Scene:08 竜之目党
尾張に帰り、伽魅琉は、秀吉に謁見した。
「伽魅琉とやら! その武功、まことに天晴れじゃ! そちは我が家臣に収まる人材ではないのう。殿の直参になれるように、儂が推薦状を書いたので、これを持って、城に行くが良い!」
「はっ!」
「何じゃ、その姿勢は? 南蛮由来のものか?」
正座をしたまま、癖で敬礼をしてしまった伽魅琉であった。
「あっ、いえ、気になさらないでください」
秀吉邸から出て来た伽魅琉を、紗魅琉、小梅、小夏が待っていた。
「伽魅琉さん、どうでした?」
「殿の直参にするから城に行けと言われた」
「すごーい! ねえ、伽魅琉さん、私達もまだお城の中に入ったことないんです」
「そうなんですか」
「そこで、相談なんですけど、私達を家臣にしてもらえませんか?」
「家臣?」
「はい。家老以上の身分になると、自分の家臣団を持てるんです」
「家臣団とは何ですか?」
「他のゲームで言うところのギルドみたいなものですね」
他のゲームと言われても、普段、ゲームをしない紗魅琉と伽魅琉は、何のことか分からず、紗魅琉が実際に加盟している探検家ギルドのような、何らかの親睦団体というイメージを持った。
「要は、プレイヤー同士が集まって、助け合いながら色々とできるグループみたいなものですか?」
「そうです。それに家臣にしてもらえたら、家臣団の団長、つまり家老にくっついてお城にも入れるんです」
小夏と小梅の目的は、家老でないと入れないお城に入ることだったようだ。
「家臣団は、どうやって作るんだろう?」
「ステータス画面を確認してみてください。家老になったのなら、『家臣団を作る』というメニューができてないですか?」
伽魅琉がメニューを確認してみると、確かにそのメニューが追加されていた。
「これを押せば良いのか?」
伽魅琉が「はい」ボタンを押すと、「家臣団の名前を作成してください」というメッセージと入力メニューが表示された。
「家臣団の名前? 何と付ければ良いんだろう?」
「他人を侮辱するものや卑猥なもの以外は、特段の制限は無いみたいですよ」
「伽魅琉党とか?」
「いや、それはちょっと恥ずかしい」
自分の名前が出るのは照れくさかった伽魅琉が迷っているのを見て、紗魅琉が言った。
「『竜之目』っていかがですか?」
「あっ、何か格好いい!」
小夏達の賛同も得られて、伽魅琉を団長とする「竜之目党」が結成された。
伽魅琉は、紗魅琉と小夏、小梅の三人の党員とともに、清洲城に向かった。
清洲城に入った竜之目党の一行は、謁見の間に通された。
秀吉邸の謁見の間よりも格段に広い部屋には、全面に畳が敷かれ、一段高くなった正面には椅子が置かれており、そこから部屋の左右に数多くの侍が正座をして座っていた。どうやら全員がノンプレイヤーキャラクターのようだった。
その部屋の中間の位置に伽魅琉は座り、部屋の出入り口である襖の縁の外側に、家臣である紗魅琉と小梅、小夏が座った。
間もなく、小姓が「お出まし」の声を上げると、煌びやかな着物を着た人物が部屋の横から入って来て、椅子に座った。
ログインして最初に見た行軍で、馬上にいた人物であった。
「そちが伽魅琉か? 余が信長じゃ!」
「はっ!」
伽魅琉はあらかじめ小梅達から聞いていた作法どおり、両手をついて頭を下げた。
「この度の武勲、見事である! 我が家老に取り立てるゆえ、これからも存分にその実力を発揮せよ!」
「はっ!」
それだけ言うと、信長は部屋から出て行き、左右に控えていたノンプレイヤーキャラクターもいなくなった。
立ち上がった伽魅琉に、紗魅琉、小梅、小夏が近づいた。
「伽魅琉さん、おめでとうございます!」
小夏と小梅がお祝い言葉を掛けてくれたが、伽魅琉の表情は緩まなかった。
「どうもありがとう。でも、これからだ」
「そうですね。まずは、竜之目党の党員を増やす必要がありますね」
「党員の数が御前会議の発言力にも影響すると言うことだな?」
「ええ、早速、檄文を掲示板に貼り付けましょう!」
「今の状況を打破するために命を投げ出す決意がある者のみ集え!」
竜之目党の設立公約には、嘘を吐きたくないという伽魅琉の気持ちをそのまま表して、自己犠牲を強いることを明示したが、伽魅琉がマサカドを二十回近く倒したとの噂は、あっという間に全プレイヤーに広まっており、そんな勇者に続きたいという志を抱いたプレイヤーが集まってきて、伽魅琉の元には、竜之目党への加入申請が殺到してきた。
ゲーム内で傷付けば、リアルな痛みを感じることを知った上で、これほどの同士が集まってきてくれたことに、伽魅琉も少なからず感動をした。
竜之目党は、あっという間に家臣団の限界である百人にまで膨れあがった。
午前十時。
「あと二時間で御前会議が開かれるな」
「ええ、伽魅琉さんも出席できるはずです」
「しかし、どうやって他の家老達を説得すれば良いんだ?」
「私にお任せください、家老様」
紗魅琉からウィンクされながら「家老様」と呼ばれて、少し照れてしまった伽魅琉であった。




