Scene:14 惑星軍情報部
惑星スヴァルトヘイムにある惑星軍情報部本部の一室。
レンドル大佐は、とある人物の執務室にいた。
執務机に座ったその人物に、何が面白いのか、にやけた顔のレンドル大佐が言った。
「今回、キャミル少佐達に渡した個人用端末は本当のゲーム用端末で、何ら特殊な装置を取り付けている訳ではありません。キャミル少佐が端末を専門家に調査させたとしても、何も出ません」
「さすが、抜かりは無いな」
「相手が相手ですからな。念には念を入れてです」
「確かに、とてつもない相手だ。思念だけでプログラムを書き換えるなど信じられん!」
「まったくです。シャミルには毎回驚かされます」
「いったい、どうやってプログラムを変えることができたのだ?」
「飽くまで想像ですが、実際に、サーバ上のプログラムデータを電子レベルで書き換えたのでしょう」
「どんな能力を使えば、そんなことができるんだ?」
「サイコキネシスだと思います」
「サイコキネシスでそんなことができるのか? しかも何万光年と離れた惑星にあるサーバに?」
「コンピュータプログラムも、所詮は、電子データの集合体です。サイコキネシスで物理的に電子配列を変えれば良いだけです。それに超能力に距離は関係ありません」
「ミクロの世界の対象物を見分けることができるのも超能力だと?」
「ええ、そうかもしれませんね」
「それで、脳波は?」
「最後に刺されるまでは正常値だったのですが、刺されてからの数分間は、測定不能でした」
「測定不能だと?」
「測定範囲を軽く超えていたようですな」
「そんなに強い脳波が」
「ヒューマノイドでは、あり得ない数値です」
「シャミルの脳は、どうなっているんだ?」
「さあ。しかし、これだけは言えます。今回、シャミルは、何ら補正アイテムを使わないで、その異常な脳波を出したということです」
「補正アイテム?」
「ええ。例えば、あの青い石が埋め込まれている剣やナイフの力を借りたものではないということです。同じように、シャミル達がリンドブルムアイズを手に入れていたとしても、それを持ち込むことができない仮想現実の世界でも超能力を発揮することができたということは、シャミルが元々持っていた能力だと考えざるを得ません」
「……いったい何者なんだ? シャミル・パレ・クルスは?」
「私なりに出した推論はあります」
「どういうことだ?」
「シャミル自身が『リンドブルムアイズ』ではないかということです」
「シャミル自身が?」
「シャミルは、惑星ブラギンで見せた巨大建造物の破壊や、今回の電子レベルの変更といった、マキシマムからミニマムまで、物質を自由に操れる能力を持っていると思われますが、彼女がそれを意識して行使しているようではありませんでした」
「うむ。この報告書に書かれているシャミルの言動から言って、そのようだな」
「はい。シャミルが自分の力の使い方を習得しているとは、まだ言えません。すると、彼女の本来的な力は、もっとすごいのかも、……そう、我々の想像を超えているほどかもしれません」
「……」
「このシャミルの力で、例えば、連邦軍の中枢コンピュータを思いのままに改変することができれば、軍を機能不全に陥らせることも、あるいは一瞬のうちに全軍を支配下に置くこともできますぞ」
「た、確かに」
「シャミルを思いのままに操ることができれば、つまり、シャミルを手に入れるということは、強大な力を手に入れたと同じことになるのでは?」
「強大な力……、まさしく、ジョセフが言っていた『リンドブルムアイズ』のことだ!」
「はい。シャミルを我が陣営に引き込めば、我らの計画は、大きく前進すると言って良いでしょう」
「テラ族でもあるシャミルであれば、説得力も増すだろう。しかし……」
男は少し考え込んでいたが、答えは出なかったようで、頭を上げるとレンドル大佐に言った。
「どうやってシャミルを我が陣営に?」
「そこが問題ですな。捕らえて洗脳するという手段もあり得ますが、洗脳の結果が、シャミルの能力にどう作用するか分かりませんからな」
「本人が自主的に、我々の主張に賛同してもらえるようにすることがベストだな」
「とりあえずは、それを目指しましょう」
「うむ。それも君に任せて良いのか?」
「そうですな。しかし、小夏と小梅の二人に襲わせたことで、私は、二人にとって決定的に怪しい人物になってしまいましたからなあ」
「では、どうするつもりだ?」
「それで、二人の前に出ることが憚られるほどは、私も小心者ではありません。まあ、私に引き続きお任せください」
「ふふふふ、さすが、面の皮の厚さでは、情報部で負ける者無しだな」
「しかし、こう見えて私は恥ずかしがり屋なのですよ。言いたいことの半分も言えないかもしれません。これからは、あなたにも一肌脱いでいただきましょうか?」
「ふふふふ、計画が前に進むのであれば、いくらでも協力しよう」
「ありがとうございます。では、早速」
レンドル大佐は、その人物に背を向け、ドアの前まで来ると立ち止まった。
「シャミルは、我らが先頭に立ち、勝利へと導いてくれる女神に、必ずやなってくれるでしょう」
振り返ったレンドル大佐の目には、その姿が見えているようであった。




