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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
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Scene:05 とある人物からの探査依頼(2)

「シャミル・パレ・クルスです。こちらは副官のカーラ、そしてサーニャです」

 それぞれと握手を交わしたフレイドマール大将は、シャミル達に座るようにうながすと、自らもシャミル達に対面して座った。

 相手の肩書きに驚いている副官達だったが、シャミルは表情も変えずに、いつもの感じでフレイドマール大将に話し掛けた。

「師団長さんが直々(じきじき)にいらっしゃるとは思いませんでした。しかも背広姿で」

「ふふふふ、それだけ慎重に対応しているのです」

「慎重に対応されているという割には、ホテルで密談ですか?」

「ここは、軍直営のホテルなのです。軍人やその家族が利用するための福利厚生施設のようなものですから、身元の分かっていない者は入れません」

「そうだったのですか? それで、今回のご依頼内容は?」

「噂どおり、若くて美しいかたですが、ビジネスライクな対応が心地良いですな」

「恐れ入ります」

「惑星探検家のシャミルさんに依頼することですから、当然、惑星探査です」

「どちらの惑星でしょうか?」

「ここですよ」

「はい?」

「惑星アスガルドの探査です」

「ご冗談ですか?」

「いえいえ、冗談などではありません。首都惑星と言っても、連邦市民が住んでいない所も、人が住めない所もあります。そして、そのすべてが連邦政府の管理下にあるわけではありません」

「それはそうですね。連邦政府の活動に支障を来さないのであれば、首都惑星であっても、市民の自由な活動を監視したり、権利を侵害することは許されませんから」

「理解も速い。さすが、連邦アカデミーを首席で卒業されただけのことはある」

「あの、私に対する論評は省略していただけると嬉しいのですが……」

「これは失礼しました。『美しいすぎる探検家』の名に恥じない知性と美貌なので、私も触れざるを得ないのですよ」

 歯の浮くような台詞せりふであるが、紳士然しんしぜんとしたフレイドマール大将が言うと自然に聞こえた。

 照れて少し頬を染めているシャミルに、真剣な表情になったフレイドマール大将が上半身を近づけながら小さな声で話した。

「今回の依頼は、連邦の安全をおびやかそうという陰謀を未然に防ぐために必要なことなのです」

「フレイドマールさん。私は一介いっかいの惑星探検家であって、その手のご依頼は受けていませんし、受けても遂行すいこうすることは不可能だと思いますが?」

「何も不届き者を退治してくれというのではありません。探検家としても第一級の仕事をされていると噂の、あなたの腕を見込んでのことです」

「具体的にはどのような?」

「探査場所は、アスガルドの東経百五十五度、南緯七度付近の密林です」

 そこは、アスガルドの赤道付近に広がる広大な熱帯雨林地帯で、惑星アスガルドの酸素を潤沢に供給してくれている場所であった。惑星アスガルドには、当然のごとく、連邦政府やアスガルド共和国政府が所有する官有地も多くあったが、惑星全体の割合から言うと、ごくわずかであって、その他の大部分の地域は民有地であった。

 密林地帯であっても、どんな資源が眠っているかも分からなかったし、動物公園などとして観光地開発を目論もくろむ商人達が払い下げを受けてから、そのまま所有している土地もあった。

「そこは民有地なのですね?」

「そうです。所有者も、とりあえず持っているという状態ですが、ちゃんと探査の許可は取っています」

「探査して、何を見つけようとしているのですか?」

「理解しがたい考え方をする人間ですよ」

「どう言う意味でしょう?」

「シャミルさんは、テラ解放戦線という組織をご存じですかな?」

「申し訳ありません。存じ上げません」

「謝っていただく必要はありませんよ。そもそも、我々もその組織の存在を秘密にはしていませんが、積極的に広めてもいないですからな」

 フレイドマール大将は、更に前屈まえかがみになって、シャミル達の顔をのぞき込むようにしながらつぶやくように話した。

「テラ解放戦線とは、テラ族による連邦支配を目論もくろむ組織です」

「テラ族による連邦支配……ですか?」

「テラ族の中でも選民思想を持つ者がとなえている主張で、テラ族がヒューマノイド種族の中で、最も優秀であって、その優秀なテラ族が連邦を支配して、テラ族以外の種族は、その支配下に置かれることが、その種族にとっても幸福だというものです」

