれもなくなっていた。
なんならお互いのこともだいぶ理解していた。
彼女は生まれつき体が弱く、病気になりがちで外へ出て遊ぶのは年に数回が限界だった。
なので毎度俺が彼女の家へと出向いてその日あったことを全部話していた。
朝起きて何をしたとか、昼には何を食べたとか、彼女はそんなくだらない会話を何よりも楽しく聞いてくれた。
つまらない日常に花が咲いたように彼女は楽しそうだったのだ。
しかし...。
中学一年生の最初の夏だった。
夏と言うだけで暑く感じるのに、その日は炎天下で特に暑かった。
学校が昼前で終わり、校長の飽きるような長い話を聞き、やっと長期休暇が始まる。
俺は昼前の誰もいない帰り道を走りながら帰っていた。
蝉の鳴き声がうるさいほど聞こえてくる。
そんな中、もう何度見たか分からない道の角を曲がると、そこには彼女の家があるはずだったが、なぜだか人だかりができていた。
どうも皆さんこんにちはこんばんわ永久光です!
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