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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
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Scene:02 エキュ・クレールとの再会

 イリアスの大気圏に突入したマーガナルム号は、海賊船を背負ったまま、姿勢を崩さずに降下していき、イリアスの宇宙港に着陸した。

 そのすぐ後に、アルヴァック号もその隣のエリアに着陸した。

「大気圏内を別の船を背負って降下するなんて、あの船の航海士は、かなりの航行技術を持っているみたいですね」

「ああ、さっきの砲撃も見事だったし、あの船の乗組員には、かなり訓練が行き届いているようだ」

 賞金稼ぎを毛嫌いしているカーラもそこは認めざるを得なかったようだ。

 シャミルと副官二人がアルヴァック号の搭乗ゲートから外に出ると、鎖で繋がれた手錠を掛けられた男達が、制服を着た男達から剣を突きつけられながら、マーガナルム号の搭乗ゲートからゾロゾロと出て来ていた。

「ほ~う。いつの間に船内を制圧したんだ?」

手際てぎわが良いにゃあ」

「あれですよ」

 シャミルが指差した先には、マーガナルム号の上に乗っている海賊船の船底に、マーガナルム号の上部から透明なパイプが繋がっていた。

「宇宙空間を航行中に、海賊船の船底に穴を開けて、あの乗り込みパイプを通って海賊船に乗り込み、制圧をしたのでしょう」

「へえ~、航行中にねえ」

 マーガナルム号を眺めながら話していたシャミル達に、マーガナルム号の搭乗ゲートから出て来た一人の男性が近づいて来た。

「……!」

 シャミルは、コト・クレールが激しく震えだしたことに気がついた。

 近づいて来ている男性に注目すると、その男性の左の二の腕には、青い石がはめ込まれている盾型の腕輪が付けられていた。

 その男性は、ウェーブが掛かった銀色の長髪に、やや緑がかった肌が特徴のウートガルズ族と思われ、隻眼せきがんのようで左目にアイパッチをしていた。身長は、カーラと同じくらいの長身であった。

 賞金稼ぎの割には豪華な刺繍ししゅうほどこされた提督用コートを羽織り、ズボンやブーツも高級な素材でできているようで、豪華客船の船長のように洗練された格好をしていた。

「先ほどはどうも」

 高級な格好そのままに、えらぶって傲岸ごうがんそうな態度で、シャミル達に挨拶をして来たが、シャミルの顔を見た男性は鼻の下を伸ばした。

「おやおや、これは、お若い船乗りがいらっしゃる。探査船とおっしゃったが?」

「そうです」

 シャミルが一歩前に出て答えた。

「貴殿は、どこの探検家のスタッフかな?」

「あ、あの、私が探検家をしています」

「えっ? ……名前は?」

「公認探査船アルヴァック号船長シャミル・パレ・クルスと申します」

「シャミル・……パレ・クルス! あ、あなたが?」

「は、はい」

 男性の態度が明らかに変わった。

 それまで、探検家チームのしたメンバーだと決めつけて見下みくだしていた相手が、今をときめく女性探検家シャミルだと分かった途端とたん愛想笑あいそわらいを浮かべた。

「お噂は、かねがねお聞きしております。いや、これは噂以上の美しさだ」

「あ、あの、……身に余るお言葉です」

「いやいや、こうやってじかにお会いするとまぶしい限りです」

 面と向かって褒められることに弱いシャミルは、連続賞賛攻撃に耐えられずにうつむいてしまった。カーラが、その間をもたせるように口を開いた。

「アタイは副官のカーラだ。こっちは同じく副官のサーニャ」

 二人は、揃って会釈をしたが、ヒューロキンの興味はシャミルにしかないようで、二人を一瞥いちべつしただけで、視線をシャミルに戻した。その視線は、目立たないようではあったが、シャミルの全身をめ回すように動いていた。

