Scene:16 ジョセフとその娘達(1)
いきなり自分達の記憶の中に再生されたアース族の壮大な歴史に、シャミル、キャミル、そしてメルザもしばらく言葉を発することができなかった。
「テラがアース族の母星だったなんて……」
テラ解放戦線のメンバーが聞くと、泣いて喜びそうな事実であった。
ロキが一歩足を前に出したことで、三人は歴史パノラマから引き戻された。
「バルハラ遺跡のある場所こそ、余らの宮殿があった場所だ」
「では、遺跡から聞こえていた声は?」
「余らの精神波を感受したのだ。ある一定程度より濃く、余らに似た遺伝子情報を持っているヒューマノイド種族であれば聞こえたはずだ」
「あなた方はこの空間から呼び掛けていたのですか?」
「そうだ。何、ちょっとしたコツさえ掴めれば、時空間を越えて意思を飛ばすことなど簡単だ。その体を飛ばすこともな」
「では、以前、私達が過去に飛ばされたのは、あなた方の仕業ですか?」
「そうだ。別の時空間にいた余らがお前達の力を利用したのだ」
「私達の力?」
「シャミルとキャミルよ。お前達は時空間を飛び越える力を本来的に持っている。もっともお前達が時空間移動をマスターするには長い時間を必要とするだろうがな」
「……」
「さて、長く、おしゃべりをしすぎたようだ。余らはそろそろあっちの時空間に行き、お前達の肉体に宿ることとしよう」
「そんなこと許すか!」
今度は、キャミルがロキに剣を打ち込んだ。しかし、メルザと同じように、ロキから手も触れられていないのに、後ろ向きに吹き飛んでしまった。
それを見て、メルザもロキに斬り付けたが、同じように吹き飛ばされてしまった。
「複製の貴様らが原本の余らに敵う訳がなかろう! 大人しくここで囚われているが良い!」
フレイアとロキの姿が霞んだと思うと、いきなり消えた。
後には、シャミル、キャミル、そしてメルザの三人が残された。
三人はしばらく無言で立ち尽くした。
「さあ、どうするかねえ」
メルザも為す術が見つからなかったようだ。
「闇雲に動いても意味が無い気がします」
「移動しても景色が変わりそうにないもんな」
シャミルとキャミルも周りを見渡しながら言った。
「しかし、さっきのロキとか言う奴は、シャミルさんとキャミルさんにも時空間を移動する力があると言っていたじゃないか?」
「そもそもそんなことをしたことがないですし、やり方も分かりません。マスターするには長い時間を要すると言ってましたし……」
「シャミル。とりあえず、意識をしてみたらどうだろう?」
キャミルが意外と明るい表情で言った。
「意識を?」
「そうだ。シャミルは、その秘めていた力を発動させた時、具体的に考えてはいなかったけど、そう意識をしたらできたみたいなことを言っていただろう?」
「はい」
「それだって、やり方なんて知らなくてもできたんだから、今回も何とかなるかもしれないぞ」
「……そうですね。ネガティブに考えていたら駄目ですね。何でも試してみないと何も始まりませんよね」
「そうだ。とりあえず、みんなで元の時空間に戻るように念じてみるか?」
「はい」
「……メルザもな」
今は、軍人と海賊という立場の違いを越えて協力すべき時であった。キャミルの言葉に、メルザもため息を吐いてうなづいた。
「分かったよ。他にできることは無さそうだしね」
シャミルが目を閉じて、胸の前で手を組んで、瞑想をするように神経を集中させると、キャミルとメルザも同じようにして目を閉じた。
シャミルの頭の中に不思議なイメージ映像が浮かんだ。自分達が立っている周りに無数のドアが現れ、それがゆっくりと回転していた。
そのドアの向こう側にはまた同じようなドアがあり、無数に枝分かれしている時空間の入口のような気がした。
「シャミル」
呼ばれたシャミルが目を開けてみると、キャミルがシャミルを見つめていた。
「たぶん、私達は同じイメージを見たんじゃないかと思う」
「ドアがありましたね」
キャミルとメルザは否定をしなかった。
「シャミルがドアを選んでくれ」
「えっ?」
「我々が、あいつらの言うところの『出来の良い複製』だとしたら、シャミルが一番出来が良いはずだ」
メルザも無言でうなづき、キャミルの考えに賛成をした。
「そうすると、元の時空に戻る道を見つけられる可能性が一番高いのは、やはりシャミルだ」
「シャミルさんが選んだ道を黙ってついて行くよ。仮に間違ったとしても文句なんか言わないからさ」
「キャミル……、メルザさん……」
シャミルがキャミルとメルザの顔を交互に見渡すと、二人は力強くうなづいた。
「分かりました。やってみます」
シャミルが再び目を閉じると、再び、ドアのイメージが浮かんできた。
自分達の周りを、メリーゴーランドのようにゆっくりと回転している無数のドアを見つめながら、いくつかのドアをやりすごした後、シャミルは、あるドアの前に進み出た。
大きく息を吐いてから、ドアノブを掴むと一気にドアを開いた。
周りの景色が、一瞬のうちに、白一色から緑色の幾何学模様に埋め尽くされた世界に変わった。
「ここは?」
「さあね。別の時空間に来たことは分かったけどね」
「誰かいる」
キャミルが見つめる先に視線をやると、遠くに人が立っているのが見えた。
「行ってみよう!」
三人がその人物を目掛けて駆けていくと、それが見覚えのある人物であることが分かり、三人は、すぐに足を止めた。
「どうして、ここに?」
立ったまま眠っているような人物はジョセフであった。