 実際に、三百を超える種族が共存共栄している銀河連邦において、その全人口の約十分の一をテラ族が占め、その繁殖力、生命力といった生物学的な優位のみでなく、政界や財界、その他の著名人に占めるテラ族の割合も突出しており、連邦の主力種族であることは疑いようが無かった。

 しかし、だからといって、テラ族が他の種族を支配すれば、もっと世の中が上手うまくいくという考え方がどこから出てくるのか、シャミルには理解できなかった。

「そんなのおかしいです! 意味が分かりません!」

「まあ、連邦では、思想の自由は保障されていますからな。テラ解放戦線本体は、革命を起こそうとしている非合法組織ですが、その息が掛かった政党もあって、表と裏の両面から活動をしているのです」

「……それで、今回の依頼とその組織の関係は?」

「テラ解放戦線の中にも派閥のようなものがあってですな。その中でも最強硬派の連中がテロをくわだてているという情報がもたらされたのです」

「テロを?」

「そうです。様々な兵器や武器をアスガルドの密林の中にある秘密拠点に備蓄しているというたれ込みがありましてな」

 首都惑星であるアスガルドでテロが起きると、人的被害もさることながら、連邦政府の機能が停止させられ、大混乱となる恐れが高い。

 シャミルは、思いも寄らなかった首都の状況に身震いした。

「その拠点がどこにあるのかを私が探査するということですか?」

「そうです。我々が動かず、探検家のあなたに依頼する理由は二つ」

 フレイドマール大将が人差し指を立てた。

「一つ目は、その情報がガセである可能性が捨てきれないことです。軍を動かすには莫大な費用が掛かります。本当かどうか分からない不確実な情報に基づいて軍を動かすと、国家予算の無駄遣いだと、政治家の皆さんから責められるものですからな」

「なるほど」

 フレイドマール大将は、シャミルがうなづいたのを見て、中指を併せて立てた。

「二つ目は、仮に情報が本当だとすると、連邦軍の中に協力者がいる可能性が高い。そうすると、いかに捜索規模を小さくしようと軍が動く以上、テロリスト達に摘発の計画が事前に漏れてしまうおそれがあることです。クーデター計画のような反乱騒擾はんらんそうじょうの計画は、首謀者を含めて根こそぎ摘発しなければ、何度でも起こってきますからね」

「探検家が探っていれば、そんな恐れはないということですね?」

「そうです。あなたの探査の結果、確かに拠点が存在していることが確認できたら、時期を見て、一気に叩く必要があるのです」

「具体的には、どのような探査の仕方をすることになるのでしょうか?」

「あなたは、密林の珍しい生き物を捕獲、調査に来た生物学者として、さきほどの地点付近の地上を綿密めんみつに調査していただきます」

「地上を綿密めんみつに?」

 普段、あまり歩くことのないカーラが思わず問い返した。

「心配はご無用です。探検用のエアバイクを貸し出しいたしますよ」

 フレイドマール大将の提案にカーラも安心した表情を浮かべた。

「いかがでしょう? お受けいただけますか?」

「フレイドマールさん、そんな秘密と思われるような話を聞いて、私が依頼を受けないと言ったら、どうなさるおつもりですか?」

「シャミルさんは、絶対依頼を受けていただけると思っています」

「買いかぶりすぎかもしれませんよ」

「いえいえ、論理的帰結ですよ」

「はい?」

「今回の作戦には、我が連邦宇宙軍のキャミル少佐にも加わってもらいます。確か、あなたとは姉妹でしたな?」

「キャミルから話を聞いてくれとお願いされたのは、だからなのですね」

「ええ、キャミル少佐も乗り気でしたよ」

 フレイドマール大将は、シャミルの心を見透かしているかのように冷たい微笑みを浮かべた。


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