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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-08 仮想現実の国盗り物語
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Scene:07 ダンジョン攻略

 結局、二人で抱き合うようにして寝た紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、次の日の早朝、清洲きよすの街で小夏と小梅と落ち合った。

伽魅琉キャミルさん。昨日、言っていたダンジョンの情報です」

 小夏から伽魅琉キャミルに送られたメールに添付されていたマップには、ダンジョンの情報が書き込まれていた。

「これを見ると、攻略済みの中では、出雲いずもの近くにあるダンジョンが獲得名声値が百となっている。未攻略で、最も困難だろうとされているのは、江戸の近くにあるダンジョンだな」

「江戸の近くにあるダンジョンには、マサカドという怨霊おんりょうモンスターが出てくるようなんですけど、とてつもなく強いらしいですよ」

「出雲のダンジョンに出るヤマタノオロチを倒したプレイヤーも、マサカドには手も足も出なかったという噂なんです」

「それは、かなり強そうですね」

「そうだな。でも、そうだとすると、得られる名声値は百よりも高いはずだ。懸けてみるだけのことはあるだろう」

「本当に挑戦するんですか?」

「ええ」

「でも、今は傷付いたら、本当に痛いんですよ?」

「元より承知ですよ」

 現実リアルでも命懸けの戦いをしている伽魅琉キャミルにとっては、何ら特別なことではなかった。

 一行は、小梅が提供した早籠券ワープチケットを使って、江戸の街まで行った。

 江戸の馬屋を出た紗魅琉シャミル達は、街に出てみた。

清洲きよすよりも小さな街ですね。でも、確か、戦国時代が終わった後には、日本の首都になる街ですよね?」

「厳密に言うと、ミカドがいる京都が首都のままで、江戸は、実質的な権力を握る幕府という軍事政権があった所なんですね」

「織田の殿様が幕府を開くのか?」

「史実では、今、尾張の東にある三河という領国を有している松平家康という大名が征夷大将軍になって幕府を開くみたいですね」

「そうなのか」

 などと話している間に、江戸の街の木戸番きどばんの所までやって来た。

「じゃあ、郊外に出るか?」

「はい」

 木戸番きどばんに話し掛けると、江戸の郊外フィールドに出た。

 ここも、プレイヤーズキラーが可能なゾーンで、また、ノンプレイヤーキャラクターから襲われる可能性もあった。

 目の前に小高い丘があり、直径三メートルほどの洞穴がぽっかりと開いていた。

「みんな、私のそばを離れないで」

 伽魅琉キャミルを筆頭に、四人でパーティを組み、洞穴の入口まで行くと、目の前がややかすんだようになり、ポップアップメニューが表示された。

『ここから先はダンジョンです。ダンジョン攻略を開始しますか?』

「さあ、行くぞ!」

 伽魅琉キャミルの呼び掛けに、紗魅琉シャミル達も無言でうなづいた。

 伽魅琉キャミルがメニューの「はい」ボタンを押すと、目の前がクリアとなり、奥に続く洞穴が、若干じゃっかんではあるが、明るくなった気がした。

「みんなは、少し後ろをついて来てくれ。紗魅琉シャミル、小梅さんと小夏さんを頼むぞ」

「分かりました。伽魅琉キャミルも気をつけて」

「痛みを伴うとはいえ、所詮しょせんはゲームだ。思い切り行く!」

 伽魅琉キャミルは刀を抜き、用心をしながら先に進んだ。その三メートルほど後ろを、紗魅琉シャミル、小梅、小夏の三人が固まって進んだ。

 前方の暗闇から何者かが歩いて来ている音がした。

 その後、間髪入れずに、伽魅琉キャミルに三人の鎧姿よろいすがたの武士が斬り掛かって来たが、伽魅琉キャミルは慌てることなく、それぞれを一刀の元に切り捨てた。

「やっぱり強い!」

 小梅達が感心したのもつかの間、前方からは、洞穴の幅一杯になって、大勢の敵が歩いて向かって来ていた。

 よく見ると、よろいのあちこちが破れ、体には二・三本の矢が刺さっており、その顔は髑髏どくろの幽霊武士であった。

 無数とも思える幽霊武士が、一斉に伽魅琉キャミルに襲い掛かって来たが、伽魅琉キャミルは、後ろにいる紗魅琉シャミル達の所に幽霊武士を行かせることなく、あっと言う間に全員を血祭りにあげた。