「御挨拶が遅れました。私は公認護衛船マーガナルム号船長のヒューロキンと申します」

 胸に手を当て、慇懃いんぎんにお辞儀じぎをしたヒューロキンに、シャミルもいつもどおり丁寧ていねいなお辞儀じぎを返した。

「よろしくお願いします」

 とても探検家には見えないシャミルの可憐かれん所作しょさにしばらく見とれていたヒューロキンであった。

「シャミル殿。こんな所で立ち話も何だ。食事でもしながら、いろいろとお話をおうかがいしたいのですが、時間はありますでしょうか?」

 左腕の腕輪のことについて問いただしたいと思ったシャミルだったが、訊きたいことは一つだけであり、食事をしながら話すほどの時間は必要無かった。

「えっと、あの、この後、依頼主の所に向かわなければいけないものですから」

 依頼主のハシムとは、まだ面談の時間まで決めてなかったから、実際、ヒューロキンと食事をする時間が無かった訳ではないが、このヒューロキンという男に心を許すべきではないという本能的な警報が心の中で鳴っていたシャミルは、ヒューロキンの申出を断った。

「そうですか。それは残念だ」

 ヒューロキンは本当に残念そうだった。

「でも、ヒューロキンさん」

「何でしょう?」

 シャミルから話を振られて、ヒューロキンは嬉しそうな顔に変わった。

「その左腕の腕輪、すごく素敵ですね」

「ああ、これですか? これは、私のお守りなんです」

「お守りですか? 大切なかたからのプレゼントなのでしょうか?」

「いやいや、そう言う訳ではありません。これには不思議な力があるようで、私を守ってくれるのです」

「不思議な力ですか?」

「興味がお有りでしたら、今度、シャミル殿の時間がある時にでも、ゆっくりとお話をさせていただきますが?」

 シャミルが食いついてきた話題を最大限に活用しようとするヒューロキンだったが、シャミルとしては、当面、エキュ・クレールの在処ありかが分かっただけで事足ことたり、今、ヒューロキンがどうやってエキュ・クレールを手に入れたのかを知る必要は無かった。

「あ、あの、あまり見たことのないデザインなので、どこのお店で買われたのだろうと思っただけですから」

「そ、そうですか」

 自分がいたえさにシャミルが食いついて来なかったことから意気消沈したヒューロキンの表情を見たシャミルは、あまりになくしすぎかなと気の毒になり、当たりさわりのない話題を振った。

「あの海賊達には賞金が掛けられていたのですか?」

「ええ、一万ヴァラナートほど」

「そんなにですか?」

「奴らは、このダルイン恒星系空域で幾度いくどとなく商船を襲っていた連中です。積荷を何度も強奪されたイリアスの商人と商船乗組員の遺族達が賞金を掛けていたのです」

「そうなのですか。それで連行されている海賊達は、これからどうなるのでしょう?」

「イリアスに駐留している連邦軍に引き渡します。その時に指名手配中の海賊であると軍が証明してくれたら、賞金を手にすることができるのです」

「それは、おめでとうございます。……と言えば、よろしいのでしょうか?」

 首をかしげながら言ったシャミルの姿が可愛かったようで、ヒューロキンは目尻を下げながら笑った。

「はははは。いや、本当に魅力的なかたですね。今日はあきらめますが、声を掛けていただければ、シャミル殿の元に、いつでも、どこからでもさんじましょうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「シャミル殿の連絡先を教えていただく訳にはまいりませんか?」

「あ、あの、どなたにもお教えしていないので」

 これは本当のことだった。シャミルに言い寄って来る男性は山ほどいたが、誰にも自分の連絡先を教えていなかった。シャミルの個人的なアドレスを知っている男性は、ハシムだけであった。

「かえすがえす残念です。シャミル殿は、探検家ギルドに加盟されていますか?」

「はい」

「では、探検家ギルドの掲示板にメッセージを入れておきます!」

「は、はあ」

 シャミルのつれない態度に気がつかないのか、会う気満々のヒューロキンであった。

「それでは、一旦いったん、船に戻らなければなりませんので、これで失礼いたします」

 シャミルは、再び、ヒューロキンに丁寧ていねいにお辞儀じぎをすると、回れ右をして、副官達と一緒に、アルヴァック号の搭乗ゲートに向かって歩き出した。

 しばらく歩いてから、カーラが後ろを振り向いたが、すぐに前に向き直った。

「あの野郎! まだ、こっちを見てやがるぜ」

「久しぶりに、なるべく一緒にいたくない男に会ったにゃあ」

 シャミルが感じていたストーカーしゅうのような不快感は、副官達も感じていたようだ。

 そして、コト・クレールの震えも、ヒューロキンから遠ざかるにつれて、明らかに小さくなっていった。

 ヒューロキンの左腕にあったのは、間違いなく、エキュ・クレールであることを確信したシャミルであった。


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