無駄な理想と無謀な決意
第28話〜無駄な理想と無謀な決意〜
「この俺を痛めつけるだと? 少し勝っただけで、調子にのるではない!!」
「しかし、左腕を失った貴方が今できることは、決闘を諦め負けを認めるか。それとも、その無駄な理想を追いかけ、無様な姿を晒すか。どちらにせよ、貴方に勝ち目はないということですよ」
「これは神聖な決闘だ! 例えどれだけ痛めつけられ、手足をもがれようと、俺は絶対に負けを認めぬぞ!」
「はあー、俺も相手が相手なので、怪我はさせたくないのですよ。何度も言いますが、貴方に勝ち目はない。そのご自慢の剣を使ったとて、俺に傷一つつけられないのですから」
「フンッ...鎧の性能で勝ちを掴めて楽しいか、転校生!」
王子の声は段々と怒り混じりになってきていた。
「ええ、それはもう最高でしたよ。あれだけ啖呵を切っていた貴方たちが、無様に負けていましたからね! あっ、でも良かったですね、殿下! だって鎧のせいで負けたって、言えるじゃないですか!」
「貴様ァ!! どれだけ侮辱するつもりだ!」
王子は怒りの限り、剣を押し当ててきた。
しかし、剣が受け止めると同時に、少し力を加えただけで、意図も簡単に砕け散った。
「あらら、最後の希望も見事に粉々ですね!」
「黙れ、黙れェ!! 貴様も貴族と言えど、所詮は脳を持たぬ獣と同じだな。そんな貴様などに、俺たちのことなど理解できぬだろう! なんて言ったって、貴様のようなやつは自由なのだからなァ!」
「自由...自由ですか? 貴方は王子という身分であれば、大抵のことはできたでしょう。それにお金にだって困らない。それだけ自由があって、何が自由じゃないんですか。 とんだ、ボンボンですね」
「これが自由なものか...。俺は結婚相手一人すら選べないんだ! これのどこが自由だと言うのだ!! こんな人生など...奴隷と変わらぬではないか! そう、貴様の奴隷と同じようにな!!」
その王子の放った言葉によって、俺の中の道徳は、容赦と言う二文字を切り捨てた。
それどころか、怒りが芽生え始める。
「奴隷...奴隷だと...。 殿下...知っていますか? 本当の地獄を見てきたやつの表情を。それはもう、少しでも手を離したら、消えてしまいそうな...そんな表情をしているんですよ。それなのに、無理に笑顔を作って、何事もなかったように平気な顔してるんです。...だから俺、決めたんです」
「な、何を言って...」
「彼女を馬鹿にするやつは許さないし、容赦もしないって。貴方のように自分を正当化する人間が、彼女たちを語るな...」
そう言うと、会場全体が静まり返り、また空気に流れが変わった。
観客席の従者クラスの方には、涙を流す生徒が多数いた。
やはり従者クラスにはリリィーと同じく、奴隷から従者へとなった者が、多少なりともいるのだろう。
「はぁー、そんなだからお遊びの恋愛だと気づけないのですよ、殿下」
「ふ、ふざけるな! 私とセリスは本気だ! 断じて遊びではない!!」
「今俺の言ったことを聞いてもそう言えるなら、貴方はやはり、世間知らずのボンボンでしかないんですよ」
「ええい! もう黙れ! 貴様のような獣風情の話しなど耳に入れたくもないわ!!」
王子は片腕だけしかないのにも関わらず、飛びかかってくる。
俺は逃げれないように王子の片腕を、がっちりと掴む。
「それでは最後に真面目な話しをしましょう、殿下。貴方がもし、あの女を選べば、貴方は、王位継承権の最大の支援者であるスイレン家からの支援がなくなることを意味します。そうなれば、貴方は王子という身でありながら、王位継承権を手放すことになり、最悪の場合、廃嫡もありえます。それでも貴方はあの女を選びますか?」
「何度も言わせるな...俺と彼女は本気だ。この関係のためなら地位など捨ててやるさ」
「フッ、そこまで言うのなら遠慮はしませんが、もう負けるので約束は守ってもらいますよ」
(マスター、相手パイロットの安全を確保しましたぁ! いつでもどうぞ!)