「さすが、伽魅琉キャミルさん!」

 後ろで応援しているだけだったが、鮮やかな伽魅琉キャミル剣捌けんさばきに、小梅と小夏も興奮状態であった。

 絶えたと思えば、また襲い掛かって来る幽霊武士を倒しながら、前に進むと、丁字路に出て来た。

「ラスボスにチャレンジした人の情報だと、ずっと、左に進めば良いみたいです」

 小梅の助言に従い、伽魅琉キャミルは左に折れた。

 その後、何度か丁字路または十字路に出たが、すべて左に折れ、また、波のように繰り返し襲って来る幽霊武士を倒しつつ進んで行くと、大きく開けた場所に出た。

 伽魅琉キャミルがその入口に立つと、その壁に並んで立てられていた蝋燭ろうそくが一斉にともり、全体が見渡せるようになった。

 そこは、直径五十メートル、高さは三十メートルほどの、ドーム状の広場になっており、正面には、鳥居とりいと神社のような小さな建物があった。

 紗魅琉シャミル達が伽魅琉キャミルに追いつくと、伽魅琉キャミルは前を向いたまま、紗魅琉シャミル達に言った。

「みんなは、ここで待っていてくれ」

伽魅琉キャミル、気をつけて」

 伽魅琉キャミルは、一人で広場の中に入って行った。

 広場のちょうど中心部まで来たところで、神社の前に巨大な影が現れた。

 幽霊武士と同じように所々(ところどころ)破れたよろいに、幾つか矢が刺さっていたが、その顔は髑髏どくろではなく、黒い散切ざんぎり頭に、下半分が黒髭くろひげおおわれている顔は憤怒ふんどの表情で、白目が無い目は赤く輝いていた。

われこそは新皇しんのうマサカドなり! 我が王国にあだなす者は誰なろうと許さん!」

 身長十メートルはあろうかという巨人は、これも全長三メートルはありそうな刀を抜き、伽魅琉キャミルに突き付けた。

 その体力レベルのゲージは千を示していた。

 一方の伽魅琉キャミルの体力レベルは五十でしかない。一撃でも攻撃を喰らったら、そこで終わりだ。

「お前には恨みは無いが、倒させてもらうぞ!」

 マサカドに向かって真っ直ぐに突進した伽魅琉キャミルが、急に進路を変え、右に走ったと思うと、今度は左に急転回して、マサカドの足元に近づいたが、マサカドは、その巨体からは思いも寄らぬほど素早すばやい動きで体を回転させ、足元にいた伽魅琉キャミルに刀を打ちつけた。

 伽魅琉キャミル咄嗟とっさに横っ飛びし、マサカドの剣をかわすと、側転そくてんして、体を立て直した。

 しかし、伽魅琉キャミルに息もつががさぬ速さで、マサカドの剣が伽魅琉キャミルの頭上に迫った。

 伽魅琉キャミルは、今度は後ろに飛び下がったが、伽魅琉キャミルの移動する先があらかじめ分かっているかのように、マサカドの巨大な刀が振り下ろされた。

 伽魅琉キャミルはマサカドに近づくことすらできずに、そのまわりを逃げ回るだけであった。

 伽魅琉キャミルは、一旦いったん、マサカドに背中を向けダッシュをし、五メートルほど距離を取ると、再び、マサカドの方に振り向いた。

伽魅琉キャミル! 無理をしないで!」

 紗魅琉シャミルが心配になり叫んだ。

「大丈夫だ! 私がただ逃げ回っていたと思っていたのか?」

「えっ?」

 伽魅琉キャミルは、今度は、真っ正面からマサカドに突進した。

 伽魅琉キャミルに向かってマサカドの刀が振り下ろされると、伽魅琉キャミルはわずかに横に移動してマサカドの刀をかわし、ひょいとその刀のみねに飛び乗り、そのままみねつばまで走り抜けると、跳躍ちょうやくしてマサカドの手首に刀を打ちつけた。

「ぐおおー!」

 不気味な叫び声を上げて、マサカドが後ずさりするようによろけた。

 見事に籠手こてがヒットしたが、マサカドの体力ゲージは、五十程度しか減少していなかった。

「あんなに綺麗に決まったのに、ダメージはたったあれだけ?」

 小梅と小夏も落胆らくたんの色を隠せなかった。

 しかし、伽魅琉キャミルは、そんなことを気にすることなく、マサカドが振り下ろした刀のすきを突いて、少しずつではあるが、マサカドにダメージを与えていた。

伽魅琉キャミルは、あのモンスターの攻撃パターンを読み取ったみたいです」

「えっ?」

「身長差のある伽魅琉キャミルに刀を打ち込むためには、地面を叩くほど下まで刀を振り下ろさなくてはなりません。つまり、それだけ、刀の振り幅が大きいのです」

「そうか! だから、あいつが刀を打ち込んだ時が、あいつに近づくことができる唯一のチャンスだと言うことなんですね?」

「ええ、最初に逃げ回っていた時に、そのことを分析したのです」

 そう言う紗魅琉シャミルも、ぼんやりと、伽魅琉キャミルの戦いを眺めていた訳ではなかった。

 伽魅琉キャミルが斬りつけた際のダメージが、その箇所によって大きく異なることに気がついていた。

伽魅琉キャミル! そのよろいで覆われた箇所はダメージが小さいです! よろしの無い箇所を攻撃した方が良いみたいです!」

「分かった!」

 正面にいた伽魅琉キャミルにマサカドの刀が振り下ろされたが、それを難無なんなくかわした伽魅琉キャミルが、高く跳躍ちょうやくして、マサカドの喉元のどもとに刀を突き付けようとすると、マサカドは、刀を持っていない左腕をのどの前に出して、それを防ごうとした。

 しかし、伽魅琉キャミルはその腕に飛び乗ると、再び小さく飛んで、逆手さかてに持った刀をマサカドの眉間みけんに突き刺した。

「ぎゃあああー!」

 度重たびかさなる伽魅琉キャミルの攻撃で、既に三分の一程度まで減少していたマサカドの体力ゲージが一気に零になると、マサカドの巨体は後ろ向きに倒れ、そのまま光の粒となって消えていった。

「やったあ!」

 小梅と小夏が飛び跳ねて自分のことのように喜んだ。

 いつもの伽魅琉キャミルを知っている紗魅琉シャミルは落ち着きながらも、満面の笑顔で伽魅琉キャミルに近づいた。

「お疲れ様でした」

「ああ、最初は戸惑とまどったけど、次第しだいに楽になってきたよ」

「楽に?」

「人工知能だから、最も効率的な攻撃をしてくるように計算されているけど、だからこそ、攻撃パターンが予測できるんだ。生身なまみのヒューマノイドだと、いわゆる思いつきとか、そもそも特段の考えもなく本能的に体が動く時があるから、そっちの方が予測できないだけに怖いんだよ」

「それより、伽魅琉キャミルさん! 名声はどうなりました?」

 小梅に訊かれて、本来の目的をすっかり忘れていた伽魅琉キャミルは、自分のステータス画面を開いてみると、これまで五十だった名声が一気に五百五十まで増加していた。

「え~、これだけ苦労したのに、五百なの? 一千くらい、くれたら良いのに」

「名声を一万にするには、あと十九回、こいつを倒せば良いんだな」

「簡単に言うけど、十九回もだよ!」

「いや、同じことを繰り返せば良いだけだ」

 その伽魅琉キャミルの言葉どおり、次からの戦いは、マサカドの動きのくせを知った伽魅琉キャミルが一方的に勝ちまくった。

 一度、ダンジョンの外に出て、再び、同じダンジョンに入り、同じモンスターを倒す、いわゆる「回し」と呼ばれる作業を十九回繰り返した伽魅琉キャミルの名声は一万五十となった。

 パーティを組んでいた紗魅琉シャミルや小夏達も、名声が五千に上がっていた。

「すごい! 本当にやっちゃったよ! 体力ゲージが五十しか無かったのに!」

「たった二時間で家老様になっちゃった!」

 あきれてしまっている小梅と小夏に伽魅琉キャミルが言った。

「さあ、尾張に帰ろう!」


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