「それではお疲れ様です、殿下。竜の小咆哮!!」
「ぐあああああああああああああぁぁぁ!!!」
王子の機体は跡形もなく粉々になり、王子は地面へと倒れ込む。
そして、ナレーションが決闘の最後を知らせる。
「しょ、勝者...ヨグ・ランスロットォォオオオオ!!! 見事五連勝を果たし、最凶にして最強の竜騎兵だァ! 」
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決闘も終わり、俺は報告も兼ねてスイレンに会っていた。
相変わらずスイレンの横には、シニエスタの姿があり、またリリィーの姿も見える。
「リリィー!! ちゃんと勝ってきたよー!!」
「はい! お疲れ様です、ヨグ様!!」
そう言ってお互い抱きしめ合う。
「はあー、従者と仲が良いとは聞いていたが、ここまでいくと驚きものだな」
「皆さんが少し従者に厳しすぎるだけでは?」
「そうかもな...。それで殿下はどうなったのだ」
「安心してください! 機体は粉々に粉砕しましたが、殿下は気絶しているだけですよ!」
「ホッ、それならば安心したよ。それでは改めて、ヨグ...よく私のために勝ってくれた。ここからは私自身が決着をつけてくる」
そう言って彼女は、殿下のいる部屋へと向かっていった。
残ったのは俺とリリィーと、シニエスタの三人だったが、特に話すこともなく、お互い気まずい感じなってしまう。
何かないかと考えていると、一つ伝えそびれていたことを思い出した。
「あっ! そうだ、シニエスタに一個言ってないことあるんだった」
「へっ? 私に...ですか? なんでしょうか?」
「前にシニエスタが、お金に困ってるって言ってたから、ちょっと決闘の裏側で稼いでたんだ。まあ、言わば賭け事ってやつ」
「そ、そんな! 私のために危ないことはよしてください、ヨグさん!!」
シニエスタとしては怒っているのだろうが、どこかもっと怒られたいと言う気分になってしまうため、ダメ人間製造機ようであった。
「大丈夫ですよ! だって絶対勝ちの賭け事なんてやらなきゃ損ですから。ちなみに内容は、俺と王子一向の勝敗に応じた賭け事なんで、自分自身に全財産かけてやりましたよ! いやー、やっぱり俺に賭ける人なんて少ないですからね。そりゃあ、倍率は半端ないですよ」
「でも、そのお金はヨグさんが自分で稼いだお金ですから! やはり受け取れません」
「まあまあ、そんなこと言わずに! なんて言ったって、九百万ドラが何と...十倍の九千万ドラになったんですよ! 」
「きゅ、九千万!? 」
「はい! ですから一千万ドラくらいシニエスタに貸してあげます! 何と無利子で、期限も無期限です! さあ、どうでしょうか! これでシニエスタも聖女になれますよ!」
「う、うう、で、でも! やっぱり人のお金ですし...」
「うーむ、強情ですね...でももう貴方宛に入金してありますので、ちゃんと使ってくださいね!」
「え!? それじゃあ、最初から私に選択の道がないじゃないですか」
「はい! シニエスタの性格を見込んで、予めね。でも聖女になったらちゃんと返してもらいますよ!」
「...わかりました。 それではとびっきりのお返し、期待しててください、ヨグさん!」
そう言われ、俺は不意にも笑顔がこぼれてしまう。
「ええ、もちろん待ってますよ。貴方が聖女となる。その日まで...」
「ん? 今何か言いましたか?」
「いえ、独り言です。それよりも!! リリィーに甘えたい!」
「えへへ〜...甘えたいなら、いくらでもどうぞ、ヨグ様ぁ!」
そう言って彼女は自分から飛びつき、そして抱きしめてくれた。
すると、彼女は耳元でこう囁いた。
「ヨグ様...ありがとうございます。私のために怒ってくれて、そして守ってくれて...だから今......私...すごく...すごく!! 幸せです...」
その時に見せてくれた彼女の表情、その笑顔からは、彼女が本心から作り出したものだと感じられる。
俺もその時やっと、彼女から認められた気がした。
またーーそれ以上に、彼女をこれからも守っていくと心に刻んだ。
もう二度と失わぬように...。
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